海外の事業会社と経産省「企業買収における行動指針」との相性
8月14日にこちらのエントリーで「JR九州グループ会社はさすがにマズいのでは?」と書きましたが、やはり8月15日にグループ会社のHPにて「お詫び」と題して事案の説明がリリースされましたね。まだ国交省の検査が続いているそうです。
さて、すでに各メディアにて大きく報じられておりますが、カナダの大手コンビニ事業会社がセブン&アイHDに対して買収提案を行ったそうです。年間売上高はほぼ同じ程度ですが、時価総額はカナダの事業者のほうがかなり大きい、とのこと。セブン&アイは経産省「企業買収における行動指針」に準拠して特別委員会を設置して、この買収提案に応じるかどうか慎重に判断するそうです。
本当に素朴な疑問なのですが(といいますか、前から疑問に思っていたのですが)、日本ではソフトローと言われる「企業買収行動指針」については、日本の証券市場に関係する利害関係者、つまり上場企業や国内外のファンドについてはルールとしての実効性があるのですが(スチュワードシップコードを併せて)、外国の事業会社にとっては実効性はあるのでしょうか?
そもそもガバナンス・コードや経産省各種指針はEUや英国のルールに基づいて作られたものですよね。アメリカにはコードはなくて訴訟や支配権市場で決着をつけるはずです。では、カナダの事業会社としては、日本のソフトローに従うメリットはどこにあるのでしょうか?以前のように「同意なき買収などけしからん!」といった時代であればともかく、昨年公表された「企業買収における行動指針」は企業価値を向上させる同意なき買収はウエルカムという思想だと理解しています。実際、日本企業どうしでも異業種による同意なき買収提案はされています。このカナダの事業会社によるセブン&アイへの買収提案は3年ぶり2度目ということですから、それなりに協議はすでになされているとも思われます。ということは、日本のソフトローに粛々と応じるメリットが海外事業者にあるようには思えないのですが・・・
私もかつて何社か(事業再編時の)特別委員会の委員をしましたが、本件のような海外の同業者による買収提案のケースで、買収提案者はどこまで特別委員会のプロセスを尊重してくれるのか、あまり知見がないためにわからないのです。まだ前交渉のレベルかもしれませんが、今後の進展は注目ですね。しかし「これがM&Aの世界だ」と言われればそれまでですが、(機関投資家の要請に応じるままに)祖業であるイトーヨーカ堂の多くを閉鎖して、さらに西武・そごうを手放して(つまり一番しんどい仕事を完了して)「選択と集中」を実現したところで買収対象になる、というのもちょっとセブン&アイにとっては気の毒だと思いました。経営の効率性がなかなか上がらず、株価がさえないためにターゲットになっているのでしょうかね。
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コメント
いつも大変参考にさせていただいております。
山口先生は既にお読みかもしれませんが、日経電子版の以下の記事を即座に思い出しました。
『ローソン上場廃止 コンビニは上場してよかったのか』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD054LJ0V00C24A8000000/
この記事には
『「会社は誰のものか」という古くて新しい問いには、「株主」と答えるのが一般的だが、コンビニの場合、実際にコンビニの店舗を運営する加盟店主の存在を抜きには語れないのは明らかだ。』
『コンビニの本社は、一般的な株主が配当や株価の値上がりで利益を得る前に、個々の加盟店主にしっかり利益を上げてもらわないと成り立たないビジネスモデルだ。』
『ただ、セブンイレブンは親会社のセブン&アイが上場しており、依然として様々な時間軸と価値観、経営思想を持つ株主と向き合わなくてはならない。ここ約10年はいろいろなアクティビスト(もの言う株主)からの要求で揺さぶられてきた。株主からの声に押される形で、非中核事業を切り離し、国内外のコンビニ事業に集中する体制を整えた。より一層の利益が見込める企業体になりつつある中で、株主は新たに何を求めてくるのか。』
と書いてありまして、その数日後にこのニュースでした。あまりにタイミングがよくてビックリです。
投稿: しがない監査役 | 2024年8月22日 (木) 14時07分