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2024年10月10日 (木)

インサイダー取引防止体制の構築はストーリー仕立てで考えるべき

今年7月、三菱UFJ銀行の行員の方が「業務で知り得た取引先企業の重要事実を公表前に親族らに伝えていた」との疑いで金商法違反(情報伝達行為)の強制調査を受けたことが報じられていました(「俺は親族が取引をするとは思っていなかった」と抗弁を出しておられるそうですが、どうなったのでしょうかね?)。同行員の親族らは、行員から聞いた情報に基づく株取引で計数百万円の利益を得ていた可能性があるとのことですが、まさに当ブログで(改正前金商法違反ではありますが)「家族を不幸にするインサイダー」「家族を不幸にするインサイダー(2)」で危惧していたような事案に近いものであります。

現行の金商法違反(インサイダー取引規制法令)は重要情報の伝達行為のほかに受領行為、そして(重要情報の提供なくして)取引推奨行為にまで規制が及んでおります。どんなに内部統制システムの構築(法令違反防止体制)に注力しても、上場企業社員にとっては「甘い蜜」であり、100%未然防止することは困難であります。不幸にして社内でインサイダー取引者が出てしまった場合には、企業としては体制整備を尽くしていたことを説明して「あくまでも不届き者の個人的所業」として抑え込み、法人あるいは役員に法的責任が及ばないようにしたいところです。

ただ、本当に(不幸な社員を作らないために)未然防止に注力するのであれば、役職員への研修においてインサイダー取引に関する知識を理解してもらうよりも、「わかっちゃいるけどやめられない」根本原因についてストーリー仕立てで解説するほうが実効性が高いのではないでしょうか。たとえば情報伝達行為や取引推奨行為を防止するためには、①義理人情シリーズ、②派閥争い、お家騒動シリーズ、③「ええかっこしい」シリーズあたりかと。

①は当ブログでも過去に何度か登場したビジネス上の貸し借りの対象になるというもの。「これだけの借金を返す気があるなら誠意をみせろ」と言われて、とりあえずインサイダー情報を教えることで誠意をみせた、という事例がありましたね。②はM&AやTOBといった重大インシデントを目論む一派とこれを阻止したい反対派での情報合戦に巻き込まれて、思わず(支持者を増やすことに躍起となり)関係者以外にも漏らしてしまったという事例です。関係者にとってはインサイダー取引どころではなくても、情報を受領してしまった者を違法行為に誘うことになります。③はスナックでの会話「ママ、いいから何にも聞かずに〇〇株を買っておけよ。悪くない話だって。年末のハワイ旅行の費用くらい、すぐにできちゃうかもよ」というのが典型例かと(いずれも過去の課徴金事例がありますね)。

上場企業の社員ともなれば、インサイダー取引が法令違反として処罰対象とされることくらいは理解しておられるはず。取引推奨行為についても勉強すればすぐに理解できると思うのです。ただ、理解したとおりに行動できないのが人間の性(さが)でして、甘い蜜の誘惑に負けないためのイメージ作りが未然防止にとっては不可欠であります。一度、検討してみてはいかがでしょうか。

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