(追記あり)東証プライム企業は「指名委員会等設置会社」に移行すべきか?
6月24日の「虎に翼」では、いよいよ寅ちゃんが裁判官(特例判事補)として活躍するシーンが出てきましたが、さっそく家裁(家事審判所)における遺言の検認審判の場が舞台となっています。ただ、法律家として若干気になるのが普通の遺言書ではなく「死亡危急時遺言」という(いかにも戦後まもない時期らしい)むずかしい遺言書が出てきちゃったことです。普通の自筆証書遺言だと思って開封してみると「死亡危急時遺言」(昭和22年改正民法976条1項)だったということで、そうなると検認審判は取り下げられて、利害関係人または証人から「遺言確認審判の申立て」(同条2項 遺言内容が本人の真意によるものかどうか確認する手続)がなされ、確認後に再度検認審判申立という流れになるはずです。もちろん真意であることが確認されただけであり、別途遺言無効を争うことは可能です。「検認」と「確認」は別手続ですが、明日以降、このあたりの流れがきちんとドラマで示されるのかどうか、どうしても気になります(^^;)。以下本題。
さて、6月21日に閣議決定された「骨太方針2024」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」は、経団連でも歓迎する旨のスピーチが出ておりましたが、そのうち「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂案」では「Ⅶ.資産運用立国の推進 1.資産運用立国実現プランの実行」として、企業および投資家に対して「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムのさらなる実践を求める」とされています。とりわけ、コーポレートガバナンス改革については「指名委員会等設置会社制度の運用実態の検証と改善検討を含め、継続して進める。」との記述がありました。
ちょっと気になる文言は、この「指名委員会等設置会社制度の運用実態の検証と改善検討」という部分です。これまで公的機関において、そのような検討についてはされていなかったように思うのですが、ひょっとして東証プライム企業には、今後(証券取引所ルールの改定によって)「指名委員会等設置会社への移行を求める可能性がある」ということでしょうか。
たしかに東証プライム企業の9割以上は任意の指名・報酬諮問委員会を設定しており、また複数の独立社外取締役(3分の1以上)を選任済みです。実際、3名から4名以上の社外取締役が存在するモニタリング型の取締役会を設置し、重要な業務執行権限を執行担当者に移譲している企業も多いので指名委員会等設置会社に移行するための「素地」は出来上がりつつあります。一方、監査等委員会設置会社においては、1500社を超える上場会社が移行したものの、いわゆる「監査等委員会の経営評価機能(個別取締役の指名および報酬に関する意見形成、意見陳述権の行使)」はほぼ機能していないというのが現実です。したがって東証プライム上場会社に限って指名委員会等設置会社への移行を促すということもあり得るのではと。
(6月25日追記)なお、事情に精通している某氏からご連絡を受けまして、「指名委員会等設置会社制度の運用実態検証、改善検討」の真意は、むしろ「使い勝手が悪い」ということが指摘されていることへの検証が中心、とのことのようです。したがって、直接的に東証プライム企業を指名委員会等設置会社に移行させよう、との推測は「はずれ」かもしれません。念のため。
昨年12月時点で指名委員会等設置会社は合計92社(プライム78社、スタンダード11社、グロース3社)ということで数はここ20年ほど全く増えていないにもかかわらず、平成26年会社法改正で誕生した「監査等委員会設置会社」へ移行した上場会社が1500社を超えているのは、ガバナンス改革に積極的な「フリ」ができる、つまり監査等委員会設置会社であれば構築可能な「なんちゃってモニタリングモデル」が、指名委員会等設置会社では構築できない、という事情があるからだと思います。法定の指名委員会、報酬委員会は過半数が社外取締役で構成されますので、企業としては移行することで「最後の砦」を社外取締役が多くを占める取締役会に明け渡すということになります。しかし、これぞ「取締役会改革の実質化」の姿ですし、次のアクションプログラムが目指す方向かもしれません。
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