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2024年7月 4日 (木)

警鐘-企業不祥事に対する行政の対応を見くびってはいけない(と思う)

新幹線開業以来初めての「重大インシデント」だった台車亀裂事件の際、調査委員会委員を務めた川崎重工業社ですが、架空取引で「裏金」をねん出して自衛隊員に金品や飲食代を提供していた疑惑が浮上しています(たとえばMBSニュースはこちら)。同社は特別調査委員会を設置したそうですが、防衛省側の調査との整合性は大丈夫なのでしょうかね?いろいろと気を遣うことが多そうで難しい調査委員会ではないかと。それにしても、6月総会で新しく社外取締役(監査等委員)に就任された金融庁ご出身のご高名な方(会計不正事件などを厳しく取り締まる立場におられましたよね。私もご著書で勉強させていただきました)は「架空取引って?なにそれ!?聞いてないよ!」とお悩みかもしれません。以下本題です。

本日は、企業不祥事対応に従事する者としての雑駁な感想です(あくまでも個人的な感想です)。小林製薬の厚労省への対応などをみていて、製品事故が発生した際の行政対応について、コミュニケーション不足が大きな不祥事を招いた(大きな不祥事に発展させてしまった?)ように思えてなりません。最初になぜ消費者庁や厚労省、自治体と適宜適切にコミュニケーションがとれなかったのか、また最近まで(公表すべき)死亡者数や入院患者数に関する算定方法について厚労省と協議の場をもてなかったのか、いろいろと疑問が湧いてきます。ただ、小林製薬を批判することは簡単ですが、これは他山の石として御社でも教訓とすべきではないでしょうか。

ご承知の方も多いと思いますが、厚労省マターの問題に限っても「こども家庭庁」や「デジタル庁」、そして骨太方針を推進する内閣官房に優秀な官僚がたくさん派遣されていて、行政目的を達成するための企業規制に物的・人的資源を投下する余裕はありません(これは金融庁なども同様かと)。このような状況の中で、企業規制の目的を、いかに効率的に達成するか・・・というところが、企業と向き合う優秀な官僚の腕の見せ所であります。

本日(7月3日)の読売新聞一面トップで報じられた独禁法違反企業への確約プロセスを改定する(弁護士らで構成された第三者機関によって5年間の監視・検証を行う)とか、労働者や取引先、会計監査人によって内部告発を行う仕組みを整備して不正をあぶり出すとか、昨年のビッグモーター、損保ジャパン事案のように民間の第三者委員会の調査結果をみてピンポイントで立入調査に入る、といった(民間活力を利用した)効率性重視による企業規制の手法がとても目立ちます。カルテル防止という規制目的で活用されるリニエンシーなど、企業と行政とのウイン=ウインの関係を活用した施策として一番わかりやすいですよね。

したがって、わが国全体の福祉国家政策が肥大化するいっぽうで企業規制はできるだけ効率化したいという政府(行政)の方針を企業もよく理解しておく必要があります。とくに昨年3月から始まった「PBR1倍割れ解消要請」に始まる一連のアクションプログラム(機関投資家、アクティビスト、同業他社を活用して市場の活性化という行政目的を達成する)が「株価爆上がり」で大成功と評価されていますので、この傾向はますます強まるはずです。つまり不祥事に直面した企業としては、行政との信頼関係次第で「企業不祥事による社会的な信用の毀損度(レピュテーションリスクの顕在化)」が変わるといっても過言ではないと思います。わざわざ行政や司法が「正式な権力」によって制裁を科さなくても、民間の力を利用して事実上の制裁や「自然淘汰」を招来させることで、規制当局が、その目的を達成する仕組みを機能させることができるからです。

これからも企業規制、とりわけコンプライアンス経営の実現に向けた行政の施策については、かならず(できるだけ税金を使わず)民間の力を借りて達成することを考えるはずです(これを首尾よく達成できた官僚が出世することになるはず)。トヨタグループやMUFGの不適切行為で明らかなとおり、不祥事はどんなに頑張ってみても起こしてしまうわけですから、(言葉は悪いですが)起きた時に、どれだけ行政とのウイン=ウインの関係で「おめごぼし」してもらえるかという点がコンプライアンス担当者の腕の見せ所、ということになります(もちろん被害者救済については行政と協働して徹底しなければなりません)。

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