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2024年10月 8日 (火)

不祥事続発-監査役員の復権に不可欠なシステムについて

10月10日から開催される日本監査役協会の監査役全国会議が満員御礼の大盛況ということで、誠におめでとうございます。対面形式による会議が普通に開催されるようになり、リアルでの講演ならびにシンポはやっぱり楽しいですよね。「激変するビジネス環境と監査役等の役割」がメインテーマということで、妥当性監査も含めた監査役員の活動に期待を寄せております。

さて、10月7日の日経ビジネス「実践コーポレートガバナンス」欄において、松田千恵子教授が「企業不祥事続発、監査は機能しているか 支える人材なしが過半数」なる記事を執筆されておられます。企業不祥事が頻発する中で、監査役員や内部監査の役割が注目されているが、現実には社内の人的資源が十分に配分されておらず、なかなか機能が発揮されていないことを危惧されており、私もまったく同感です。内部監査部や監査役スタッフが将来有望な若手社員のキャリアパスの一環になっていない、という現実があり、あいかわらず往査中心の監査職務に頼っているところがありますね。

ところで、私は監査役員のスキル向上や頑張りに期待するまえに、どうしても監査環境を整備することが重要と考えておりまして、なによりも監査役員就任者については社内の人事制度からの切り離しが不可欠と痛感しております。最近、監査役員の任期である最低4年間務めることなく、途中で退任して後継者にバトンタッチする会社が実に多い。この傾向は任期2年の監査等委員(監査等委員会設置会社)が急増するようになってから、ますます顕著です。監査役員の復権を阻む最大の壁は「同期の取締役が退任する時期に併せて監査役も退任する」という会社の人事慣行にありそうです。

つまり、監査役が社長の指揮命令から独立してその職務を果たすためには、当然のことながら職務の独立性が保障される必要があり、同期の社長が辞めようと、執行役員が辞めようと、(監査役であれば)最低4年は職務上の地位が保障されていることが前提です。「ウチの会社は以前からそうなっているので」ということで何の疑問もなく任期途中で辞任されてしまうのであれば、もはや社長に厳しい意見を述べることも期待できないと思います。監査役員の方々も、さまざまなスキルを学ぶ機会が多いとは思いますが、監査役員の役割を果たすためには、まず監査役員の独立的職務を尊重する会社の姿勢を人事制度の改革で示す必要があります。

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コメント

本当にいつも、深度のある論点をいただきありがとうございます。
社外取締役のサポートを社外から行っている立場からすると少々我田引水ですが、常勤監査役員の人事については、最大のメリットである「社内の事情に詳しい」という大きなメリットがあるため、ある程度は社内の人事制度に組み込まれるのは仕方がないと思います。
それよりも「オーナー経営者による地位の確保や暴走を防ぎ顧客からの信用を重視すること」は社外役員の役割で、先生がご指摘されたように、会社が常勤監査役員の独立性を十分に尊重しないという問題があっても、社外役員がその役割をしっかり果たせる環境を整えることで、このデメリットを補うことが可能です。この方が理にかなっており、実現の可能性も高く、効果的だと思います。
分かりやすい例で言えば、企業が不祥事を起こした時に経営陣がどれだけ真摯に対応していたか、そのプロセスや姿勢を、外部に説得力をもって説明できるのは社外役員ではないかと。もし、例の件の最初の記者会見の時に社外役員が同席して、社内での調査の取り組みや健康被害への対応を「最大限のことをやっていた」と言えるようなことができていれば、「ガバナンスへの期待」には十分に応えていた、と言えるのではないでしょうか。
では、どうすればそのような万一の状況に対応できるでしょうか?それには、普段から経営陣はじめ社内各部署から間接的にでも社外役員に、会社の状況、特に悪い情報を必ず報告する体制を整える必要があります。このため、常勤監査役員がハブとして適切に機能(初動体制を確認、必要な措置や論点の見落としがないかモニタリング)し、社外役員と情報を共有することが重要です。問題があれば監督機関としても行動する必要もあります。こうした体制が整っていれば、異例事項発覚後の対応のまずさによる不祥事はかなり防げると思います。
社外役員への情報提供の中核としての役割を常勤監査役員が担っていれば、その関係の密接さから、2年程度で異動されるなどということは、社外役員も了解できないでしょう。
仮にオーナー経営者やカリスマ社長が絶大な権限を持っていたとしても、それゆえ「御身の行いの正しさ」を社外に証明できる人(社外役員)が重要だと社内で認知されれば、その名代たる常勤監査役員の復権も実現可能だと思います。

追)アナリスト協会のご講演で直接お話を伺えることを楽しみにしております。

投稿: 柳澤達維 | 2024年10月 9日 (水) 06時37分

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