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2024年6月28日 (金)

パナソニックHDの不正厳罰化方針と「不正調査2.0の時代」

一昨日のエントリーでは「(渦中にある)元大阪地検検事正だった方を社外役員に選任した、および選任予定の上場会社は(逮捕により)どうするのだろう?」と書きましたが、やはり各上場会社の動きは速かったようです。翌日に定時株主総会を控えていた会社は候補者から急遽はずす、という対応となり、逮捕当日に役員に選任した会社は、ご本人からの辞任の意向があったために(これを受けて、代わりに)補欠監査役の方が就任されるそうです。いずれも予想されたとおりですが、とりわけ「ご本人から辞任の意向があった」という点は特筆すべき点かと。

なお、私はといいますと本日(6月27日)、某社定時株主総会のお手伝いをして、個人的には今年の株主総会関連のお仕事は終わりました(昨年6月27日のドキドキ感のあるイベントのような総会に参加することもなく、ほぼ1時間で終了。危機対応とは無縁のまま事務局懇親会でランチをいただいて終わり)。たしか6月総会では91社ほどに株主提案がなされたと報じられていましたが、フタを開けてみると株主提案が(事実上)可決された会社、会社側提案が株主の反対によって否決された会社はほとんどなかったように思います。

さて、朝日新聞ニュース(6月27日)「パナソニックHDが点検で厳罰化方針 子会社の認証不正受け」なる有料記事を読みました。パナソニックHDの子会社が、米国の安全性認証を不正取得していた問題(同不正により、子会社に対する国際規格の認証は次々と取り消されている)を受けて、同HDのトップは、社員が不正を知りながら会社に申告しない場合も処分対象とする「厳罰化」の方針を明らかにしたそうです。いわゆる「見て見ぬふり」も不正として厳しい対応で臨む、とのこと。この「見て見ぬふりも厳罰ルール」は、かなり本気度の高い再発防止策だと私は認識しております。

私の本業である不正調査の実務においても、デジタルフォレンジックス調査によって「不正行為を疑わせる重要メールのccに執行役員が入っていた」「グループチャットのメンバーに某取締役も含まれていた」といった事実が把握されます。このような証拠をもってヒアリングを行いますが「毎日たくさんのメールがccで入ってくるのだから、目を通していないものもある(だから知らなかった)」「内部統制上、私が責任者だから、とりあえず名前だけグループメンバーに入っているにすぎない」と言われてしまえば、なかなか不正行為を認知していたこと(故意)を立証するのはむずかしい。さすがに調査報告書には厳しい判断は書けないですね。

しかし、社内ルールとして「見て見ぬふりも厳罰」ということが周知されるとなれば、役職員自身による自助努力、つまり「見て見ぬふりは許されないことを念頭においた社内コミュニケーションの方法」が浸透するはずです。そのうえで、上記のような疑惑を示すメールがフォレンジックス調査で見つかった場合、執行役員さんや取締役さんのほうで「私はccには入っていたが、知らなかった」もしくは「メールやチャットの内容は読んだが不正ではないと信じるについて合理的な理由があった」ということを示していただかないと「見て見ぬふりをしていた」との判断(事実上の推定)にならざるを得ないように思います。こうなりますと、品質不正事案の不正調査における「組織ぐるみ」「経営者関与」を認定するハードルが低くなりそうです。

デジタルフォレンジックス調査が当たり前の時代となり、そこに「不正を申告しない社員も厳罰に処する」というルールが(文書として)明確になれば、たとえ不祥事は発生したとしても早期発見・早期是正につながるのではないでしょうか。まさに不正調査2.0の時代です。

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