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2024年7月 9日 (火)

日経「女性社外取締役育成講座」への若干の違和感

日経Think!のエキスパートを務めている身でありながら「日経への批判的言動」を行うのもやや気が引けますが💦、日経主催の女性社外取締役育成講座の内容に少し違和感を覚えましたので(おそるおそる)書かせていただきます( ;∀;)。もちろん、初老ジジイの個人的な意見ではありますが、本気で女性管理職の比率を高めるためにどうしたらよいか、ということで(社内の人事担当役員と口論しながら)いろいろと実践してきた立場として「こんなふうに感じているオッサンもいるよ」といったことだけ知っていただければ幸いです。

上記育成セミナーの合計12回の講座のうち、計3回にわたって「エグゼクティブとしての『ふさわしさ』」を学ぶ講座があるのですが、ヘアメイクや着こなし、幹部としての振る舞いといったスキルを身につける、という講座内容だそうです。しかし女性社外取締役として、このようなスキルは推奨されるものでしょうか。真意は「同性の部下たちが憧れる存在感を醸し出そう!」というところかもしれませんが、私には「男性社会で好まれる女性役員になろう!」といった謳い文句のように聞こえてしまうのです。「女性の社会進出大歓迎!」と言いながら、実は男女の役割論をずっと固定観念として持ち続ける「虎に翼(朝ドラ)」の穂高教授(小林薫さん)を思わず連想してしまいます。

私自身も(恥ずかしながら)穂高教授に近いジェンダーバイアスの持ち主でありますが、「それでは将来の日本企業のためにはならん」ということで「女性管理職比率を高めるための施策」として、男性社会向けに作られて慣行とされてきた「部長職」「課長職」の仕事を、ライフ・ワーク・バランスを尊重した仕事観でも十分にこなせる職務に変えることに注力してきました(具体例は、すでに何度も当ブログで紹介しています)。社内外の抵抗が強くて成果が出ないことも多いのですが、アルムナイ制度導入によって、「今なら大丈夫」といって管理職に復帰された女性も(わずかですが)出てきました。

取引先、下請先は夜9時まで働いている方が多くても、「申し訳ないが、当社の管理職は午後6時にはいなくなるから、それまでに対処してほしい」と(経営幹部が)頭を下げて回ることが管理職改革の第一歩です。同様に、女性社外取締役に就任してもらって、どのように活躍してもらうか、これを真剣に考えるにはまず取締役会という受け皿のほうを先に変えることが必要です。その「受け皿」には、ヘアメイクや着こなしで醸し出される「存在感」は不要です。社長に忖度する社内・社外取締役が手を突っ込みたくても突っ込めないところを平気でわしづかみできる「存在感」が必要です(このような領域が社内にたくさんあることに、私は最近ようやく気がつきました)。最初からうまくいくわけがなく、失敗(失礼)を繰り返しながら、ようやく3人目の女性社外取締役さんが就任するくらいで形になってきます。

受講料も全12回で66万円ということだったり、「これを受講したら日経さんが良い社外取締役先を紹介してくれるかも」といった期待を抱かせる表現も記載されていることから、受講者は相当な覚悟で受講されるのでしょう。したがって即効性があることは否定いたしません。ただ、いつも現役の女性取締役の方々と仕事や各種委員会上でお付き合いしている身としては「彼女たちがこの講座内容を知ったらどう思うだろうか」と考えるとちょっと寒気がします(^^;)。百歩譲るとして、この内容の女性社外取締役育成講座を開催するのであれば、同時にヘアメイクや着こなし、振る舞いを講座とする「男性社外取締役育成講座」も併設すべきでしょう。

「中長期的に生産性を向上させるために役員を育成して、気が付いたら取締役の3割が女性だった」というのが理想です。そう考えると「女性社外取締役育成講座」の受講対象者は、むしろ現役の社長さんではないかと。私の個人的な感想についてはご批判も多いかとは思いますが「こんな風にみえますよ」といった見え方のところは多くの方のご意見をお聞きしたいものです。

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コメント

女性という部分を除き、男女問わずであれば、会社の顔である社長をはじめとする役員が、選ばれた理由であるその方のインサイツ*が、お化粧をするのではなく、自ずから滲み出るような、着こなし、立ち振る舞い、話し方を習得することは悪いことではないと思います。

* 例えば、清廉、胆力、ブレない意思の強さ、頭脳明晰、ダイバーシティ&インクルージョンを持ち合わせていること等々

投稿: 杉山忠昭 | 2024年7月 9日 (火) 07時42分

>百歩譲るとして、この内容の女性社外取締役育成講座を開催するのであれば、同時にヘアメイクや着こなし、振る舞いを講座とする「男性社外取締役育成講座」も併設すべきでしょう。

まさにご指摘のとおりだと思いました。あえていうならば、社内外に関わらずやってほしいです笑

上場企業の役員でも、目に余る態度・風体の方々を多く見てきました。下から指摘されにくいポジションだからこそ、(申し訳ないが)各種ニオイ対策も含めて身も心もクリーンを目指してもらいたいものです...。

投稿: てふ | 2024年7月 9日 (火) 08時49分

いつも有益な情報、ありがとうございます。取締役会事務局担当(経営企画)ですが、私も男女問わずヘアメイクや着こなし、振る舞いといったことは社外取締役として学んでいただきたいと思います。なのでこの講座の内容については肯定的に捉えています。本当にお忙しいのはわかるのですが、「常識的な清潔感」であれば良いのです。

投稿: なかじ | 2024年7月 9日 (火) 11時00分

自身が「女性幹部」としてやってきた立場から一言。
男性の場合は、先輩役員を見ながら「あの人のいいな」「あの人ちょっとなあ」「あの人いいけれど自分のキャラだとまねできないな」など、知らず知らずのうちにイメージできると思います。一方女性の場合、参考とすべき先例があまりいませんから、たとえば服装一つとっても、濃紺スーツは上手く着こなせないと制服かリクルートスーツみたいになってしまう、かといって色物だと場にそぐわない等々自分で考えなければなりません。振る舞いでも、周囲と同じようにすると「女性が不自然」と言われ、より女性的にすると浮いたり「女性アピールをしている」と言われます。
したがって、「役員になって感じた女性ならではの悩みは何ですか」というアンケートでこうした「ふさわしさ」が出てきても不思議ではありません。そんなことから、日経は「ニーズあり」と判断したのだと想像しますが、講座で「ふさわしさ」を学ぶという類いの話ではないと思います。

投稿: unknown1 | 2024年7月12日 (金) 08時36分

私も日経「女性社外取締役育成講座」の話を聞いたときとても違和感を感じました。それは「お化粧や身だしなみ」といった講座の内容だけではなく、66万円という受講料、そして社外取締役に就任したらそれを回収できる、という発想です。社外取締役を職業(お金儲けの手段)としてとらえるのはどうかと思いつつ、それはやむを得ない部分があるとしても、これでは「女性社外取締役の職安」ではないかということです。しかも職安なら無料に近い価格で必要な知識を得られるのに66万円!
すごい違和感です。

投稿: unknown2 | 2024年7月16日 (火) 21時08分

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