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2024年10月30日 (水)

企業不祥事の発見時における役員の義務と権利について(松井先生のご論文)

法曹時報第76巻第10号(2024年10月号)に松井智予先生(東京大学大学院教授)のご論文「企業不祥事の発見時における役員の義務と権利について」が掲載されておりまして、とりわけ不正の疑いを抱いた会社役員の違法行為是正措置に関する行動規範については、公益通報者保護法を学ぶ者にとってはたいへん参考になるところです。

とりわけ「告発者である取締役への退職慰労金不支給事例」(広島高裁令和5年11月17日)は、判決全文にあたってみる必要がありますが、有事における取締役の行為規範に関する会社法の解釈だけでなく、公益通報者保護法が会社法の解釈に及ぼす影響などにも触れられており、今後の有事における取締役の善管注意義務、注意義務の尽くし方を検討するためには理解しておく必要がある判例と認識いたしました(令和6年7月8日の宮崎テレビ事件最高裁判決との関係についても解説されています)。

私の名前も(注)でちょこっと出てきますが、松井先生が指摘しておられるように、これまでは違法行為の予防措置の懈怠に光をあてて法的責任を論じることはよくありましたが、いざ「疑惑」を認識した時点で、果たしてどのように取締役は振る舞うべきなのか(不正疑惑の報告をした者も、報告を受けた者も)、どのような調査方針を策定しておくべきなのか、といったレベルで善管注意義務違反、忠実義務違反を論じることはあまりなかったように思います。そのあたりを議論するにあたって参考になる裁判例が松井論文では整理されています。

まさに「公益通報者保護法は成立後間もないため、会社法との分担や双方の存在が双方の解釈論に与える影響は未知数」であります。前回の法改正の際には田中亘先生(東京大学教授)がいくつかの論点を整理するご論稿を出しておられましたが、公益通報者保護法も会社法も更なる法改正が予定されておりますので、松井先生の問題意識がさらに広く議論されることを期待しております。

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