小林製薬「事実検証委員会」調査報告書の感想(その1-P医師兼弁護士の功労)
7月23日、紅麹原料問題への対応として、小林製薬では臨時取締役会が開催されたようです。すでに報じられているとおり創業家会長と社長が辞任されたそうですが、取締役会が設置した事実検証委員会の報告書及び報告書を踏まえた取締役会の総括も(予想どおり)公表されました。本業でバタバタしていましたが、夕方からなんとか読ませていただきました。いやいや他社でも教訓となるようなポイントがたくさん記載されています。とりわけ「空白の2カ月」(1月15日から3月22日まで)の事実経過が詳細に示されていますが、とても感慨深かった点をいくつかご紹介したいと思います。
まずはタイトルにあるとおり「P医師兼弁護士」の方の存在が大きかった点です。私自身も、この「P先生」はどなたなのか、まったく存じ上げません(「医師兼弁護士」となると相当限られてきますが・・・(笑))。P医師兼弁護士さんには、小林製薬が原因究明に忙しかった2月ころに相談をして、行政への報告の要否や製品と事故との因果関係の究明方法などの助言を求めていたそうです(報告書を読んで初めて知りました)。そして、
小林製薬は、上記P医師兼弁護士の助言を受けた後、各症例の患者が摂取したと考えられる製品ロットの特定を改めて試みた。その結果、各症例の患者が摂取したと考えられる製品ロットに共通点があることに気づき、当該製品ロットに係るHPLC分析の実施に至り、3月15日(金)、ピークXが検出されることとなった(報告書52頁より)。
そうなんです。このP医師兼弁護士さんの適切な助言によってロット特定作業が試みられて「これはたいへんだ」ということになり、行政への報告、商品回収、事態の公表へと至るわけです。逆に申し上げると、このP医師兼弁護士さんの助言がなければ、いまも原因不明ということで行政への報告もなく、公表もされていないという状況だったかもしれません(当時、小林製薬は「因果関係が明確にならないと行政への報告はしない」という方針だったので)。
今年4月22日の(たいへん多くの方に読まれた)エントリー「小林製薬紅麴問題とガバナンス-いつから『有事』だったのか?」でも疑問を呈しておりましたが、上記報告書によりますと、約2週間で4件もの重篤な症例を医療機関から報告を受けたことは過去にも例がなかったそうです。ということは、相当早い段階から小林製薬は「有事」にあったといえそうです(このあたりは私の推測は誤りでした)。だからこそ同社の有事対応には様々な問題があったと言えそうですが、そのあたりも含めて、書きたいことは山ほどありますが、また別途コメントさせていただきます。(なお、メディアの記事を読んでいて、いろいろと同社および経営者を批判したいのはわかりますが、平時の管理を問題にするのか、有事の対応を問題にするのか、きちんと分けて批判したほうが良いと思います)
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コメント
山口先生、お忙しい中 いつも貴重な記事をアップしていただきありがとうございます。
リンク先の調査報告書を取り急ぎ拝読させていただきました。
本件に関する当社内の動きが時系列にわかりやすく整理されて記述されていると感じました。
紅麴自体には毒素を作り出す能力がなく原因究明は難しかったと思いますが、同種事例が相次いだことから他の要因を疑ったのは、先生のおっしゃる通りP医師兼弁護士の存在があったからなのでしょう。
本件は、医薬品や食料品などの安全管理の難しさと、平時と有事の対応の在り方を問う、極めて重要な事案だと思います。
亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、後世の指針・教訓となるよう活用されることを切に願います。
投稿: 艦長 | 2024年7月24日 (水) 09時28分
ありがとうございます。取締役会による諮問事項の「制限」がありますので、報告書の内容については「ツッコミ不足」との批判もあるかもしれませんが、私も艦長さんのおっしゃるとおり、他社の参考になりうる報告書ではないかと考えております。折に触れて参照したいですね。
投稿: toshi | 2024年7月25日 (木) 19時28分