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2024年7月 3日 (水)

社外取締役は「無任所大臣」か「野党議員」か

6月21日のエントリー「社外取締役こそ評価されるべきである-旬刊商事法務より」に対して、「取締役と言えば」さんからコメントをいただきました(どうもありがとうございます!)。「なるほど」と思うところがありますので、以下引用させていただきます。

アメリカと日本で、取締役の位置づけズレていますよね。アメリカでは、取締役は株主(=国民)が選挙で選んだ代表(=国会議員)であり、累積投票制もあって、様々な株主の相反する利益をそれぞれ代弁する存在であり、取締役会は国会であり、「社外取締役」はさしずめ「野党議員」ですね。日本では、「取締役会」=「内閣」というイメージが強く、各事業部(=省庁)の代表者(=大臣)の集まりであり、「社外取締役」はさしずめ「無任所大臣」で、大所高所からの「助言」などが責務と思われがちです。法律の条文はそうでもないのに、なぜか「内閣」なんですよね。「社外取締役」を「野党議員」のイメージで語るか、「無任所大臣」のイメージで語るか、話が合わない原因になります。個人的には、「社外取締役」=「野党議員」であり、その最大の責務は「社長をクビにすること」というのが、しっくりきます。

最近のいろんな議論を聞いていて(M&Aに失敗したり、不祥事が発生した場合に)「ガバナンス不全」と批判するケースがありますが、そこでいう「ガバナンス」とは何を指しているのだろうか、と思うことがあります。批判する人にお聞きしたいのは「(その会社が)目指すべきガバナンス」とはどういった企業統治体制を指していて、そこにどんなものが不足しているので「不全」と言われるのか。そこが明らかにならないと議論が成り立ちません。昔、「バブルがはじけて」とか「リーマンショックの影響で」といった表現を使うとなんとなく経営不振の原因がわかったような気になり、思考停止に陥ってしまったことを思い出します。

ガバナンス改革が進む中で「社外取締役の役割」が議論されることが増えているのですが、コメントのとおり取締役会を内閣に見立てて「無任所大臣」としてイメージすべきか、それとも国会に見立てて「野党議員」としてイメージすべきか、なるほど私もあまり考えてことはありませんでした(おそらく日米の比較というところが自信をもって語ることができなかったからだと思います)。皆様はどうお考えでしょうか。

私が日本ガバナンス・ネットワーク(旧社外取締役ネットワーク)に入会させていただいた2007年ころは、まだまだ「社外重役」という言葉が使われていて、大所高所から取締役会における意思決定に関与するのがあたりまえでした。おそらく「無任所大臣」という言葉がビッタリではないかと。しかし2019年に経産省「公正な M&A の在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」が公表されて、支配株主が存在する上場会社の社外取締役は中立公平な立場では足りず、少数株主の利益のために行動しなければならないとされたこと、昨年3月に東証「PBR1倍割れ解消要請」が出されて、これが上場会社の取締役会における「判断のモノサシ」となりつつあることに鑑みますと、会社側からの要請で社外取締役に就任したものであったとしても、現在は「野党議員」として行動しなければならないのではないかと考えております。

今年の6月総会をみておりまして、なかなか株主提案が通らない、会社側提案が(事前の票読みによって)取り下げられないという実情からすると、来年は大株主側も考えると思います。おそらく取締役人数の枠いっぱいまで株主側で取締役候補者を提案するというのがトレンドになりそうな気がします。そうなると、社外取締役にはますます「野党議員」という立場で行動することが求められるのではないでしょうか。個別企業ごとに、置かれた経営環境の中で考えてみるのもいいかもしれませんね。

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