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2024年10月 1日 (火)

危機管理ビジネスの高額化に伴い不祥事未然防止対策への関心高まる

ある雑誌にも寄稿したところですが、危機管理ビジネスの成熟化に伴って、最近は(経営コンサルタントからの示唆もあり)不祥事をいかに防止するか、という「未然防止対策」への関心が高まっています。私も危機管理ビジネスの恩恵(?)にあずかっている者の一人ではありますが、不祥事が発覚して大きく社会的信用を毀損することになりますと、調査委員会だけでも数千万円から数億円の経費を要するだけでなく、(上場企業の場合には)代表取締役の再任も危うくなるわけでして、その代償は大きいです。よってこのような風潮にも「なるほど」と思うところがあります。

企業不祥事防止対策として、よく「企業風土を変える」とか「経営者のコミットメントが大切」「内部統制を整備する」と言いますが、それだけでは抽象的であり、なかなか実現困難なものであります。そこで、実際には以下のような対策がとられます。

まず事業者団体、業界団体による「不祥事撲滅活動」ですね。健康食品の安全性確保のために民間団体による認証制度を創設する、人権リスクの顕在化を防ぐために万博協会自身が点検作業を実施する、といったところが今年の典型例です。今年は大手損保の情報流用問題などもありましたが、損保協会が先頭に立って代理店出向指針を策定することも想定されていますが、このような部類の施策です。特徴として、業界トップの企業が音頭をとらないと実現は困難、ということです。

つぎにAI、DXの利活用による未然防止策です。以前であれば「全件調査」など不可能だったわけですが、AI、DXの高度化によってこれが可能となり、不正をやりたくてもできない体制を構築するというもの。情報に関する銀証分離に問題があり、金融庁から業務改善命令を受けたMUFGではAI録音検査によって従業員の会話を分析してアラームを鳴らすというものであり、たしかに未然防止の実効性は高そうですが、かなり費用は高額化するでしょうね。品質不正の防止にも品質管理のDX化が図られ、会計不正にもAI監査が導入され、いずれも不祥事の芽の段階での捕捉を狙いとしています。

さらには「ステークホルダーとの協働」も指摘できます。カスタマーハラスメントなどは被害を受ける側の協力がなければ未然防止はむずかしいですし、独禁法違反は下請先や取引先、業法違反は監督官庁、そして労働法違反は従業員の協力がないと未然防止は不可能です。お金はそれほどかからないかもしれませんが、人的資源は投入する必要がありそうです。自社の不正を予防するためにステークホルダーに協力を要請するというのは、リスクマネジメントの発想を転換しないと実現できないかもしれません。

なお、これらの施策が不祥事未然防止という結果に向けて実効性を維持するためには、「リスクマネジメントの失敗を許容する経営陣の姿勢」が不可欠です。当然のことながら、最初からうまくいくはずもなく、失敗と反省を繰り返しながら、ようやく実効性が高まるというわけでして、そのあたりの環境作りにガバナンスの機能発揮が求められるところだと考えています。ちなみに、私は不祥事防止のために巨額の投資ができる企業からのご相談はあまりないので、平時から(有事を想定して)自浄能力を高める仕組み作りを目指す企業を応援することが多いですね。

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