週刊現代(講談社)の9月9日付け現代ビジネス記事「小林製薬の経営に関わって11年…なぜ彼は口を閉ざすのか『ミスター社外取締役』伊藤邦雄氏を直撃した」の前編・後編を読みました。ちなみに後編の見出しは「『彼が社外取締役を務める企業では不祥事が相次ぐ』…金融業界で危険視される『伊藤銘柄』の正体」というかなりとんがったものです。今まで伊藤教授への(不祥事関連での)突撃レポートって「やりたくてもやれない」といった雰囲気がガバナンス界隈の常識だったはず( ;∀;)。
私はセブン&アイのケースではカリスマ会長さんに解任要求を出し、小林製薬のケースでは創業家会長の退任を決断させたという意味では、伊藤氏は有事に力を発揮する「ガバナンスの雄」ではないかと考えております。経済界の重鎮に退任を迫り、結果を出した人はそんなにいないはず。もちろん顧問料月額50万円を交渉の末に200万円で「手打ち」をして社風を変えようとしたわけですから、それなりにご苦労はあったのではないかと推察します。
ただ、やはり世間では「小林製薬には4人も社外取締役がいて、いったい何をしていたのか」といった批判が渦巻いているのも事実。上記記事における八田進二先生のように「社外取締役がリスク情報に受け身ではダメ。自ら情報を取りに行くべきではないか」とのご意見も多くの方が抱いていたはずです。さらに事件公表後、社外取締役らが執行部に対して「これからはすぐに報告せよ」と厳命したことも報じられましたが、依然として関連死亡者数の変更等で世間から信頼を失う事態が続いています。ただ、なんとなく「伊藤レポート2.0」などが世間でもてはやされておりますと、「なぜ伊藤先生がいるのに・・・」と口にはなかなか出せないもの。そのような中で、前記の「突撃レポート」はなかなかの趣が感じられます。
上記現代ビジネス記事における伊藤邦雄氏の発言でひとつ気になったのが(記者)「伊藤さんが社外取締役を務めながら、なぜ情報が上がってくる仕組みづくりをしなかったのか」に対して(伊藤氏)「マンスリーレポートで監査役に情報が行き、そこから我々(社外取締役)に情報が来るようになっていた。今の仕組みが悪いとは思わないし、他社と比べても劣っているところはない」と回答されています。
本当に伊藤氏がそのように発言したのであれば、監査役(監査役会)が社外取締役に重要情報を伝達しなかった、もしくは監査役(監査役会)の情報感度が悪かった(だから情報が届かなかったのだ)といった意味の弁解にとれます。たしかに常勤監査役さんは今年2月中旬ころまでにはサプリメントの服用者に腎疾患症状者が出ているリスク情報は認識していたことが調査委員会報告にも出ていましたね。ちなみに「事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括について」(2024年7月23日付け)29頁では、
2月 21 日付監査役会においては、常勤監査役から本件問題の概要について説明を行い、社外監査役との間で質疑応答が行われた。2 月 21 日付監査役会における本件問題についての総括は、監査役会としても本件問題を注視していく必要があることが確認されるとともに、事案の性質上、小林製薬としてのアクションが遅くなってはいけないというものであった。
との記載がありますが、公表1か月前の時点で監査役会として、どのような行動に出たのかは明らかになっていません。
ところで仮に監査役が社外取締役に情報を伝達していたとすれば、社外取締役の皆様は何か行動を起こし得たのでしょうかね?うーーん。現に、おひとりの社外取締役の方は熱心に「重要情報はすぐに届けよ」と社員に伝えており、社員がそのとおり早期に重要情報を届けていたにもかかわらず、何の行動も起こしていなかったことが調査報告書で明らかになっています(上記7月23日付け報告書28頁)。私は、他の社外取締役さん方も、同様に早期に重要情報を入手していたとしても、何ら行動には出ていなかったのではないかと推測します。←このあたり、とても重要なポイントですよね。
せっかく週刊現代がパンドラの箱を開けたのですから、小林製薬の監査役会はご自身方が(社外取締役に情報を伝達していなかったとしても)善管注意義務を尽くしていたこと、および社外取締役が(自ら情報を取りに行くことがなかったとしても)善管注意義務を尽くしていたことを、根拠事実をもって表明することが必要ではないでしょうか(いずれも監査役としての職責に関する話であります)。そのあたりが私はずっと気になっております。創業家の力から解放された小林製薬のガバナンスを世間に示すには絶好の機会ではないかと。