裁判官のインサイダー取引疑惑と民間出向制度の是非
つい先日「インサイダー取引防止体制の構築はストーリー仕立てで考えるべき」なるエントリーにて、取引推奨行為も犯罪や行政処分の対象になってしまうから気を付けましょうといった意見を述べましたが、もっとショッキングな「ベタなインサイダー取引疑惑」が話題になっております。
まだ強制調査段階の「疑惑」なので断定はできませんが、金融庁に出向している裁判官の方が出向直後からインサイダー取引を繰り返していた、との報道がなされています(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。企業開示課課長補佐の身分でTOB関連の情報に触れる機会を利用して「自己名義」で取引を繰り返していたとなりますと、うーーーん、どんな正当化理由があったのか(たとえば「すでにリークなどで開示されていた」とか「未だ重要事実に関する社内の決定事実がなかった」とか?)わかりませんが、あまり善解できそうな理由は見当たらないようです。
裁判官の民間出向制度は、読売新聞の記事にもあるように、最高裁が主に任官10年未満の若手を対象に中央省庁などへの出向させる制度でして、出向中は裁判官の身分をいったん離れ、裁判所に戻る際に改めて任官する、というものです。大手弁護士事務所等にも出向してM&A実務を学ぶケースもあり、おそらく商事部などの裁判官となった際には、出向時の知見が役に立つのでしょうね。裁判官が国の指定代理人を務める「判検交流」はいろいろと異論もあるものの、民間出向制度については有意義なものと一般には理解されていると思います。
ただ、今回の事件のように裁判所や金融庁の信用を毀損するような問題が発生するくらいなら、こちらのエントリー「変わるか?-最高裁の金融商品リスクへの評価アプローチ」でご紹介したように最高裁の中で裁判官の研修制度を作るほうが得策ではないかと。また、過去の監査学会で報告させていただいたような(こちらのエントリーをご参照ください)専門部事件への専門家の活用などで裁判官の知見を補完するということも検討されるべきではないでしょうか。裁判所や金融庁の「無謬性(むびゅうせい)」を重んじて、単純に個人の問題として捉えるには、やや問題が大きすぎるように思います。
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コメント
メガバンク、裁判官(金融庁に出向中)に続いて「東証社員の不正株取引疑惑(下記ご参考)」です。なぜ、発見されないと考えたのか、とても不思議です。摘発される可能性が高いことが周知され、類似の違反行為が少なくなるとよいです。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20241023-OYT1T50027/
投稿: 門外漢 | 2024年10月23日 (水) 10時47分