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2024年7月31日 (水)

パワハラの「グレーゾーン」への対処がむずかしくなった(と思う)

東京への長期出張中でもろもろ忙しいので短めのエントリーでございます。内部通報への対応を行っていて、最近むずかしいと感じるのがパワハラかどうか判断が微妙な事例への対処です。いえ、弁護士らしく一刀両断的に認定(もしくは否定)できれば良いのですが、人事部の顔色をみながら、そうも言ってられない事案は結構多いですよね。

そんなとき、とりあえず「関係者が顔を合わせないように人事的に処理しちゃおう」ということで通報者と被通報者を離すことを画策するわけですが、昨今高齢者雇用法(2025年4月義務化)とかフリーランス新法(2024年11月施行)で、関係者ご本人の意向に反して人事処分を行うことがむずかしくなりそうです。さらには最近、労使間に職場・職種限定に関する黙示の合意が認められる場合の一方的な配置転換は無効、といった最高裁判決まで出てきたので、さらにパワハラ・グレーゾーン問題への対処がややこしくなってきました。

事業者には職場安全配慮義務がありますので、むずかしくなってきたから「放置」というわけにもいかないですし、皆様どうされているのでしょうか。とりあえず内部通報の件数が増えたことは良しとしても、件数が増えれば増えるほど、事業者にとって頭を悩ませる事例も増えるという状況に陥ってしまうのはなんとも。。。

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2024年7月29日 (月)

行政への報告遅延と企業の危機管理の巧拙

最近話題となる企業不祥事との関連で、監督官庁への報告遅延が批判をされることが多いようです。たとえば今回の小林製薬の件でも、製品使用と健康上の被害との因果関係が明確でなければ報告しない、といった対応に批判が集まっているようですが、私が報告遅延が問題と考えているのは、そのような企業の後ろ向きの姿勢に問題あるからではなく、せっかくの適切な危機管理の機会を逸することになるからです。

昨年8月、こちらのエントリー「経営者必読!-朝日新聞WEB連載『記憶喪失になった病院』」で、サイバー攻撃によって身代金の支払いを要求され、断固としてこれを拒否した大阪の急性期・総合医療センター病院の事件を紹介しました。この連載記事のうち、「(第7回)迫る記者会見、焦る病院 1枚の想定問答を届けた『すごい人』たち」では、同病院が「いろいろとおしかりを受けるだけかもしれない」と思いつつも、ともかく厚労省に連絡を入れたところ、厚労省側から特別チームを紹介され、同病院における危機管理が奏功した事実が紹介されています。本事例よりも1年前に、別の病院でサイバー攻撃が発生し、そのときの対応の失敗から得た知見を厚労省は活用したそうです。

このように監督官庁は、企業が公表していない、つまりマスコミにも知られていない同業他社の企業不祥事をたくさん知っており、過去の対応上の失敗事例も蓄積されています。危機管理の巧拙は、「スーパーマンの存在」という「運」に恵まれることも時々ありますが、その組織が過去にどれくらい失敗から学んできたか、という経験に依拠するところが大きいです。したがって、このような行政の知見を不祥事発生企業が活用しない手はない、というのが私の考え方です。今回の小林製薬の件でも、因果関係があるかないかにかかわらず、その疑いがあるのであれば、速やかに消費者庁と厚労省には正直に報告をするべきでした。原因究明の協働だけではなく、危機において国民や取引先に対してどのように説明すべきか、上記大阪急性期・総合医療センター病院の事例と同じように「想定問答」まで力を貸してくれるかもしれません。

ただし気を付けないといけないのは、監督官庁には正直に事実を説明することです。虚偽だったり、不利益事実を隠して報告をすれば、逆に信頼関係を喪失してしまって行政から突き放されてしまう可能性がありますのでご注意ください。

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2024年7月26日 (金)

小林製薬「事実検証委員会」調査報告書の感想(その3-さすがに「会見」は必要では?)

7月24日の朝日新聞朝刊(経済面)にて、日本ガバナンス研究学会で理事職をご一緒している遠藤元一弁護士が、事実検証委員会報告書を読んだうえでたいへん鋭いご意見を述べておられます。ここで遠藤先生のご意見をご紹介いたしませんが、(小林製薬の企業価値回復を目指すのであれば)さすがに委員会の調査報告書の開示と取締役会総括の開示だけでは済まない状況のように思います。

おそらく様々な立場の関係者の方々やリーガルアドバイザーの意見なども踏まえて「記者会見はしない」と判断されたのだと思いますが、世間はすでに①3月以降、なぜ6月まで関連死亡者数の変更を公表しなかったのか(厚労省と協議しなかったのか)、それは誰の判断だったのか、といった問題を知っていますし、また②辞任する会長さんがなぜ社内規範以上の顧問料を受けとることができるのか、といった疑問も(報道によって)抱いております。さらには③創業家会長・社長さんのリーダーとしての資質に問題があるとのことで交代するのであれば、新社長さんにはその資質があるのか(ひょっとして院政を敷くからではないか)、といった素朴な疑問も生じます。

これらの疑問は、消費者が普通に抱くものと思いますので、これからの小林製薬が被害者の皆様と真摯に向き合い、厚労省や消費者庁と協働して原因究明にあたり、さらには再発防止に向けた工程をステークホルダーに示すためにも、記者会見を開催のうえで指名委員会・報酬委員会の委員長(いずれも社外取締役)と新社長さんは上記①から③を説明し、質疑に応じる必要があるのではないでしょうか(ひょっとして、すでに準備をされているのかもしれませんが)。

このままメディアに「報じられっぱなし」の状況では、誠意をもって事業を立て直していたとしても、なかなか同社の社会的信用を回復することは困難だと思います。部分入れ歯洗浄剤「パーシャルデント」をはじめ、長年の小林製薬製品の愛用者のひとりとして、同社は「あったらいいな」ではなく「なくてはこまる」会社と理解しておりますので、ぜひこの正念場を(泥臭くても堂々と)乗り切っていただきたい。

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2024年7月25日 (木)

小林製薬「事実検証委員会」調査報告書の感想(その2-外部専門家の活用について)

新幹線開業以来初の「重大インシデント」となった「2017年12月11日新幹線のぞみ34号台車亀裂事件」では、故障を感じたJR東海が毅然と名古屋駅で運行を停止して乗客を降ろしたのに対し、故障を疑いつつも車掌と指令室とのコミュニケーションが悪く、そのまま走らせてしまったJR西日本との比較が話題になりました。私はJR西日本の当時の対応を揶揄するつもりは全くなく、「自分が有事ではなく平時にいると思いたい」という正常性バイアス、確証バイアスは誰にもあると思っています。

このたびの小林製薬の事実検証委員会調査報告書を読み、この紅麹原料問題においても、客観的にみれば1月15日以降(2月上旬以降?)小林製薬は「有事」にあったはずですが、社内関係者は有事だとは認めたくないし、経営トップに有事だと伝えたくなかったものと推測いたします。冷静に本報告書を読むと、世間では「なぜ2か月も行政報告や世間への公表が遅延したのか?」との批判が出てますが、同社は2月中旬以降、複数の外部の専門家に行政報告の要否、公表の要否について相談をしていたことがわかります。そして外部専門家からは「いますぐに行政に報告をする義務はないし、公表する義務もない(ただし報告するほうが望ましいかも)」との意見をもらっていました。したがって、正常性バイアスや確証バイアスにとりつかれていた社内関係者は「すぐに報告する必要はない、とのお墨付きをもらった!!」と解釈して、2か月が経過したというのが正しい理解かと。

ただ、私もよく相談を受ける立場なので申し上げるのですが、こういった相談の際に注意すべきは「法的義務なし」との意見がほしくて、依頼者は(社長の顔がちらつくのか?)そちらの方向の返事が返ってくるように上手に事実を説明する(けっして虚偽説明ではない)傾向があるということです(上記「のぞみ34号事件」における車掌と指令室とのコミュニケーションもまったく同じ問題です。詳しくは2019年のこちらのエントリーをご参照ください)。このあたりは説明を受ける側も「依頼者にとって不利益な事実はないか」きちんと留意しながら聞き取りを行う必要があります。皆様が外部の専門家に危機対応について相談をされる場合にも、御社にとって有益な回答を得るためにはできるだけ不利益と思われる事実も包み隠さず説明するという姿勢は必要かと思います。

また、小林製薬の本件事案では存在しないと思いますが、「それだったら直ちに行政に報告すべき。また取引先も含めて、被害拡大のおそれがある以上は即刻公表すべき」と述べた外部専門家については追加相談を見合わせる(相談しなかったことにする)ということも十分起こり得ます。私も別事件において、後で重大な企業不祥事として公表せざるを得なくなった事件の初期対応の時点で「自浄能力を発揮すべきだからすぐに公表すべし」との意見を述べましたが、実はこれは「セカンドオピニオン」として扱われ、社長や社外取締役からの反対を受けて不採用となったことが何度かございました。

なお、世間では小林製薬の創業家経営者の問題が報じられていますが、報告書を読むと、2月20日ころ、詳細な報告を受けた創業家会長が「広告は打つな」と命じていることがわかります。しかし現場責任者は「因果関係が明確になったら広告は中止せよ」との意味だろうと理解して、そのまま広告を継続していたそうです。そもそも因果関係が明確になれば広告を停止するのはあたりまえのことだと思いますし、(事後的には会長の承諾を得たものの)ここでは関連性が疑われる以上は広告は停止するという意味だったのでは、と思いますが、ここでも正常性バイアス、確証バイアスに由来するコミュニケーション不全が起きていたのではないかと。

いずれにしても、世間の雰囲気は「機能性表示食品は悪くない、このたびの被害発生は小林製薬のガバナンスと管理体制に問題があったがゆえに発生したのだ、だから小林製薬が厳しく社会的な制裁を受け、被害者と誠実に向き合うことで問題は解決する」といった方向に向かっているように思いますし、またこれに迎合するような報道が目立ちます(私には社会全体が「正常性バイアス」にとりつかれているように思えます)。ただ、上記報告書を読むと、そのような「世間からみれば不都合な真実」もたくさん詰まっているような印象を持ちましたし、この時点でオアシスが5%以上の小林製薬株式を取得したことも、このアービトラージを賢く狙ったものと推測しています(まだ続きます)。

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2024年7月24日 (水)

小林製薬「事実検証委員会」調査報告書の感想(その1-P医師兼弁護士の功労)

7月23日、紅麹原料問題への対応として、小林製薬では臨時取締役会が開催されたようです。すでに報じられているとおり創業家会長と社長が辞任されたそうですが、取締役会が設置した事実検証委員会の報告書及び報告書を踏まえた取締役会の総括も(予想どおり)公表されました。本業でバタバタしていましたが、夕方からなんとか読ませていただきました。いやいや他社でも教訓となるようなポイントがたくさん記載されています。とりわけ「空白の2カ月」(1月15日から3月22日まで)の事実経過が詳細に示されていますが、とても感慨深かった点をいくつかご紹介したいと思います。

まずはタイトルにあるとおり「P医師兼弁護士」の方の存在が大きかった点です。私自身も、この「P先生」はどなたなのか、まったく存じ上げません(「医師兼弁護士」となると相当限られてきますが・・・(笑))。P医師兼弁護士さんには、小林製薬が原因究明に忙しかった2月ころに相談をして、行政への報告の要否や製品と事故との因果関係の究明方法などの助言を求めていたそうです(報告書を読んで初めて知りました)。そして、

小林製薬は、上記P医師兼弁護士の助言を受けた後、各症例の患者が摂取したと考えられる製品ロットの特定を改めて試みた。その結果、各症例の患者が摂取したと考えられる製品ロットに共通点があることに気づき、当該製品ロットに係るHPLC分析の実施に至り、3月15日(金)、ピークXが検出されることとなった(報告書52頁より)。

そうなんです。このP医師兼弁護士さんの適切な助言によってロット特定作業が試みられて「これはたいへんだ」ということになり、行政への報告、商品回収、事態の公表へと至るわけです。逆に申し上げると、このP医師兼弁護士さんの助言がなければ、いまも原因不明ということで行政への報告もなく、公表もされていないという状況だったかもしれません(当時、小林製薬は「因果関係が明確にならないと行政への報告はしない」という方針だったので)。

今年4月22日の(たいへん多くの方に読まれた)エントリー「小林製薬紅麴問題とガバナンス-いつから『有事』だったのか?」でも疑問を呈しておりましたが、上記報告書によりますと、約2週間で4件もの重篤な症例を医療機関から報告を受けたことは過去にも例がなかったそうです。ということは、相当早い段階から小林製薬は「有事」にあったといえそうです(このあたりは私の推測は誤りでした)。だからこそ同社の有事対応には様々な問題があったと言えそうですが、そのあたりも含めて、書きたいことは山ほどありますが、また別途コメントさせていただきます。(なお、メディアの記事を読んでいて、いろいろと同社および経営者を批判したいのはわかりますが、平時の管理を問題にするのか、有事の対応を問題にするのか、きちんと分けて批判したほうが良いと思います)

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2024年7月23日 (火)

小林製薬、23日に事実検証委員会の報告書公表か

本日は本業が少し忙しいので短めのコメントです。すでに日経ニュースや読売ニュース等で小林製薬の会長・社長が紅麴問題の責任をとって辞任(社長は取締役として補償等に従事)の意向、正式決定は23日の臨時取締役会で、との報道がなされていますが、私的に気になったのが「23日に事実検証委員会が報告書を公表する」と報じる日経記事の内容です。こちらも取締役会で正式に報告されるのでしょうね。

報告書の作成は、会社と利害関係のない外部弁護士によって構成された委員会によるものですが、会社が1月15日ころに死亡事故に関する情報を入手してから公表に至るまでの2カ月間に何が起きていたのか、という点が明らかにされるようです(関係者の経営責任も諮問事項?)。ただ、6月下旬まで関連の疑いのある死亡者数が明らかにされなかった経緯については調査対象外かと思われます。ちなみに私がもっとも気になっているのは「なぜ消費者庁や厚労省への報告が遅れたのか」という点です(すでに7月4日のエントリー「警鐘-企業不祥事に対する行政の対応を見くびってはいけない(と思う)」でも述べたところですが)。そこは委員会への諮問事項になっているかどうか不明ですが、ぜひとも事実調査委員会の報告書で明らかにしていただきたいと思っております。

また、「社外取締役への報告が遅れたことについて問題あり」との指摘がなされているようにも報じられていますが、もし指摘がなされているのであれば、かなり実務への影響は大きいですね。これまで大きな企業不祥事が起きるたびに、社外取締役には公表直前に事実が知らされることが多かったように思います(だからこそ責任が問われなかった)。しかし、不祥事ではなく「不祥事の疑い」が生じた時点で社外役員にも情報提供すべき、との判断が示されると、他社における今後の「守りのガバナンス」への問題提起となりそうです。ぜひ、23日中には拝読したい。

しかし日経とか読売とか、「会長、社長辞任」といった情報をどこから事前に入手するのでしょうかね?憶測では書けない情報なので、よほど経営の中枢とのコンタクトが出来ているのでしょう。昨年10月29日、小林製薬の会長さんがテレビ初出演ということで「関西リーダー列伝」を拝見し、若い時に小林製薬のビジネスモデルの大転換を(多くの役員の反対を押し切って)進めて成功したお話を興味深く拝聴しました。1年足らずでまさかこのような事態になるとは、誰も想像できなかったはずです。

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2024年7月22日 (月)

寝た子を起こす「カスハラ防止対策義務」の法制化

7月19日の日経ニュース「企業に『カスハラ』対策義務 厚労省案、従業員を保護」では、厚労省有識者会議が、顧客や取引先による著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を巡り、企業に従業員保護を義務付けるべき、とする報告書の素案を示したことを報じています。一定規模以上の企業を対象として、顧客や取引先からの従業員に対するカスハラを防止する義務について、具体的な法整備を労使の代表者らが入る労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論する、とのこと。カスハラについては6年前にソフトローによる規制が始まりましたが、これまで法律上の規制がなかったので、いよいよという感じですね。

ところで、私よりも企業の管理部門でお勤めの方のほうがよくご存じだと思いますが、現場で(長年の慣行として?)眠っている独禁法違反(優越的地位の濫用事例)や下請法違反(不当な経済的利益の提供要請等)はたくさんありますよね。これまではたまたま問題になっていなかっただけであり、オモテに出てしまうと先日の日産(支払代金の不当減額)やトヨタ(金型の長期保管要請)のようなコンプライアンス問題に発展してしまいます。日産やトヨタのような企業であれば耐えられますが、もっと小さな企業であれば競争資格を失って事業推進も困難になってしまうおそれがあります。

これまで、当ブログでは過去に何度か「カスハラは顧客よりも取引先から受けることのほうが問題が大きい」と述べてきましたが(たとえば2024年5月のこちらのエントリー)、カスハラ被害者側の企業が法律上の対策義務を負うということになりますと、不正リスクの顕在化を招きます。つまり、取引先との信頼関係のもとで、これまで眠ってきた独禁法違反、下請法違反のグレーゾーン問題(取引先との関係を悪くしたくないので、なんとなくウヤムヤにしてきた取引慣行)に、被害者側企業としては真正面から向き合う必要が生じます。

被害者側企業が真正面から向き合うとなれば、加害者側企業の競争法違反の事実があぶりだされ、また、被害者側企業がこれまでのようにウヤムヤにしてしまうと従業員に対する職場安全配慮義務違反ということで報道され(顕在化して)、双方とも社会的批判を受けるリスクが高まるということになりそうです(このあたりは2018年のこちらのエントリーですでに述べているとおりです)。

世間はどうしても「顧客VS企業」という構図でカスハラ問題をわかりやすく理解したいと思うかもしれません。しかし、カスハラは「企業VS企業」の構図で、力の強い(加害者従業員側の)大企業ばかりか被害者側企業にも大きな不正リスクを顕在化させる可能性があることを知っていただきたいところです。日産やトヨタの事例をみれば「自社に損が生じないグレーゾーンは、いつまでも眠らせておきたい」というのが大企業のホンネであることはご理解いただけると思います。持続的成長が見込める企業への事業承継、労働力流動を促し、資源の最適配分によって日本企業の活力再生を目指す政府の考え方が「骨太方針」で推進されています。このカスハラ防止対策の法制化もその一環であるため、各社でコンプライアンス経営の中身を見直すべき時かもしれません。

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2024年7月19日 (金)

会計不正事件はますます発覚する(コロナ禍のツケがいよいよ出てくる)

7月16日の日経ニュース「企業の会計不正が3年連続増、過去最多に迫る 24年3月期」では、日本公認会計士協会の調べとして、2024年3月期に会計不正を公表した企業が前の期比9社増の45社に上ったことが判明したそうです。公表企業は3年連続で増え、過去最多だった20年3月期(47社)に迫る、とのこと。架空仕入れや在庫の過大計上などの粉飾事案が多かったようです。

コロナ禍で監査が機能しなくなった2020年以来、すでに多くのエントリーでコメントしてきましたが(たとえば2021年のこちらのエントリー)、会計不正事案の発覚が急増するのは当然であり、おそらく2025年から26年ころにかけてコロナ禍に始まった会計不正事案の発覚はピークを迎える(発覚して5年遡って過年度決算を訂正する)ものと推測しています(いや、確信かもしれません)。そんなに人間は強くないわけでして、あれだけ多くの企業でリモート監査やリモート協議などが行われた以上、役員や現場責任者が「これさいわい」と粉飾に手を染める(また、粉飾を知りつつ黙認する)のはしかたがないと思います(これは「性悪説」ではなく「性弱説」に立脚した考え方です)。

当時の日本企業は「どうしても6月に定時株主総会を開催したい(延期はしたくない)」という意向が強かったため、監査意見を述べないといけない資料が監査役員に回ってきた当日に(とりあえず)意見を出す、という異常事態となりました。会計不正が横行してもやむを得ないですよね。

ただ、記事にあるように国税の税務調査が正常化したことや、会計監査人に内部告発が増えたこと、フォレンジックス調査の精度が上がってきたことなど、モニタリング機能も正常化するなかで、会計不正は発覚しやすい環境が整ってきました。先日、こちらのエントリーでご紹介したようなアクティビストによる会計不正疑惑の追及やこちらのエントリーのように会社と意見が食い違うことも厭わない会計監査人の姿勢なども「会計不正発覚」急増の要因になろうかと思います。

なお会計不正の発覚について忘れてはならないのが「粉飾事案」だけでなく「横領事案」も増えるということです。2020年から21年当時、当事務所にご相談のあった案件については、粉飾よりもむしろ横領(会社資金の不適切使用)事案のほうが多かった。粉飾は財務報告内部統制がしっかりしていた企業に多かったのですが、横領は内部統制が破綻している企業に多かった記憶があります。前者は不正を認識していた社員が多いのですが、後者はブラックボックス化しているなかでの不正となり、内部告発でも表面化しにくい。今後は次第に横領事案の会計不正が発覚するケースが増えるものと予想しています。

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2024年7月17日 (水)

「MBO不全」で取締役らに勝訴するのは(かなり)ハードルが高い

7月9日にアップしましたエントリー「日経『女性社外取締役育成講座』への違和感」には、たくさんのコメントをいただきました(どうもありがとうございます)。私と同様に違和感を抱いた方もおられますが、「いやいや身の処し方を学ぶことも貴重な経験」ということで講座は必要との意見もあり賛否両論でしたね。願わくば66万円を支払って、実際に受講された方のご意見もお聞きしたいです。以下本題です。

すでに甲南大学教授の梅本先生がブログでアップしておられる話題ですが、7月14日の日経WEBニュース「大正製薬MBO『公正価格』申し立て 複数ファンド」の記事がたいへん興味深いものでした。

2023年11月にMBOを発表した大正製薬HDですが、24年1月にオーナー家が代表を務めていた会社によるTOB(株式公開買い付け)を成立させ、3月には2700万株を1株とする株式併合が臨時株主総会で承認可決されました。当該MBOについては、米投資ファンドのキュリRMBキャピタルと香港のオアシス・マネジメントが東京地裁に価格決定を申し立てたことが14日に判明したそうです。「価格が不当に低く抑制され、一般株主の利益が損なわれている」、「経済産業省が19年に策定した『公正なM&A(合併・買収)の在り方に関する指針』に反している」と指摘しているようで、伊藤忠・ファミマ価格決定申立事件決定の流れからしますと「想定内」といったところかと。

ところで、上記ニュース記事で興味深いのは、米国運用会社カナメキャピタルが、MBOを推奨した取締役、特別委員会委員を提訴することを検討している、と報じている点です。「問題を広く世の中に問うために損害賠償請求訴訟を検討している。取締役個人の責任を問う事例を作ることで、特別委員会や取締役の責任の重さを周知することにもつながるだろう」(調査責任者)とのこと。本当に提訴するのであれば、今後MBOの対象となる上場会社の役員の皆様、とりわけ特別委員会に就任する取締役や監査役の皆様は大きな提訴リスクを抱えることになりそうです。

ただ、不公正なMBOが少数株主に損害を与えたとして会社役員を提訴するにあたっては、かなり高いハードルがあるように思います。まず提訴の根拠として挙げられるのが会社法429条に基づく責任追及ですが、こちらは第三者(少数株主)に損害が生じたとしても、取締役や監査役の職務執行に関する「悪意」または「重過失」を立証しなければなりません。たとえプロセス違反が認められたとしても、それが役員の重過失を根拠づける事実となりうるのかどうか。

重過失ではなく「過失」であれば・・・と考えますと、民法709条に基づく不法行為責任の追及、または会社法423条に基づいて株主代表訴訟を提起することも検討されます。ただ、民法709条責任は「職務行為」ではなく「加害行為」への故意・過失の存在が求められるので、429条責任の追及以上にむずかしそうです。株主代表訴訟については、株式併合によって株主の地位を喪失してしまうと(原告適格がなくなってしまうので)株主代表訴訟を起こすことはできない、というのは今年3月の東芝元経営陣に対する株主代表訴訟に関する東京高裁の判例が示しています。「株式交換」によって株主の地位を喪失するケースでは、会社法上原告適格は維持されるとの条文がありますが、株式併合については同様の規定がありません(立法論としては手当てが必要ではないかと思うのですが)。

なお、上記は私の第一印象としての意見なので、とことん争えば勝訴の道も見えてくるかもしれません。いずれにしても証券市場の健全性を願う野次馬的第三者としては、MBOプロセスの公正性確保のためにも、提訴はひとつの選択肢ではないかと思います。

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2024年7月16日 (火)

空売りファンドの戦略-監査役員こそ見習うべきでは?

7月14日の日経ビジネス有料記事「狙われたレーザーテック CFO交代に勢いづく空売りファンド」を読みました。レーザーテックに空売りを仕掛けたファンド創業者へのインタビュー記事ですが、実際にレーザーテック社のCFOの方が交代したことで、空売りレポートの信ぴょう性が増したのではないか、との話題も出てきています。

レポートは330頁ほどにのぼるのですが、このインタビュー記事を読み、「不正会計の疑いあり」と合理的な疑問を抱くには、会計リテラシーは当然の前提として、企業の財務情報と、業界を取り巻く経営環境への勉強が必要だと痛感しました。そのなかで、開示情報の不自然な変化に注目して「普通だったら、こんな変化にはならない」といった推論で会計不正の疑惑を掲示するというもの。会社側は即時に反論するのですが、当該反論と空売りファンドの推論のどちらを信用するかは投資家の自己責任ということで。

私個人の感想でいえば、ファンドの推論はそれなりに合理性がある、と思料される箇所もあるので、会計不正はないと主張する企業側がきちんと説明できるかどうか、というところに注目してしまいます。ただ、(読み物としての面白さは別として)このファンドの努力は本来企業自身の監査役員がやらなければならないのではないか、と感じました。会計リテラシーと自社ビジネスモデルへの理解があれば、「これっておかしいのではないか」との疑問も出てくるかもしれません。

そういえば6月26日にリリースされた(伊藤邦雄座長による)経産省「持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告)」を読みましたが、「経営者を支える経営陣」の重要性のなかに、監査役というフレーズは一度も出てきませんでした(社外取締役はとても重要、とのことでしたが)。かなり悔しいですが、監査役員が経営に関与するためにも、「これって外から見ておかしいと思われないか」という点こそ、監査役がきちんと(学習成果を)社長に投げかけるべきではないかと。

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2024年7月14日 (日)

関西テレビ「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」

昨年11月、関西テレビのドキュメント「逆転裁判官の真意」をご紹介しましたが、あの番組のディレクターである上田大輔氏(組織内弁護士)の新しい制作番組がtverでご覧になれます(さまよう信念 情報源は見殺しにされた)。予告編から引用しますが

17年前、情報源は罪に問われ、見殺しにされた。奈良県田原本町で母子3人が亡くなった少年放火事件。翌2007年、講談社から「僕はパパを殺すことに決めた」が出版される。本には逮捕された少年の供述調書が引用されていたことから法務省が問題視。検察は本を執筆したジャーナリストの草薙厚子さん宅などを強制捜査し、その情報源だった精神科医の崎濱盛三医師が秘密漏示の疑いで逮捕・起訴される。想定外の事態に、出版に携わった関係者たちの信念が揺らぎ始める。法廷で「後悔はしていない」と語っていた崎濱医師。その信念が揺らぐことはなかったのか?そしてメディアは、“表現の自由”に対する公権力の介入にどう向き合ったのか。17年間の沈黙を破った当事者たちが、初めてカメラの前でその真意を語る。

Nスぺ、クロ現などドキュメント番組はときどき視聴しますが、間違いなく今年視聴した中では文句なしの一番の秀作、ぜひ視聴していただきたい60分番組です。もちろん、視点は上田ディレクターのものであり、ご覧になった方は様々な意見を持たれると思いますが、事件の当事者らが17年経過した現時点で語るところは非常に重い。そして最後にはこれまで事件に登場してこなかった「もうひとりの主人公」がインタビューに応じるわけでして、これで事件が「つながる」ことになります(おそらく上田ディレクターが語りたかったこと)。

折しも鹿児島県警の前生活安全部長による内部文書漏えい事件と重なります。崎濱医師の弁護人は存じ上げている弁護士(京大アメリカンフットボール部で活躍していた方ですね)、講談社の出版までの経緯を調査する委員会メンバーの方は、関西テレビ「あるある大事典」事件でも委員をされていた方でした。しかし、よくこれだけの関係者の方々がインタビューに応じていただけたなぁと感心しました。

朝ドラ「虎に翼」をご覧の皆様は「家庭裁判所は愛の裁判所である」と理解しておられるかもしれませんが、ぜひ別の視点から「家庭裁判所」について知っていただければと。

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2024年7月12日 (金)

エネチェンジ会計不正疑惑事案-注目したい「あずさ監査法人の見解書」

7月11日夜に産経新聞ニュース記事-知事疑惑の告発者死亡、消極論も上がる百条委の行方 専門家は「解明しないと禍根残す」ーが掲載されました。私と奥山俊宏さん(元朝日新聞記者、上智大学教授)のコメント、淑徳大学の日野勝吾教授の解説も入っており、事案とともに公益通報者保護制度の現状を知っていただきたく、ぜひお読みいただければ幸いです。この件については別途エントリーを書かせていただきます。以下本題です。

さて、7月8日に「エネチェンジ社の会計不正疑惑-『あずさ』も『第三者委員会』もどっちも正しい」なるエントリーをアップして、たくさんのアクセスをいただきました。また、有益なコメントも頂戴しております。ただ、翌日である7月9日にエネチェンジ社のリリース「2023 年 12 月期有価証券報告書の提出完了に関するお知らせ」において、同社有価証券報告書を拝見しましたが、ちょっと前エントリーで書いたところとは異なり、会計監査人であるあずさ監査法人の「不正がある」との判断は確信的に強めであることがわかりました。

私は「不正があったとの合理的な疑いを払拭する程度の証憑はえら得なかったと判断した」といった監査法人の心証かと思っておりましたが、同有価証券報告書169ページ以下の監査法人のKAMの記載は会社が設置した調査委員会に厳しく反論する内容であり、かなり興味深いものです(軽々に推測エントリーを書いてしてしまい、失礼いたしました)。

調査報告書においては、上記の新たに把握された事実について、隠蔽の意図はなかったとする経営者の供述は信用できるとして、これらの事実(当監査法人に説明を行わなかった事実等)は意図的なものではなく、経営者による不正は認められないと結論づけている。しかし、当監査法人は、経営者のslackの内容やメールを削除した事実など、存在する多くの証拠に照らして経営者の供述は信憑性を欠くものと判断し、以下の事実のとおり、重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したとの結論に至った。なお、当監査法人による認定に当たっては、当法人外部の複数の法律専門家の意見も聴取した。

(中略)また、上記の手続の結果に関して以下のコミュニケーションを実施するとともに、2024年6月25日に、取締役会及び監査役会に対して、調査報告書の内容を踏まえてもなお、当監査法人としては経営者の関与による重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したと判断する旨の「見解書」を提出した。

とのこと。また「監査役会が経営者に対して問題点の是正等の適切な措置を求めているか否か及び是正措置等の評価とその実施状況について質問した。」社外取締役に対しては「見解書」を提示して報告し、問題点の是正措置等の実施状況について質問した、との記載があります。つまり「土俵が違う」ということではなく「同じ土俵で勝負をしたが、やっぱり不正だった」として「見解書」を監査役会と社外取締役に提示したそうです。

あずさ監査法人が注目した会計不正を裏付ける事実および証憑については、「外部通報」(おそらく内部告発)によって入手されたようですが、そもそも監査役会は(あずさ監査法人が認識する前に、内部通報によって)知り得なかったのでしょうか。また、この「見解書」を会計監査人から提示された監査役会と取締役会(とくに社外取締役)は、会社側と監査法人との意見の対立については、どのような判断をしているのでしょうか。うーーん、これは知りたい。

いずれにしましても、KAMの記載に「見解書」が明示されていますので、東証や金融庁もこの「見解書」は見ているはずです。となれば、あずさ監査法人は無限定適正意見は出しているものの、同社のガバナンスが上場会社レベルで機能していることを、同社は対外的にどのように説明するのでしょうか(定時株主総会の継続会は7月30日)。別々の土俵なら「どっちも正しい」で済ませることもできますが、同じ土俵で調査委員会と監査法人(しかも法律専門職による意見を聴取しているとのこと)の判断が異なるとすれば、とりわけ監査役会や社外取締役の判断が重要になってくるものと思います。

もちろん、私は単なる野次馬的感覚で眺めているだけなので閲覧することはかないませんが、この会計監査上異例ともいえる「見解書」の中身については、ぜひ読んでみたいです。

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2024年7月10日 (水)

公益通報制度にCFE(公認不正検査士)による「中立調査人」活用を

内部告発者(公益通報者)の悲劇が相次いでいます。兵庫県知事の不正行為疑惑をメディアに文書通報した公務員の方、職員による公金不正使用を和歌山市に内部通報した公務員の方など、通報者のプライバシー配慮が不十分であることによる心理的負荷は、我々の想像を絶するものがあったのでしょう。現行の公益通報者保護制度が通報者を守れない、という現実を改めて認識させられました。

もちろん、安心して内部通報・内部告発ができるように、さらなる法改正も大切ではありますが、せっかくCFE(公認不正検査士)の資格者が日本にもたくさん誕生しているので(たしか世界で資格者の数では米国に次いで2番目に多い)、まずは現行法のもとで、企業の自助努力によって通報者保護の徹底を図るべきです。

たとえば企業は内部通報の外部窓口業務、調査業務、さらには通報者への是正通知やアフターケア業務をCFEの資格者による「中立調査人」に委託することを検討すべきです。私も現在、総合商社、製薬会社(いずれもグループ会社を含む)及び大手機械メーカー(こちらは単体のみ)において「中立調査人」契約を締結しております。中立調査人(外部窓口)には実名通報ですが、会社には匿名通報として扱い、中立公正な立場で不正調査業務を行います。(小さな部署内の不正行為でも通報者を守れるように)「通報者の秘密」だけでなく「通報がなされたことの秘密」まで守ります。調査人の報酬は顧問料ではなく、すべてタイムチャージ(業務委託報酬)です。もちろん「公益通報対応業務従事者」としての指定を受けています。

資格者は弁護士や会計士なので職業上の守秘義務があります。厳正に調査を行いますので、必ずしも通報者が欲する事実認定に至るわけではありませんが(したがって通報者から落胆されることもある)、プライバシー保護という面では安心して内部通報制度を活用できますし、会社側としても安易に内部告発をされない、というメリットも大きいです。自社の内部通報制度が機能していることを対外的に示す際に「CFE資格者による中立調査人制度を活用している」ということを広報として活用することもできます。

不正対策は早期発見・早期是正がきわめて重要です。中小企業の皆様も「共同中立調査人」を活用することも可能です。本気で公益通報者を保護する方策を検討して、さらなる悲劇を招かないようにしなければ。

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2024年7月 9日 (火)

日経「女性社外取締役育成講座」への若干の違和感

日経Think!のエキスパートを務めている身でありながら「日経への批判的言動」を行うのもやや気が引けますが💦、日経主催の女性社外取締役育成講座の内容に少し違和感を覚えましたので(おそるおそる)書かせていただきます( ;∀;)。もちろん、初老ジジイの個人的な意見ではありますが、本気で女性管理職の比率を高めるためにどうしたらよいか、ということで(社内の人事担当役員と口論しながら)いろいろと実践してきた立場として「こんなふうに感じているオッサンもいるよ」といったことだけ知っていただければ幸いです。

上記育成セミナーの合計12回の講座のうち、計3回にわたって「エグゼクティブとしての『ふさわしさ』」を学ぶ講座があるのですが、ヘアメイクや着こなし、幹部としての振る舞いといったスキルを身につける、という講座内容だそうです。しかし女性社外取締役として、このようなスキルは推奨されるものでしょうか。真意は「同性の部下たちが憧れる存在感を醸し出そう!」というところかもしれませんが、私には「男性社会で好まれる女性役員になろう!」といった謳い文句のように聞こえてしまうのです。「女性の社会進出大歓迎!」と言いながら、実は男女の役割論をずっと固定観念として持ち続ける「虎に翼(朝ドラ)」の穂高教授(小林薫さん)を思わず連想してしまいます。

私自身も(恥ずかしながら)穂高教授に近いジェンダーバイアスの持ち主でありますが、「それでは将来の日本企業のためにはならん」ということで「女性管理職比率を高めるための施策」として、男性社会向けに作られて慣行とされてきた「部長職」「課長職」の仕事を、ライフ・ワーク・バランスを尊重した仕事観でも十分にこなせる職務に変えることに注力してきました(具体例は、すでに何度も当ブログで紹介しています)。社内外の抵抗が強くて成果が出ないことも多いのですが、アルムナイ制度導入によって、「今なら大丈夫」といって管理職に復帰された女性も(わずかですが)出てきました。

取引先、下請先は夜9時まで働いている方が多くても、「申し訳ないが、当社の管理職は午後6時にはいなくなるから、それまでに対処してほしい」と(経営幹部が)頭を下げて回ることが管理職改革の第一歩です。同様に、女性社外取締役に就任してもらって、どのように活躍してもらうか、これを真剣に考えるにはまず取締役会という受け皿のほうを先に変えることが必要です。その「受け皿」には、ヘアメイクや着こなしで醸し出される「存在感」は不要です。社長に忖度する社内・社外取締役が手を突っ込みたくても突っ込めないところを平気でわしづかみできる「存在感」が必要です(このような領域が社内にたくさんあることに、私は最近ようやく気がつきました)。最初からうまくいくわけがなく、失敗(失礼)を繰り返しながら、ようやく3人目の女性社外取締役さんが就任するくらいで形になってきます。

受講料も全12回で66万円ということだったり、「これを受講したら日経さんが良い社外取締役先を紹介してくれるかも」といった期待を抱かせる表現も記載されていることから、受講者は相当な覚悟で受講されるのでしょう。したがって即効性があることは否定いたしません。ただ、いつも現役の女性取締役の方々と仕事や各種委員会上でお付き合いしている身としては「彼女たちがこの講座内容を知ったらどう思うだろうか」と考えるとちょっと寒気がします(^^;)。百歩譲るとして、この内容の女性社外取締役育成講座を開催するのであれば、同時にヘアメイクや着こなし、振る舞いを講座とする「男性社外取締役育成講座」も併設すべきでしょう。

「中長期的に生産性を向上させるために役員を育成して、気が付いたら取締役の3割が女性だった」というのが理想です。そう考えると「女性社外取締役育成講座」の受講対象者は、むしろ現役の社長さんではないかと。私の個人的な感想についてはご批判も多いかとは思いますが「こんな風にみえますよ」といった見え方のところは多くの方のご意見をお聞きしたいものです。

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2024年7月 8日 (月)

エネチェンジ社の会計不正疑惑-「あずさ」も「第三者委員会」もどっちも正しい

6月27日の日経ニュース「エネチェンジ会計処理『不正認められず』あずさは反発」で初めて知りましたが、エネチェンジ社の会計処理(SPCへの売上計上は正しいか否か)を巡って会計監査人のあずさ監査法人と第三者委員会の結論とが食い違っていることが話題になっているようです。最終的には会社側が監査人の意向に沿って軌道修正をされたそうですが、(交代が決定している)あずさ側は「不正があった」と主張し、会社側は第三者委員会の結論をもとに「不正ではなかった」として7月末の定時株主総会(継続会)に臨むことになります(新しい監査人を決める必要はありますね)。

エネチェンジが設置した調査委員会報告書を読みましたが、第三者委員会と会計監査人で「不正か否か」で対立する、というのは普通にありうることでして、2013年に私が執筆した「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」の第5章「会計士から嫌われる『第三者委員会』と『金商法193条の3』」でもすでに「なぜ考え方が違うのか」という点は解説済みです。一言でいえば「不正だ」も正しいですし、「いや不正はなかった」も正しいということです。

不正と評価できるかどうかは会計監査人の側は「消去法的発想」で判断するのであり「(疑惑を抱かせるに十分な証憑があるので、これを打ち消すだけの)不正がなかったと言えるに十分の合理的な証憑は得られなかった」との結論に至り、弁護士を中心とした第三者委員会は積み上げ方式で事実を積み上げて「重要な証憑はあれど、他の証憑を斟酌すれば不正があったと評価できるまでの心証を形成できない」との結論に至る。前者は会計監査制度を維持するのに必要な「相対的真実主義」からの帰結であり、一方で後者は裁判制度を維持するために必要な「絶対的真実主義」からの帰結ということで、この差はいかんともしがたく。

財務報告内部統制の在り方を考える・・・といったあたりが、この差を埋めるために活用できれば、と(もう、ずいぶん前から)個人的には思っております。金商法改正(正確には開示府令改正)によって訂正内部統制報告書に訂正理由を記載するようになりましたが、このあたりを議論することがひとつのヒントになるのではないかと。

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2024年7月 4日 (木)

警鐘-企業不祥事に対する行政の対応を見くびってはいけない(と思う)

新幹線開業以来初めての「重大インシデント」だった台車亀裂事件の際、調査委員会委員を務めた川崎重工業社ですが、架空取引で「裏金」をねん出して自衛隊員に金品や飲食代を提供していた疑惑が浮上しています(たとえばMBSニュースはこちら)。同社は特別調査委員会を設置したそうですが、防衛省側の調査との整合性は大丈夫なのでしょうかね?いろいろと気を遣うことが多そうで難しい調査委員会ではないかと。それにしても、6月総会で新しく社外取締役(監査等委員)に就任された金融庁ご出身のご高名な方(会計不正事件などを厳しく取り締まる立場におられましたよね。私もご著書で勉強させていただきました)は「架空取引って?なにそれ!?聞いてないよ!」とお悩みかもしれません。以下本題です。

本日は、企業不祥事対応に従事する者としての雑駁な感想です(あくまでも個人的な感想です)。小林製薬の厚労省への対応などをみていて、製品事故が発生した際の行政対応について、コミュニケーション不足が大きな不祥事を招いた(大きな不祥事に発展させてしまった?)ように思えてなりません。最初になぜ消費者庁や厚労省、自治体と適宜適切にコミュニケーションがとれなかったのか、また最近まで(公表すべき)死亡者数や入院患者数に関する算定方法について厚労省と協議の場をもてなかったのか、いろいろと疑問が湧いてきます。ただ、小林製薬を批判することは簡単ですが、これは他山の石として御社でも教訓とすべきではないでしょうか。

ご承知の方も多いと思いますが、厚労省マターの問題に限っても「こども家庭庁」や「デジタル庁」、そして骨太方針を推進する内閣官房に優秀な官僚がたくさん派遣されていて、行政目的を達成するための企業規制に物的・人的資源を投下する余裕はありません(これは金融庁なども同様かと)。このような状況の中で、企業規制の目的を、いかに効率的に達成するか・・・というところが、企業と向き合う優秀な官僚の腕の見せ所であります。

本日(7月3日)の読売新聞一面トップで報じられた独禁法違反企業への確約プロセスを改定する(弁護士らで構成された第三者機関によって5年間の監視・検証を行う)とか、労働者や取引先、会計監査人によって内部告発を行う仕組みを整備して不正をあぶり出すとか、昨年のビッグモーター、損保ジャパン事案のように民間の第三者委員会の調査結果をみてピンポイントで立入調査に入る、といった(民間活力を利用した)効率性重視による企業規制の手法がとても目立ちます。カルテル防止という規制目的で活用されるリニエンシーなど、企業と行政とのウイン=ウインの関係を活用した施策として一番わかりやすいですよね。

したがって、わが国全体の福祉国家政策が肥大化するいっぽうで企業規制はできるだけ効率化したいという政府(行政)の方針を企業もよく理解しておく必要があります。とくに昨年3月から始まった「PBR1倍割れ解消要請」に始まる一連のアクションプログラム(機関投資家、アクティビスト、同業他社を活用して市場の活性化という行政目的を達成する)が「株価爆上がり」で大成功と評価されていますので、この傾向はますます強まるはずです。つまり不祥事に直面した企業としては、行政との信頼関係次第で「企業不祥事による社会的な信用の毀損度(レピュテーションリスクの顕在化)」が変わるといっても過言ではないと思います。わざわざ行政や司法が「正式な権力」によって制裁を科さなくても、民間の力を利用して事実上の制裁や「自然淘汰」を招来させることで、規制当局が、その目的を達成する仕組みを機能させることができるからです。

これからも企業規制、とりわけコンプライアンス経営の実現に向けた行政の施策については、かならず(できるだけ税金を使わず)民間の力を借りて達成することを考えるはずです(これを首尾よく達成できた官僚が出世することになるはず)。トヨタグループやMUFGの不適切行為で明らかなとおり、不祥事はどんなに頑張ってみても起こしてしまうわけですから、(言葉は悪いですが)起きた時に、どれだけ行政とのウイン=ウインの関係で「おめごぼし」してもらえるかという点がコンプライアンス担当者の腕の見せ所、ということになります(もちろん被害者救済については行政と協働して徹底しなければなりません)。

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2024年7月 3日 (水)

社外取締役は「無任所大臣」か「野党議員」か

6月21日のエントリー「社外取締役こそ評価されるべきである-旬刊商事法務より」に対して、「取締役と言えば」さんからコメントをいただきました(どうもありがとうございます!)。「なるほど」と思うところがありますので、以下引用させていただきます。

アメリカと日本で、取締役の位置づけズレていますよね。アメリカでは、取締役は株主(=国民)が選挙で選んだ代表(=国会議員)であり、累積投票制もあって、様々な株主の相反する利益をそれぞれ代弁する存在であり、取締役会は国会であり、「社外取締役」はさしずめ「野党議員」ですね。日本では、「取締役会」=「内閣」というイメージが強く、各事業部(=省庁)の代表者(=大臣)の集まりであり、「社外取締役」はさしずめ「無任所大臣」で、大所高所からの「助言」などが責務と思われがちです。法律の条文はそうでもないのに、なぜか「内閣」なんですよね。「社外取締役」を「野党議員」のイメージで語るか、「無任所大臣」のイメージで語るか、話が合わない原因になります。個人的には、「社外取締役」=「野党議員」であり、その最大の責務は「社長をクビにすること」というのが、しっくりきます。

最近のいろんな議論を聞いていて(M&Aに失敗したり、不祥事が発生した場合に)「ガバナンス不全」と批判するケースがありますが、そこでいう「ガバナンス」とは何を指しているのだろうか、と思うことがあります。批判する人にお聞きしたいのは「(その会社が)目指すべきガバナンス」とはどういった企業統治体制を指していて、そこにどんなものが不足しているので「不全」と言われるのか。そこが明らかにならないと議論が成り立ちません。昔、「バブルがはじけて」とか「リーマンショックの影響で」といった表現を使うとなんとなく経営不振の原因がわかったような気になり、思考停止に陥ってしまったことを思い出します。

ガバナンス改革が進む中で「社外取締役の役割」が議論されることが増えているのですが、コメントのとおり取締役会を内閣に見立てて「無任所大臣」としてイメージすべきか、それとも国会に見立てて「野党議員」としてイメージすべきか、なるほど私もあまり考えてことはありませんでした(おそらく日米の比較というところが自信をもって語ることができなかったからだと思います)。皆様はどうお考えでしょうか。

私が日本ガバナンス・ネットワーク(旧社外取締役ネットワーク)に入会させていただいた2007年ころは、まだまだ「社外重役」という言葉が使われていて、大所高所から取締役会における意思決定に関与するのがあたりまえでした。おそらく「無任所大臣」という言葉がビッタリではないかと。しかし2019年に経産省「公正な M&A の在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」が公表されて、支配株主が存在する上場会社の社外取締役は中立公平な立場では足りず、少数株主の利益のために行動しなければならないとされたこと、昨年3月に東証「PBR1倍割れ解消要請」が出されて、これが上場会社の取締役会における「判断のモノサシ」となりつつあることに鑑みますと、会社側からの要請で社外取締役に就任したものであったとしても、現在は「野党議員」として行動しなければならないのではないかと考えております。

今年の6月総会をみておりまして、なかなか株主提案が通らない、会社側提案が(事前の票読みによって)取り下げられないという実情からすると、来年は大株主側も考えると思います。おそらく取締役人数の枠いっぱいまで株主側で取締役候補者を提案するというのがトレンドになりそうな気がします。そうなると、社外取締役にはますます「野党議員」という立場で行動することが求められるのではないでしょうか。個別企業ごとに、置かれた経営環境の中で考えてみるのもいいかもしれませんね。

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2024年7月 2日 (火)

積水ハウスと損保ジャパン-「法務部門」の役割に違いはあるのか?

本日(7月1日)の文春オンライン記事「国立市マンション、異例の解体はなぜ? 『積水ハウス』社長&副会長を直撃!」(会員記事)を読みました。社長、副会長の方のご発言に特筆すべき点は感じられませんでしたが、広報部の回答にはこれまで明らかにされていなかった事実が含まれており、とても興味を持ちました。

マンション事業部を中心に事業が進みましたが、こと遠景で富士山をみたときの影響は十分に検討されていないことがわかりました。(社内で反対論が特に強くなったのは)5月、6月。(強く反対したのは)主に法務部です。本社各部や役員を交え合議で決定しました。地域に影響を与える建物を残せない、という判断、これに尽きます

とのこと。いやいやビックリ!です。「マンション事業部」vs「法務部」といえば、あの2017年に発生した五反田地面師事件の構図と同じですね。積水ハウスは2020年12月に、この事件を総括した第三者委員会による「総括検証報告書」を公表していますが、なぜ地面師に騙されるような意思決定に至ったのかといった経緯説明の中で、マンション事業部の対応を法務部が止めることができなかった無念さが生々しく描かれています(私個人としては、この報告書は秀逸だと評価しております)。報告書作成に協力した法務部に対しても「職責を果たすべき自覚に欠けていた」と指摘されています。

上記積水ハウス広報部の回答内容が正しいものとすれば、同社法務部門は7年前の失敗を糧として、売上3兆円企業の経営に堂々と参画できる地位を築いたのではないでしょうか。法務担当執行役員を失う(辞任)ほどの屈辱のなかで、法務コンプライアンスは営業と裏腹である、という組織風土を醸成してきたのであれば、それは積水ハウスの「かけがいのない無形資産」だと思います。

一方、SOMPOホールディングスが6月14日に公表した「保険料調整行為に関する社外調査委員会による調査報告書」では、同社法務部門の切ない状況が描かれていて、法務に携わる者としてはとても悔しい思いを抱きました。経営陣による証拠廃棄行為に法務担当者が同意してしまったこととか、金融庁報告において金商法違反行為の数を(経営陣に忖度して)極力少なくみせるようにしたこととか、「インテグリティブック」なる小冊子を社内で作る際、カルテル防止の意味で同業者間の情報交換に関する注意事項を作成したところ、担当役員から削除を求められ、実際に削除してしまったことなど、報告書を読んでいてとてもつらい。さて、今回の第三者委員会報告書を契機として、SOMPOホールディングスおよび損保ジャパンの法務部門は事業部門が進める事業にストップをかけることができるような地位を築けるのかどうか。調査委員会は「(損保ジャパンが立ち直るための)ラストチャンス」と述べていますが、ぜひとも今回の屈辱を前向きに捉えてほしいと思います。

長年法務部門や監査部門の方々と仕事をご一緒していて確信することは、法務にしても監査にしても「許される失敗を繰り返すことで法務や監査は強くなる」ということです。これを経営陣は共有する必要があります。研究開発は何度でも失敗してようやく成功する、というのと同じでして、法務も監査も失敗の中から(つまりチャレンジすることから)知見を高めます。失敗を許さない法務、監査には伸びしろはないと思っています。誰かそういったことを(反対意見もあることを承知のうえで)取締役会で堂々と述べる人はいらっしゃいますでしょうか。

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2024年7月 1日 (月)

国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会報告における公益通報者保護制度への提言

6月30日のNHKスペシャル「法医学者たちの知られざる世界」を視聴しました。日本には現在150名ほどの法医学の医師が警察等からの要請を受けて毎日多くの行政解剖・司法解剖を行っているのですが、予算も人も不足しているとのこと。法曹にとって耳の痛い話が多かったのですが、このままでは冤罪や事件逃し(事件を事故と誤認すること)が増えて、刑事司法の将来に暗い影を残すことになりそうです(ご興味のある方はNHKプラスで1週間以内であればご覧になれます)。以下本題。

6月26日、国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会は、同委員会に日本政府や企業の人権をめぐる取り組みについての調査結果を報告しました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。すでに消費者庁公益通報者保護制度検討会の資料でも一部明らかになっていましたが、このたびIMADR(国際人権NGO 反差別国際運動)のHPにて、日本の公益通報者保護制度の現状評価と今後への提言部分の仮訳が掲載されました。

第25項 2022 年 6 月に施行された 2020 年改正公益通報者保護法は、従業員 300 人以上の企業に内部告発制度の確立を義務付けるものであり、前向きな一歩である。しかし、より強力な保護と執行が必要である。(中略)作業部会は、保護の範囲が会社の取締役や退職後 1 年以内の従業員にまで拡大されたものの、同法における内部告発者の定義は依然として狭く、自営業者(俳優、アーティスト、テレビタレントなど)、請負業者、納入業者、さらにその弁護人や家族(内部告発者の承認を得て行動し、その同意に沿って内部告発者に代わり情報開示を行っている場合を除き)も、定義には含まれていないことに留意する。さらに、同法は報復を禁止しているが、社内ホットラインを設置していない企業や、内部告発者に報復を行った企業に対する刑事罰や行政罰は現在のところ存在しない。(中略)。作業部会は、消費者庁がその任務を効果的に遂行するために十分な資源と情報へのアクセスを確保することの重要性を強調する。内部告発が尊重される環境を醸成するためには、報復と闘い、告発者に報いる必要がある。(以下略)

第85項(提言vi) 公益通報者保護法の次回の見直しにおいて、自営業者、請負業者、供給業者、労働者の家族および弁護士への法の適用、内部告発者に報復する企業への制裁の確立、内部告発者への金銭的インセンティブまたは同様の報奨制度の提供など、内部告発者保護をさらに強化する

他にもホットラインの現状などが評価されていますが、重要な箇所は以上のとおりです。国連人権委員会作業部会としては、日本の公益通報者保護制度の現状評価として、通報者の範囲が狭いこと、通報者への不利益取扱いへの制裁規定・公益通報対応体制整備義務違反への制裁規定が存在しないこと、消費者庁が情報を集約する体制が不十分であること、内部告発へのインセンティブが薄いことを挙げています。

個人的には「内部告発者への金銭的インセンティブ」を制度化することへの国民的合意が(現状として)得られるものとは思えませんが、その他の提言については賛同するところであり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会でも改正に向けて無視できない提言ではないかと考えております。世間では「旧ジャニーズ事務所問題」への言及ばかりが報じられていますが、こういった公益通報者保護制度への言及についても光が当たればいいですね。

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