行政への報告遅延と企業の危機管理の巧拙
最近話題となる企業不祥事との関連で、監督官庁への報告遅延が批判をされることが多いようです。たとえば今回の小林製薬の件でも、製品使用と健康上の被害との因果関係が明確でなければ報告しない、といった対応に批判が集まっているようですが、私が報告遅延が問題と考えているのは、そのような企業の後ろ向きの姿勢に問題あるからではなく、せっかくの適切な危機管理の機会を逸することになるからです。
昨年8月、こちらのエントリー「経営者必読!-朝日新聞WEB連載『記憶喪失になった病院』」で、サイバー攻撃によって身代金の支払いを要求され、断固としてこれを拒否した大阪の急性期・総合医療センター病院の事件を紹介しました。この連載記事のうち、「(第7回)迫る記者会見、焦る病院 1枚の想定問答を届けた『すごい人』たち」では、同病院が「いろいろとおしかりを受けるだけかもしれない」と思いつつも、ともかく厚労省に連絡を入れたところ、厚労省側から特別チームを紹介され、同病院における危機管理が奏功した事実が紹介されています。本事例よりも1年前に、別の病院でサイバー攻撃が発生し、そのときの対応の失敗から得た知見を厚労省は活用したそうです。
このように監督官庁は、企業が公表していない、つまりマスコミにも知られていない同業他社の企業不祥事をたくさん知っており、過去の対応上の失敗事例も蓄積されています。危機管理の巧拙は、「スーパーマンの存在」という「運」に恵まれることも時々ありますが、その組織が過去にどれくらい失敗から学んできたか、という経験に依拠するところが大きいです。したがって、このような行政の知見を不祥事発生企業が活用しない手はない、というのが私の考え方です。今回の小林製薬の件でも、因果関係があるかないかにかかわらず、その疑いがあるのであれば、速やかに消費者庁と厚労省には正直に報告をするべきでした。原因究明の協働だけではなく、危機において国民や取引先に対してどのように説明すべきか、上記大阪急性期・総合医療センター病院の事例と同じように「想定問答」まで力を貸してくれるかもしれません。
ただし気を付けないといけないのは、監督官庁には正直に事実を説明することです。虚偽だったり、不利益事実を隠して報告をすれば、逆に信頼関係を喪失してしまって行政から突き放されてしまう可能性がありますのでご注意ください。
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