原爆裁判-アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子
(本日はビジネス法務とは関係ありません)さて、NHK朝ドラ「寅に翼」も、今週はいよいよ寅子が原爆裁判を担当するところとなりました。原爆の被害を受けた原告が、日本国による米国との平和条約によって一方的に(米国政府に対する)損害賠償請求権を奪われたとして、日本国を被告として提訴した裁判です。その原爆裁判について語られた書籍が「原爆裁判-アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子」(山我浩著 毎日ワンズ 1,400円税別)。ちなみに本書の前半はアメリカにおける原子爆弾投下までの経緯が詳細に記されており、とくに原爆を投下する候補都市を絞り込むあたりの記述は読んでいて胸が苦しくなりました(よって、ご一読はあまりお勧めしません)。
三淵判事が原爆裁判を裁いた、とありますが、実際には東京地裁民事第24部の合議体で審理をしていますので、合議体として裁判に加わった、ということになります。ただ提訴された昭和30年から判決が下された38年まで、裁判長と左陪席は何名か交代しているにもかかわらず、8年間ずっと三淵判事は右陪席として審理に加わっていますので、事実上は判決まで三淵判事が中心的な役割を担っていたことは間違いなさそうです(著者も、同様に推測しておられます)。
なお、三淵判事は原爆裁判の審理過程についてはどこにも記録を残していませんし、また誰にも話をしていないので(合議体の守秘義務)、ドラマの原作や脚本も完全にオリジナル創作によるものだと思われます。実は原爆裁判の記録(訴訟審理の正式記録)は東京地裁にも保管されておらず(すでに廃棄済み)、原告代理人である松井康浩弁護士(ドラマでは塚地武雅さんが演じていますね)の事務所に残された「控え」だけが法律家団体のもとで保管されている、とのこと。
判決文は、正直申し上げて法律的な素養がないと読み込めないほどに精緻であり、格調の高いものです。原告らの原爆による被害に関する賠償請求権は、国際法上、国内法上いずれにおいても認められるものではない、としたうえで「原爆投下は国際法違反である」ことを(世界ではじめて)認めた内容になっています。政治的な配慮ではなく、法理論的に詰めた結論であるところに特徴がありますが、(請求権を認めることで)個別の裁判が多数起こされるという混乱を回避しつつ、原爆被害者への立法・行政による早急な対応を厳しい言葉で求めた点においてはとてもバランスに配慮した判決内容だと思います(実際、この判決直後に「原爆特別措置法」が法制化され、さらに「被爆者援護法」の制定にもつながります)。
三淵判事といえば、少年事件や家事事件を通して「家庭裁判所」でのご活躍が語られますが、この原爆裁判こそ、三淵嘉子という法律家としての才能を知るうえで重要な記録だと思います。ちなみに原爆裁判における国側の指定代理人(訟務検事、つまり三淵さんと同じエリート裁判官ですね)と三淵判事とのやりとりについてもドラマで見ることができれば興味深いですね。
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