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2024年8月26日 (月)

SCOPE3開示で15年ぶりによみがえるJ-SOX(財務報告内部統制)

今週は大型台風が近畿に接近する可能性が高いので、東京出張はキャンセルしてリモートによる面談とさせていただきます。ちなみに事務所もお休みにして、自宅からのリモートの可能性もありそうです。

さて先週、某団体の講演でも申し上げましたが、サステナビリティ情報開示の一環としてサプライチェーンにおけるGHG排出量開示(いわゆるSCOPE3)が義務化されることになりますね。東証プライム企業にとってもハードルが高いわけでして、第三者のデータに依存せざるを得ないところもあるので民事上および刑事上の虚偽記載責任については「セーフハーバー・ルール」が適用されることはご存じの方も多いと思います。

ということは「なんちゃってSCOPE3」疑惑については、SNSや同業他社・アクティビストから指摘することが容易となり、事実上の制裁はレピュテーションリスクの顕在化(社会的課題解決に後ろ向きの企業)ということになります。第三者保証が行われるとなれば、監査法人も批判されることになりますね。たとえばこちらの電通のレポートにも見られるように、民事・刑事上の有報虚偽記載責任が問われずとも日本よりも海外で企業の信用が毀損されるリスクは高いはずです。

こういったリスクを想定すると、財務報告内部統制(いわゆるJ-SOX)の有効性確認の重要性が高まるものと思われます。昨年のJ-SOX改訂により、財務報告内部統制の基本的枠組みが「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」に訂正され、サステナビリティ情報開示における内部統制にも通用する考え方となりました。

つまり、SCOPE3の情報開示にはデータ分析上の限界があるために、どうしても推論や見積りが必要となるわけですが、J-SOXにおける内部統制の実施基準に沿った整備・運用のもとで公表された情報であるならば、虚偽記載責任は問われない、つまり重要な部分において投資判断を誤らせないだけの合理的な理由があると主張でき、事実上の制裁(レピュテーションリスクの顕在化)からも解放される確率が高くなります。

もちろんサステナビリティ情報のすべてがセーフハーバー・ルールによるものではありませんが(財務報告と同様、虚偽記載の法的責任が問われるものもありますが)、GHG排出量開示という極めて重要な非財務情報についての金融庁判断が示されたわけですから、いよいよ15年ぶりにJ-SOXの重要性が見直される契機となりそうであります。

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コメント

いつも大変参考にさせていただいております。

山口先生は『「なんちゃってSCOPE3」疑惑』と書かれていますが、この件については、環境省と経済産業省が開示した「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」においても、

「実態に即した排出量の正確な把握やサプライヤーと連携した排出量の管理という観点からは、取引先から排出量の提供を受けることが望ましいですが、現実的には難しい場合があります。」

と明記されていて、各企業の実務者は「実測は不可能、ではどうやって推計するか?」という問題に直面しています。実際にやってみると

「サプライチェーン全体のデータ集計にコストがかかり、データソースに一貫性や信頼性がない」

ということで、ぶっちゃけ、「なんちゃってSCOPE3にせざるを得ない」というのが大方の現実でしょう。

ちょっと飛躍しますが、この件について、

「数学的な計算によっては解くことができないことが一般に認められている問題を、どの程度解決する可能性を持っているかということである」

という、経済学徒にとっては懐かしい、ハイエク vs ランゲの「社会主義経済計算可能論争」の一説を思い出しました。古くて新しい問題が、ネタを変えて出てくるなぁ、と。

投稿: しがない監査役 | 2024年8月27日 (火) 12時39分

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