経営判断原則と信頼の原則を「よき意思決定」に活かす-倉橋論文は秀逸(と思う)
9月9日のこちらのエントリーや8月14日にこちらのエントリーで、JR九州グループ会社はさすがにマズイのでは?と書きましたが、やはり予想どおりマズかったですね。コメント欄で「門外漢」さんに詳しく紹介いただいておりますが、国交省から海上運送法に基づく安全統括管理者への解任命令が出されたそうで、海運会社としては厳しい処分となりました(読売新聞ニュースはこちら)。さらに刑事告訴の可能性もありますね。ちなみに鉄道では2014年にJR北海道にも(鉄道事業法に基づく)解任命令が発出されていました。しかし、グループ会社社長がどうしてここまで安全軽視の行動に至ったのか、そこまでしなければならなかったのか、ぜひ真相を知りたいです。
さて、旬刊商事法務の最新号(2369号)における倉橋雄作弁護士のご論稿「経営判断原則と信頼の原則を『よき意思決定』に活かす」を拝読しました。社外取締役がどのように経営判断に関われば「稼ぐ力を取り戻す」ための良質な意思決定が可能となるのか、今、私自身が思い悩んでいる課題へのヒントが本論稿にはたくさん詰まっており、大いに参考になりました。ちょうど9月18日から経産省の新しいガバナンス研究会が始まるそうですので、絶妙のタイミングですね。
これまでの経営判断原則に関連する重要判例(誰もがよく知っている、とまでは言えない玄人好みの裁判例も含む)などを検討されて、意思決定の向上のための「取締役の行動規範」を導き出すわけですが、単純に「敗訴リスク」(安全領域)を語るのではなく、指摘された内容は「提訴リスク」(安心領域)にまで反映させることが可能なので、「攻めのガバナンス」の実践にも応用できそうな視点が掲示されています。かなりわかりやすく書かれていますが、弁護士以外の社外役員の皆様に理解してもらうには、もうひといき通訳的な解説が必要かもしれません。
ただ、私も社外役員として「おぼろげに」迷っていたことが、裁判例の分析・検証・比較などからきちんと取締役の行動規範に「昇華」させている点は秀逸。もちろんご異論・ご批判もあるかもしれませんが問題提起としては素晴らしいと思いました。旬刊商事法務も、定期購読者でないとなかなかお目にかかれない雑誌ですが、なんとか多くの人に読まれて「よき意思決定」に活かすための視点については企業実務家、とりわけ社外取締役の皆様に理解していただくことは有益ですね。今まで「経営判断原則とはこんなもの」と当たり前に考えていた論点に、新たな気づきを得ることができました。
ちなみに続編は「信頼の原則」を「よき意思決定」に活かす内容かと思われますが、こちらも楽しみです。
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