積水ハウスと損保ジャパン-「法務部門」の役割に違いはあるのか?
本日(7月1日)の文春オンライン記事「国立市マンション、異例の解体はなぜ? 『積水ハウス』社長&副会長を直撃!」(会員記事)を読みました。社長、副会長の方のご発言に特筆すべき点は感じられませんでしたが、広報部の回答にはこれまで明らかにされていなかった事実が含まれており、とても興味を持ちました。
マンション事業部を中心に事業が進みましたが、こと遠景で富士山をみたときの影響は十分に検討されていないことがわかりました。(社内で反対論が特に強くなったのは)5月、6月。(強く反対したのは)主に法務部です。本社各部や役員を交え合議で決定しました。地域に影響を与える建物を残せない、という判断、これに尽きます
とのこと。いやいやビックリ!です。「マンション事業部」vs「法務部」といえば、あの2017年に発生した五反田地面師事件の構図と同じですね。積水ハウスは2020年12月に、この事件を総括した第三者委員会による「総括検証報告書」を公表していますが、なぜ地面師に騙されるような意思決定に至ったのかといった経緯説明の中で、マンション事業部の対応を法務部が止めることができなかった無念さが生々しく描かれています(私個人としては、この報告書は秀逸だと評価しております)。報告書作成に協力した法務部に対しても「職責を果たすべき自覚に欠けていた」と指摘されています。
上記積水ハウス広報部の回答内容が正しいものとすれば、同社法務部門は7年前の失敗を糧として、売上3兆円企業の経営に堂々と参画できる地位を築いたのではないでしょうか。法務担当執行役員を失う(辞任)ほどの屈辱のなかで、法務コンプライアンスは営業と裏腹である、という組織風土を醸成してきたのであれば、それは積水ハウスの「かけがいのない無形資産」だと思います。
一方、SOMPOホールディングスが6月14日に公表した「保険料調整行為に関する社外調査委員会による調査報告書」では、同社法務部門の切ない状況が描かれていて、法務に携わる者としてはとても悔しい思いを抱きました。経営陣による証拠廃棄行為に法務担当者が同意してしまったこととか、金融庁報告において金商法違反行為の数を(経営陣に忖度して)極力少なくみせるようにしたこととか、「インテグリティブック」なる小冊子を社内で作る際、カルテル防止の意味で同業者間の情報交換に関する注意事項を作成したところ、担当役員から削除を求められ、実際に削除してしまったことなど、報告書を読んでいてとてもつらい。さて、今回の第三者委員会報告書を契機として、SOMPOホールディングスおよび損保ジャパンの法務部門は事業部門が進める事業にストップをかけることができるような地位を築けるのかどうか。調査委員会は「(損保ジャパンが立ち直るための)ラストチャンス」と述べていますが、ぜひとも今回の屈辱を前向きに捉えてほしいと思います。
長年法務部門や監査部門の方々と仕事をご一緒していて確信することは、法務にしても監査にしても「許される失敗を繰り返すことで法務や監査は強くなる」ということです。これを経営陣は共有する必要があります。研究開発は何度でも失敗してようやく成功する、というのと同じでして、法務も監査も失敗の中から(つまりチャレンジすることから)知見を高めます。失敗を許さない法務、監査には伸びしろはないと思っています。誰かそういったことを(反対意見もあることを承知のうえで)取締役会で堂々と述べる人はいらっしゃいますでしょうか。
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コメント
積水ハウス 名古屋市千種区池下、名古屋の人気エリアで42階建てタワマン 隣に高いタワマン建設しないという説明で購入した住民が同程度のタワマンが建つという話になり長くもめ6月28日の中日新聞記事が昨日までアクセス1位2位 積水ハウスの眺望問題は東京国立市以外に各地であるかもしれません。
投稿: 星の王子様 | 2024年7月 2日 (火) 06時48分