エネチェンジ会計不正疑惑事案-注目したい「あずさ監査法人の見解書」
7月11日夜に産経新聞ニュース記事-知事疑惑の告発者死亡、消極論も上がる百条委の行方 専門家は「解明しないと禍根残す」ーが掲載されました。私と奥山俊宏さん(元朝日新聞記者、上智大学教授)のコメント、淑徳大学の日野勝吾教授の解説も入っており、事案とともに公益通報者保護制度の現状を知っていただきたく、ぜひお読みいただければ幸いです。この件については別途エントリーを書かせていただきます。以下本題です。
さて、7月8日に「エネチェンジ社の会計不正疑惑-『あずさ』も『第三者委員会』もどっちも正しい」なるエントリーをアップして、たくさんのアクセスをいただきました。また、有益なコメントも頂戴しております。ただ、翌日である7月9日にエネチェンジ社のリリース「2023 年 12 月期有価証券報告書の提出完了に関するお知らせ」において、同社有価証券報告書を拝見しましたが、ちょっと前エントリーで書いたところとは異なり、会計監査人であるあずさ監査法人の「不正がある」との判断は確信的に強めであることがわかりました。
私は「不正があったとの合理的な疑いを払拭する程度の証憑はえら得なかったと判断した」といった監査法人の心証かと思っておりましたが、同有価証券報告書169ページ以下の監査法人のKAMの記載は会社が設置した調査委員会に厳しく反論する内容であり、かなり興味深いものです(軽々に推測エントリーを書いてしてしまい、失礼いたしました)。
調査報告書においては、上記の新たに把握された事実について、隠蔽の意図はなかったとする経営者の供述は信用できるとして、これらの事実(当監査法人に説明を行わなかった事実等)は意図的なものではなく、経営者による不正は認められないと結論づけている。しかし、当監査法人は、経営者のslackの内容やメールを削除した事実など、存在する多くの証拠に照らして経営者の供述は信憑性を欠くものと判断し、以下の事実のとおり、重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したとの結論に至った。なお、当監査法人による認定に当たっては、当法人外部の複数の法律専門家の意見も聴取した。
(中略)また、上記の手続の結果に関して以下のコミュニケーションを実施するとともに、2024年6月25日に、取締役会及び監査役会に対して、調査報告書の内容を踏まえてもなお、当監査法人としては経営者の関与による重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したと判断する旨の「見解書」を提出した。
とのこと。また「監査役会が経営者に対して問題点の是正等の適切な措置を求めているか否か及び是正措置等の評価とその実施状況について質問した。」社外取締役に対しては「見解書」を提示して報告し、問題点の是正措置等の実施状況について質問した、との記載があります。つまり「土俵が違う」ということではなく「同じ土俵で勝負をしたが、やっぱり不正だった」として「見解書」を監査役会と社外取締役に提示したそうです。
あずさ監査法人が注目した会計不正を裏付ける事実および証憑については、「外部通報」(おそらく内部告発)によって入手されたようですが、そもそも監査役会は(あずさ監査法人が認識する前に、内部通報によって)知り得なかったのでしょうか。また、この「見解書」を会計監査人から提示された監査役会と取締役会(とくに社外取締役)は、会社側と監査法人との意見の対立については、どのような判断をしているのでしょうか。うーーん、これは知りたい。
いずれにしましても、KAMの記載に「見解書」が明示されていますので、東証や金融庁もこの「見解書」は見ているはずです。となれば、あずさ監査法人は無限定適正意見は出しているものの、同社のガバナンスが上場会社レベルで機能していることを、同社は対外的にどのように説明するのでしょうか(定時株主総会の継続会は7月30日)。別々の土俵なら「どっちも正しい」で済ませることもできますが、同じ土俵で調査委員会と監査法人(しかも法律専門職による意見を聴取しているとのこと)の判断が異なるとすれば、とりわけ監査役会や社外取締役の判断が重要になってくるものと思います。
もちろん、私は単なる野次馬的感覚で眺めているだけなので閲覧することはかないませんが、この会計監査上異例ともいえる「見解書」の中身については、ぜひ読んでみたいです。
| 固定リンク
コメント
ここは、是非KAMをお読みいただいて、意見をいただければと。相当のボリュームです。
KAM自身は、何もなければたいした意味はないのですが、こうした異常時には注目したいです。
投稿: KAZU | 2024年7月23日 (火) 18時26分