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2024年10月 7日 (月)

社外取締役評価において注目すべきは「時間軸でモノが言える人」

土曜日(10月5日)は私が理事を務めております日本ガバナンス研究学会の年次大会が開催され、いつもながら自由論題、統一論題において様々な気づきがありました(お世話いただいた追手門学院大学の藤原先生、そして大学関係者の皆様に厚くお礼申し上げます)。そのひとつではありますが、金融庁企業開示課の方による特別講演の中で「まだあまり話題になっていませんが」との前置きで、10月2日に東証から公表された「アクション・プログラム2024を踏まえたJPXプライム150指数構成銘柄の状況」に注目してほしい旨のお話がありました。ガバナンス改革が企業価値向上に有意な影響力があるかどうか、今後様々な検証・分析がなされる際に参考になるのでしょうね。

さて「有意な影響力がある」といえば、一週間ほど前に、ブルームバーグニュースで「掛け持ち社外取締役は株価にマイナス、形式主義に投資家が厳しい視線」と報じられており、SBI証券のチーフアナリストの方の分析結果によれば、東証プライム指数を構成する1600社余りのうち、3割程度の約500社で兼任社外取締役を抱えているが、兼任社外取締役の存在する企業のほうが有意にパフォーマンスが悪いとのこと。「経営者に忖度(そんたく)せず、異なる常識を持ち込むことが大事とされる社外取締役で、掛け持ちを入れているのはガバナンスの弱さに関連している可能性がある」と分析のうえで、株価低迷の背景には取締役会の多様性確保で後手に回り、社外取締役の争奪線に加わらざるを得なくなったことがあると指摘しておられます。

私も(これだけ企業統治改革の実質化が叫ばれている環境であれば)兼任は2社までであり、それ以上の兼任は(本職をもつ社外取締役としては)むずかしいのではないかと考えております。なぜなら、私は「社外取締役は平面軸ではなく、時間軸で物事を考えることができる人」こそ、企業価値向上のために役に立つと思っているからです。これは私の社外取締役としての失敗経験や周囲で素晴らしい社外取締役から学んだ経験からであります。

たしかに取締役会評価において「スキルマトリクス」が重要視される時代となれば、取締役会の審議において自身の専門的知見をもとに、様々な角度から意見を述べることは期待されていますし、それなりに有識者となれば期待に応えることができるかもしれません。しかし、「3か月前の決議に至るプロセスからみたら今回の議論はおかしいのではないか」「半年前に条件付きで承認とされたあの案件の進捗(条件は成就されたかどうか)はどうなっているのか」「1年前に『継続審議』とされたあの案件は、なぜ再度上程されないのか」といった時間軸を前提とした議論を行うためには、過去にさかのぼって何度も勉強しなおす時間が必要であり、本業を持つ人がそのような考察に時間を割くことができるのは多くて2社まで、と考えています(経営判断に責任をもつ、というのはこういったことではないでしょうか)。

取締役会改革が進んでモニタリングモデルの取締役会が主流となった以上、監督責任を果たすためには事務局からの「議題に対する事前説明」だけでは足りません。本当に経営理念に沿った判断を行うのであれば、取締役会における審議は「言いっぱなし」に終わらず、過去の発言に責任を持ち、時間軸に沿って動的に判断を下す必要があると思います。

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