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2024年7月 1日 (月)

国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会報告における公益通報者保護制度への提言

6月30日のNHKスペシャル「法医学者たちの知られざる世界」を視聴しました。日本には現在150名ほどの法医学の医師が警察等からの要請を受けて毎日多くの行政解剖・司法解剖を行っているのですが、予算も人も不足しているとのこと。法曹にとって耳の痛い話が多かったのですが、このままでは冤罪や事件逃し(事件を事故と誤認すること)が増えて、刑事司法の将来に暗い影を残すことになりそうです(ご興味のある方はNHKプラスで1週間以内であればご覧になれます)。以下本題。

6月26日、国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会は、同委員会に日本政府や企業の人権をめぐる取り組みについての調査結果を報告しました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。すでに消費者庁公益通報者保護制度検討会の資料でも一部明らかになっていましたが、このたびIMADR(国際人権NGO 反差別国際運動)のHPにて、日本の公益通報者保護制度の現状評価と今後への提言部分の仮訳が掲載されました。

第25項 2022 年 6 月に施行された 2020 年改正公益通報者保護法は、従業員 300 人以上の企業に内部告発制度の確立を義務付けるものであり、前向きな一歩である。しかし、より強力な保護と執行が必要である。(中略)作業部会は、保護の範囲が会社の取締役や退職後 1 年以内の従業員にまで拡大されたものの、同法における内部告発者の定義は依然として狭く、自営業者(俳優、アーティスト、テレビタレントなど)、請負業者、納入業者、さらにその弁護人や家族(内部告発者の承認を得て行動し、その同意に沿って内部告発者に代わり情報開示を行っている場合を除き)も、定義には含まれていないことに留意する。さらに、同法は報復を禁止しているが、社内ホットラインを設置していない企業や、内部告発者に報復を行った企業に対する刑事罰や行政罰は現在のところ存在しない。(中略)。作業部会は、消費者庁がその任務を効果的に遂行するために十分な資源と情報へのアクセスを確保することの重要性を強調する。内部告発が尊重される環境を醸成するためには、報復と闘い、告発者に報いる必要がある。(以下略)

第85項(提言vi) 公益通報者保護法の次回の見直しにおいて、自営業者、請負業者、供給業者、労働者の家族および弁護士への法の適用、内部告発者に報復する企業への制裁の確立、内部告発者への金銭的インセンティブまたは同様の報奨制度の提供など、内部告発者保護をさらに強化する

他にもホットラインの現状などが評価されていますが、重要な箇所は以上のとおりです。国連人権委員会作業部会としては、日本の公益通報者保護制度の現状評価として、通報者の範囲が狭いこと、通報者への不利益取扱いへの制裁規定・公益通報対応体制整備義務違反への制裁規定が存在しないこと、消費者庁が情報を集約する体制が不十分であること、内部告発へのインセンティブが薄いことを挙げています。

個人的には「内部告発者への金銭的インセンティブ」を制度化することへの国民的合意が(現状として)得られるものとは思えませんが、その他の提言については賛同するところであり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会でも改正に向けて無視できない提言ではないかと考えております。世間では「旧ジャニーズ事務所問題」への言及ばかりが報じられていますが、こういった公益通報者保護制度への言及についても光が当たればいいですね。

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