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2024年10月25日 (金)

東証社員によるインサイダー取引疑惑-どうなる「市場の公正性確保」

門外漢さんが「裁判官のインサイダー取引疑惑と民間出向制度の是非」にコメントされているように、立て続けにメガバンク、裁判官(金融庁職員)、東証職員のインサイダー取引疑惑が発覚しました。強制調査がなされている段階であり、まだ今後の展開は読めませんが、たいへんショッキングな事件です。自己売買や取引推奨など、実行行為は異なりますが、いずれも「なぜ、この立場の方が」との疑問が湧きます。そんなにインサイダー取引は魅力的なのでしょうかね?一連の事件を振り返り、企業のコンプライアンス経営の視点から3点ほど感想を述べます。

ひとつは「不祥事はどこの組織でも起きる。起きたときにどうするか、ということを平時から考えるべき」と常々申し上げておりますが、今回の例はまさに「(不祥事発生を前提とした)早期発見・早期是正重視の不正対策の重要性」を裏付けるような事例になったことです。どんなに頑張っても不祥事は必ず(どこの企業でも)起きます。東証社員の方はTOB関係資料をスマホで親族に送信していたそうですが(日経記事より)、もうここまでくると、東証が上場企業に勧めている「インサイダー取引防止体制」を模範的に整備していたとしても防止することは困難でしょう。まさに「内部統制の無視、無効化」、つまり内部統制の限界事例です。「やっても必ず捕まるのだから、やるだけムダ」という「機会喪失」に訴える手法には限界があるということです。東証も金融庁も、2020年のこちらのエントリーで紹介した大阪府警の取組みのように、「自組織でもインサイダー取引は起こり得る」という前提での対策をとることも検討されてはいかがでしょうか。

ふたつめは「不正予防対策」の課題です。銀行や東証、金融庁、裁判所などは社会的に「無謬性」「廉潔性」が求められますから、「早期発見重視」といっても(それだけでは足りず)、どうしても未然予防重視の対策をとりたくなるはずです。「不祥事は起こしてはいけない。起こさないためにはどうすべきか」ということを検討します。しかし、AIの発達によって不正防止対策の実効性も上がってきたとはいえ、未然防止対策は日頃の通常業務に高い負荷をかけます。「職員への信頼」を前提とした性善説による内部統制ではなく、性悪説による内部統制は投下する費用も膨大になりますし、事業部門の活動に相当な手間をかけることになり、業務の有効性を低下させます(マルウエア攻撃によるシステム障害の防止対策が一番わかりやすいかと)。どっちを重視するかは経営判断となるはずです。

そして三つめは(市場の公正性確保に関わる大問題ですが)「インサイダー取引規制に精通している現役の金融庁や東証の職員でさえインサイダー取引をやるのだから、本当は(うまくやりさえすれば)不正取引が発覚する確率は低いのではないか?」との印象を国民に抱かせたことです。東証が市場を常時監視していて、不審な株取引は追跡しているわけで、私などは「絶対に発覚する」「運が悪くて発覚した、はありえない」と認識しています。しかし、それは市場関係者の「都市伝説」であり、人的資源に制約がある東証、当局はリスクアプローチで取り締まらざるを得ないのではないか、との疑念も自然に湧いてきます。この「疑惑」をこれから金融庁、東証はどうやって解消していくか。(専門家の範囲内でわかる)「安全」では足りず「安心」を国民に届ける必要がありますから、どうすれば「安心」を証明できるのか、その工夫が求められます。

「遺憾である」「論外」「許されるものではない」などとコメントする前に、以上3つの課題については組織のトップが真剣に検討すべきです。トップ以外に意思決定できる人はいません。

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