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2024年7月22日 (月)

寝た子を起こす「カスハラ防止対策義務」の法制化

7月19日の日経ニュース「企業に『カスハラ』対策義務 厚労省案、従業員を保護」では、厚労省有識者会議が、顧客や取引先による著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を巡り、企業に従業員保護を義務付けるべき、とする報告書の素案を示したことを報じています。一定規模以上の企業を対象として、顧客や取引先からの従業員に対するカスハラを防止する義務について、具体的な法整備を労使の代表者らが入る労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論する、とのこと。カスハラについては6年前にソフトローによる規制が始まりましたが、これまで法律上の規制がなかったので、いよいよという感じですね。

ところで、私よりも企業の管理部門でお勤めの方のほうがよくご存じだと思いますが、現場で(長年の慣行として?)眠っている独禁法違反(優越的地位の濫用事例)や下請法違反(不当な経済的利益の提供要請等)はたくさんありますよね。これまではたまたま問題になっていなかっただけであり、オモテに出てしまうと先日の日産(支払代金の不当減額)やトヨタ(金型の長期保管要請)のようなコンプライアンス問題に発展してしまいます。日産やトヨタのような企業であれば耐えられますが、もっと小さな企業であれば競争資格を失って事業推進も困難になってしまうおそれがあります。

これまで、当ブログでは過去に何度か「カスハラは顧客よりも取引先から受けることのほうが問題が大きい」と述べてきましたが(たとえば2024年5月のこちらのエントリー)、カスハラ被害者側の企業が法律上の対策義務を負うということになりますと、不正リスクの顕在化を招きます。つまり、取引先との信頼関係のもとで、これまで眠ってきた独禁法違反、下請法違反のグレーゾーン問題(取引先との関係を悪くしたくないので、なんとなくウヤムヤにしてきた取引慣行)に、被害者側企業としては真正面から向き合う必要が生じます。

被害者側企業が真正面から向き合うとなれば、加害者側企業の競争法違反の事実があぶりだされ、また、被害者側企業がこれまでのようにウヤムヤにしてしまうと従業員に対する職場安全配慮義務違反ということで報道され(顕在化して)、双方とも社会的批判を受けるリスクが高まるということになりそうです(このあたりは2018年のこちらのエントリーですでに述べているとおりです)。

世間はどうしても「顧客VS企業」という構図でカスハラ問題をわかりやすく理解したいと思うかもしれません。しかし、カスハラは「企業VS企業」の構図で、力の強い(加害者従業員側の)大企業ばかりか被害者側企業にも大きな不正リスクを顕在化させる可能性があることを知っていただきたいところです。日産やトヨタの事例をみれば「自社に損が生じないグレーゾーンは、いつまでも眠らせておきたい」というのが大企業のホンネであることはご理解いただけると思います。持続的成長が見込める企業への事業承継、労働力流動を促し、資源の最適配分によって日本企業の活力再生を目指す政府の考え方が「骨太方針」で推進されています。このカスハラ防止対策の法制化もその一環であるため、各社でコンプライアンス経営の中身を見直すべき時かもしれません。

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コメント

なるほど大小企業間におけるカスハラですか、あるあるですね。私は、真逆の心配をしておりました。

⑴ご指摘の大企業がカスハラレピュテーションを過剰に恐れるあまり企業努力によるコスト低減努力を自社、取引先中小企業を含めたサプライチェーン全体でなおざりにし、日本の企業競争力が低下しないか、
⑵ 企業側がカスハラを主張して消費者をはじめとするカスターマーとの適正な対話を回避するようにならないか、、、。

勿論、当事者である企業の姿勢が第一ですが、いずれも、監督官庁が適切に監視して、適時に警鐘を鳴らすことが大事かと思いました。

投稿: 杉山忠昭 | 2024年7月22日 (月) 14時40分

いやいや、杉山さんのご出身企業のようにコンプライアンスに前向きな企業であればご懸念のような事態も十分あり得ると思います。せっかくなので、カスハラ対策の「光と影」第2弾として、杉山さんのご指摘事項を取り上げたいと思います。

投稿: toshi | 2024年7月22日 (月) 14時47分

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