« 山口良忠判事について-われ判事の職にあり | トップページ | 週刊金融財政事情6月4日号に論稿を掲載していただきました。 »

2024年6月 4日 (火)

トヨタなど5社による認証不正事件で考える-型式指定不正は事前予防できるか?

ご承知のとおり、トヨタ自動車など5社で、車の大量生産に必要な「型式指定」の手続きを巡る認証不正があったことが各社社内調査によって判明したそうで、国交省の立入調査が始まりました(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。三菱自動車、スバル、日野、ダイハツ、織機等の型式指定不正を横目で見ながら同様の不正を続けていたことは極めて悪質のようにも思いますが、そんな単純なものでもないようです。6月3日午後5時から始まったトヨタ自動車会長さんの記者会見を冒頭から半分ほど視聴しましたが、その感想をひとつだけ。

会長さんは「(トヨタは)完璧な会社ではない。間違いも起こる。問題が起こったらとにかく事実を確認して直す。それを繰り返すことが必要だ」とおっしゃっていましたし、また「自動車にはたいへん多くの仕様があり、そのすべてで検査をやっていたのではもたない。そこは国交省と協議をしながら、重要なところで検査をする、といったことになると思う。もちろんすべてで検査するのが本筋かもしれないが」とも回答されていました(朝日新聞ニュース「トヨタでも不正 会長「撲滅は無理」参照)。つまり「不正は起きるかもしれないが、安全性確保のために起きた場合にどう見つけて早期に対応すべきか」といった思想で型式指定不正に臨む、ということではないかと。

一方、4月から始まった国交省の有識者会議「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」では、型式指定不正を根絶することを目的として「不正は起こしてはいけない」との思想で審議がされるそうです。もちろん「型式指定制度」はそもそも行政が検査すべきところを性善説に基づいて自動車メーカーに委託する制度であるがゆえに「絶対あってはいけないこと」ではありますが、はて?この有識者会議での議論とトヨタ、マツダ、ホンダの(今後策定されるであろう)再発防止策は整合性が認められるのでしょうか?とても興味があります(リスクアプローチの最大限の活用・・・といったところで落ち着くのでしょうか)。

Img_20240603_205445237_512 左は立命館大学経営学部准教授でいらっしゃる中原翔氏によるご著書「組織不正はいつも正しい」(光文社新書 2024年5月30日)ですが、2016年に発覚した三菱自動車、スズキ自動車の燃費不正事件(型式指定不正)を題材として、いずれの現場社員も不正を「正しいこと」と理解したうえで長年継続していたことを示しています。いわば閉じられた社会では「正しいこと」は両立する、ということです。ホンダもマツダも本日の会見では「現場が法規を独自解釈していた」と述べておられましたが、まさに現場は正しいことと理解していたのです。

私も(このブログで何度か申し上げましたが)品質不正に手を染めた現場社員の方々によくヒアリングをしますが、皆さん元気で、不正をしていたとは思っていない、むしろクレームや苦情を減らすことには多大な貢献をしてきたという自負がある、といった証言をよく聞きました。もちろん理屈では「そりゃあかんわな」と説明できますが、現場がこんな感じである以上、(社会が評価するところの)不正はなくならず、むしろ早く「正しさのギャップ」を発見して是正することに注力すべきでしょう。本日の豊田会長の発言「まずは(時間はかかるが)車づくりの工程を見える化して、手戻りがあった場合にどこにどのようなしわ寄せがくるのか、しっかり現場と向き合って把握したい」というのは大正解だと思いました。

ちなみに品質不正は(不正かどうかは第三者が判断するものなので)かならず起きますから、「起こしてはならない」という思想のもとで再発防止策を作りますと、起きた時にはかならず現場責任者は隠しますよね(いや、隠し通せることに賭けるのでありまして、それは当然かと思います)。本当に撲滅する気が国交省にあるのならば、国交省がまず型式指定不正がなくなるように型式指定に関する基準を自動車メーカーと協議したうえで変える(守れるように削減する)必要がありますね。毎度申し上げているとおり、不祥事防止は「自己完結型」では困難です。ステークホルダーの協力があって初めて防止、発見が可能になります。

|

« 山口良忠判事について-われ判事の職にあり | トップページ | 週刊金融財政事情6月4日号に論稿を掲載していただきました。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 山口良忠判事について-われ判事の職にあり | トップページ | 週刊金融財政事情6月4日号に論稿を掲載していただきました。 »