「内部通報者への不利益取扱いに罰則導入」と言うけれど・・・
今朝(11月6日)の日経新聞1面では「内部通報者への不利益に罰則 消費者庁が導入案(人事面で保護)」との見出しで、公益通報者保護法の改正の方向性に関する報道がなされました。おそらく経済界では「ついに刑事罰導入!?」と、かなりショッキングな印象を持たれたように推察いたします。ちょうど、私も委員を務める公益通報者保護制度検討会(第6回)が6日に開催されましたので、現状について少しだけコメントをいたします(もちろん、私個人の意見です)。
検討会の様子は動画でライブ配信されていますので、すでにご覧になっておられる方もいらっしゃると思いますが、「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰の導入」については、ほぼ方向性が固まりつつあるのは事実です。ただ、対象となる公益通報の範囲をどうするか、という点では今後さらに詰める必要があります(これ結構難問でして、現時点で公益通報の対象とされる500本の法律違反行為の全てにおいて刑事罰が導入されるわけではありません)。
さらに私がもっとも疑問に思うのは、刑事罰の対象となる「不利益取扱い」の内容です。解雇、懲戒、減給等、不利益であることが明確で、かつ、労働者の職業人生や雇用への影響から不利益の程度が比較的大きいものに限定すべき、との意見が根強いという点です(上記日経新聞でもそのように想定されている、と報じられています)。山本座長が最後に「まだ、この点については委員間の意見の開きが大きい」と締めくくっておられましたが、私も(M委員の意見に同調する形で)モノ申しましたが、「通報したことへの不利益取扱い」の主流は人格権侵害と評価しうる程度の「ハラスメント」「退職勧奨」であり、これでは骨抜きにされてしまう(制裁条項の実効性が失われてしまう)可能性が高い。推進派として「やっと刑事罰が導入された」と喜んでいる場合ではないのです。検討会が終盤に来ている現在、もっとも重要なポイントであります。
本日、ニュースで大きく取り上げられているとおり、大阪の某私立大学の職員の方々のパワハラ事件の和解が成立しましたが(大学を運営する法人側が謝罪)、事件は8年前に起きたものです。「退職勧奨」しかも、学校法人側は第三者を活用した形で退職に追い込んでいたことが推測されます。このような案件を少しでもなくすための法改正、事業者への罰則導入ではないのでしょうか。罪刑法定主義の観点を考慮したとしても、事業者による「事実上の嫌がらせ」を罰則から除外することは大反対です。現行法上、すでに法12条に対応業務従事者による「正当な理由なく」通報者を特定しうる情報を漏えいした場合には刑事罰とする規定があるのですから、罪刑法定主義の観点を考慮しても、事実上の嫌がらせを刑事罰の対象とすることは可能と考えます。
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かつて社外取締役をご一緒していた方(経営コンサルタント会社社長)が法制審議会委員として危険運転致死傷罪の改正に携わっていたころ(2018年)、法律家委員や法務省事務局(裁判官)は「理屈のうえでは到底無理」と苦笑していた法案が、最終的に通る過程を(現在進行形で)お聞きしておりました。もちろん内閣法制局の「高い壁」があることは重々承知しておりますが、改正を必要とする立法事実の積み重ねで壁を乗り越えることもできるように思います。本日H委員から「山口さんが提案してくれたから、くすぶっていた論点が明らかになりましたね」と言われ、(能力不足で)多少恥ずかしい思いをしても、改正の必要性が高いことを汗をかきながら表現することは大切だと実感しております。
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