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2024年7月 8日 (月)

エネチェンジ社の会計不正疑惑-「あずさ」も「第三者委員会」もどっちも正しい

6月27日の日経ニュース「エネチェンジ会計処理『不正認められず』あずさは反発」で初めて知りましたが、エネチェンジ社の会計処理(SPCへの売上計上は正しいか否か)を巡って会計監査人のあずさ監査法人と第三者委員会の結論とが食い違っていることが話題になっているようです。最終的には会社側が監査人の意向に沿って軌道修正をされたそうですが、(交代が決定している)あずさ側は「不正があった」と主張し、会社側は第三者委員会の結論をもとに「不正ではなかった」として7月末の定時株主総会(継続会)に臨むことになります(新しい監査人を決める必要はありますね)。

エネチェンジが設置した調査委員会報告書を読みましたが、第三者委員会と会計監査人で「不正か否か」で対立する、というのは普通にありうることでして、2013年に私が執筆した「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」の第5章「会計士から嫌われる『第三者委員会』と『金商法193条の3』」でもすでに「なぜ考え方が違うのか」という点は解説済みです。一言でいえば「不正だ」も正しいですし、「いや不正はなかった」も正しいということです。

不正と評価できるかどうかは会計監査人の側は「消去法的発想」で判断するのであり「(疑惑を抱かせるに十分な証憑があるので、これを打ち消すだけの)不正がなかったと言えるに十分の合理的な証憑は得られなかった」との結論に至り、弁護士を中心とした第三者委員会は積み上げ方式で事実を積み上げて「重要な証憑はあれど、他の証憑を斟酌すれば不正があったと評価できるまでの心証を形成できない」との結論に至る。前者は会計監査制度を維持するのに必要な「相対的真実主義」からの帰結であり、一方で後者は裁判制度を維持するために必要な「絶対的真実主義」からの帰結ということで、この差はいかんともしがたく。

財務報告内部統制の在り方を考える・・・といったあたりが、この差を埋めるために活用できれば、と(もう、ずいぶん前から)個人的には思っております。金商法改正(正確には開示府令改正)によって訂正内部統制報告書に訂正理由を記載するようになりましたが、このあたりを議論することがひとつのヒントになるのではないかと。

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コメント

山口先生

いつもご高配・ご示唆を賜り、ありがとうございます
一老会計士として意見を述べさせて頂きます

今回の特別調査委員会の目的と結論が乖離した調査報告書になっているものではないかと言う点及び結論に至る過程で論理の飛躍があるのではないかと言う点です

目的の第一番目に「会計処理の前提となる事実関係の調査」とされ、「貸付金行為の事実を監査法人へ提供しなかった」という事実は明確に調査されていますが、当事者達は認識が薄かったと言う結論に導き出されていると思われます。
しかし、公表版49ページ等にもありますがCEOからの問合せに対してCFOは以下のように答えております。「A 氏に対して「僕は G 社に とか貸し付けてもいいよね実際。(直接するとダメなんだろうけど)。」と質問し、A 氏が「G 社への貸付けは実際問題ない(ばれない)と思います。」等と回答した事実が認められた。」この事実一つについても、CEOとCFO共に貸付金事実を隠蔽しようとした実態調査報告がなされているのにも関わらず、最終報告書は責任がないとなっている点です。

第三者委員会の調査委員も経験した者として、余りにも酷い報告書だなという感想を持ってしまいました。
長くなり、恐縮です。宜しくお願いします。
今後の色々な舌鋒のコメント期待しております。
頑張ってください。

投稿: KT | 2024年7月 9日 (火) 10時50分

企業法務をなさっておられる弁護士の方々が「不正」という表現を使われるのとは異なる意味で、会計(より正確には監査)の世界では「不正」という表現を用いています。すなわち、不正とは故意による虚偽記載(監査論では虚偽表示)を意味します。そして、第三者委員会報告書はおそらく、この意味で「不正」という語を用いており、そうであれば、報告書において列挙されている事実からは虚偽表示があったとはいえない可能性が高く、第三者委員会報告書は正鵠を射ていると思います。
 他方、正しく報道されているかどうかはわからないのですが、あずさが本当に「不正」があった、虚偽表示があったと判断しているのであれば、報告書に表れていない事実があったに違いありません。もっとも、あずさは単に除外事項付意見しか表明できないと主張しているのかもしれず、そうであれば、長銀事件判決や東芝役員責任追及事件判決と同様、虚偽表示がないというだけでは適正に表示されているとはいえないという「適正表示の枠組み」の問題になるのではないかと思います。

投稿: 通りすがり | 2024年7月 9日 (火) 20時33分

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