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2024年6月24日 (月)

鹿児島県警前部長のマスコミ情報提供は「公益通報」か?

6月22日の毎日新聞朝刊(東京版 社会面)に「鹿児島県警前部長を起訴-内部情報漏えいか公益通報か」なる記事が掲載されています。事件内容についてはこちらの毎日新聞有料記事をご覧いただきたいのですが、「隠ぺいを指示した」との疑念をもたれた鹿児島県警本部長は会見で指示した事実を否定し、内部情報をメディアに情報提供した前部長の行為については「公益通報にはあたらないと判断した」と述べていました。

この点、すでにメディアを中心に「メディアへの情報提供は公益通報にあたるのではないか」との議論がなされていますので、すこしだけ個人的な意見を述べさせていただきます。

公益通報者保護法は労働者だけでなく「公務員」(退職して1年未満の元公務員も含む)にも適用される、という建付けになっています。その前提で検討しますが、いわゆる3号通報(メディア等への外部公益通報)として、情報提供者が公益通報者保護法によって保護されるためには厳しい要件が求められるので、かなり保護されるためのハードルは高い。しかも現行法は7条で民事免責の効果は定められていますが、刑事免責に関する規定はありません(今後の法改正の課題です)。したがって、起訴の要否を判断するにあたり、そもそも「公益通報にあたるかどうか」といった議論をすることはあまり意味がないように思います。

ただ、公益通報にあたるかどうかは別にして、公益通報者保護法が存在しない頃から、一般法理として外部への情報提供が法的保護を受けるかどうかということは裁判でも争われてきました。つまり「公益通報」に該当しなくても、①提供事実の真実相当性、②情報提供の目的の公益性、③その手続き、態様の相当性が認められる場合には、法令違反行為の違法性が阻却され、結果として無罪となる可能性はあります。おそらく弁護人は公益通報者保護法の保護要件を立証するというよりも、このような一般法理に基づく違法性阻却事由の存在を立証することに注力するのではないかと。

なお、誰のどのような行為を通報するのか、明確ではない場合でも、たとえばすでに問題となっている行為を裏付ける情報(証拠文書)をメディアに提出する行為についても、今後は民事上も刑事上も公益通報者保護法もしくは一般法理によって保護されるべきです。たとえばオリンパス事件をFACTA誌で最初に暴いた山口義正記者も、最初の一報を読んだオリンパスの社員からの追加情報提供が決めてとなり、世間を騒がせた第二報につながったと述べています(「内部告発の時代」深町隆 山口義正著 47頁参照)。

山口氏が上記「内部告発の時代」でも述べているように内部告発は複数名で行わないとなかなか成功しないわけでして、そういう意味でも、有力な情報提供によって告発者を支援する者についても公益通報者に準じて保護されるべきです(EU公益通報者保護指令も保護の対象とすべき、としています)。ということで体裁だけで「公益通報性がない」との判断は、組織においても問題を残す可能性があります。

 

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