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2024年9月26日 (木)

現場に余裕のある企業では不祥事は起こらない(ように思う)

Img_20240925_204019294_512 9月26日午後2時より、袴田さんの再審判決が下されます(静岡地裁)。事件を語れるほどの知識もありませんので、事件の内容には触れませんが、最初の死刑判決が下された昭和43年9月11日、新聞では左の写真のように報じられていました(毎日新聞昭和43年9月11日夕刊記事より)。写真の下には「うす笑いを浮かべて法廷に入る袴田被告」と記載されています。世間の袴田さんへの「見立て」も、おそらくこの記事と同じだったのでしょう。実態は闇の中かもしれませんが、誰かがプロセスで無理をしたことで被害者のご遺族と袴田さんを長く苦しめたことは間違いありません。

最近、いくつかの上場会社の内部統制見直し作業に関わって再確認したことは、「現場に余裕のある日本企業は、ルールなどなくても不祥事は起こらない」ということです。もちろん、海外企業と同様、私利私欲のための不正は起きますが、いわゆる「会社のため」に不正に至ることはない、という意味です。

よく不祥事を予防するためには「組織風土を変えよ」と言われますが、そんな簡単に組織風土は変わりませんし、もし(表面的に)変えることができたとしても、それに伴って間違いなく稼ぎの原動力(現場の活力)も失うはずです。コンプライアンス経営で有名なジョンソン&ジョンソンですら、残念な不祥事は起こしているのです(たとえばこちらのNHKニュース)。したがって、どんな組織風土でも不祥事は起きるわけでして、課題は役職員に仕事を進めるうえで余裕があるかどうか、ということです。

過去の他社不祥事を題材に、双方向でケーススタディ研修を行うこともありますが、「リスクへの想像力」はほとんどの方がお持ちです。ただ、それは平時の冷静な頭で考えているからであり、これが有事となれば頭の思考方法が変わります。納期のプレッシャーやノルマの達成、コストや返品率の削減、社長特命業務の推進等、無理をしないと対処できない場面では、コンプライアンス経営よりも優先順位が高い課題が浮上してリスクへの想像力は後退します。結局のところ、売上を伸ばす、コストを下げるためには生産性を高めるしか方法はなく、現場が無理をしていることを幹部が把握していなければ「不祥事の芽」は容易に「一次不祥事」に発展します。

ということで、私自身は「企業は不祥事と上手につきあいながら事業を推進することが肝要」と思っておりますが、なかなか世間には納得してもらえず「不祥事予防思想」があいかわらず主流です。今のところ、不祥事防止の特効薬のようなものは見出せていませんが、経営幹部はできるだけ現場に余裕があるかどうか、部門横断的に状況を把握することが「不祥事事前防止」への早道ではないかと思っています(この「部門横断的に」というところが日本企業の場合には難問になりますが)。ちなみに表層的な監査では、現場社員は心理学上の認知不協和によって(不正が恒常化していても)けっこう元気に仕事をされているので留意する必要があります。私は、現場の実務をよく知る「第2線」の管理部門の働きに期待しています。

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コメント

袴田さん無罪判決 再審 事件発生後58年 迅速な再審が必要 浅田ドラ虎に翼でも裁判官の人手不足を取り上げていましたが、大学のサークルの先輩で裁判官のちに弁護士になった人が東京地裁にいた頃忙しくて大変と昭和の頃言っていました。袴田さん生きているうちに無罪勝ち取ることができて良かったです。

投稿: 星の王子様 | 2024年9月26日 (木) 14時18分

「現場の実務をよく知る「第2線」の管理部門の働きに期待」は、経営陣にとっては自らの手兵でもあるので、肝胆相照らす内でのリスク管理が可能か、とも思いますが、一方で頻発した品質不正の局面において、「第1線」の要求に引きずられる「第2線」の現実を見させられた者としては、俄かに快哉とは?

投稿: Qちゃん | 2024年9月26日 (木) 16時05分

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