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2024年12月30日 (月)

今年もご愛読いただき、ありがとうございました。

船井電機の破産決定取消申立事件に対する東京高裁決定(即時抗告に対する却下決定)については、なかなか興味深い決定理由です(こちらの朝日新聞ニュースの有識者のコメントが象徴的)。取材の申し込みもいただきコメントしたかったのですが、残念ながら来年に持ち越しです。川崎重工業の特別調査委員会中間報告書も残念ながら読めておりません。

さて、29日をもちまして私の仕事納めとなります。10月以降は満足にブログの更新もできませんでした。行政処分対応はひとつ解決しかけているものの、いくつかのアクティビスト対応事案は来年に持ち越しでして、おそらく3月ころまでは現在と同じような状況ですかね。

ということで、私的には仕事が納まった意識はないのですが、今年も拙ブログをお読みいただき、ありがとうございました。来年も、少しずつではありますがブログを更新したいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします(来年4月で開設20周年となります)。

なお、百条委員会の参考人として意見陳述を行った兵庫県知事の匿名文書問題については、知事擁護派、反知事派いずれの方々からもたくさんのコメントをいただきましたが、百条委員会が継続している関係で一切のコメントを控えさせていただきました。それゆえ、皆様からのご意見もすべて非公開とさせていただいております。どうかご容赦ください。

どうか良いお年をお迎えください。

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2024年12月27日 (金)

不正の未然防止に向けた「動機アンケート」は禁じ手か?

今年は日本を代表する名門企業の不祥事が多かったせいか、再発防止策をみても「早期発見・早期是正策」よりも「不正未然防止策」のほうに力点が置かれているように思われます。その代表格とされる三菱UFJ銀行の貸金庫窃取事件は「どうすれば二度と同じ不祥事の発生を防止できるのか」とても悩ましい問題ですね。

ということで想起されるのが2年前の滋賀銀行の(行員による横領事件への)再発防止策です。滋賀銀行の行員が、自らの借金返済に行き詰まってしまい横領に走ってしまった、という事件ですが、滋賀銀行は、この事件を契機に全行員に対して(任意ではありますが)借金や投機に関する自己申告制度を設けたそうです(朝日新聞ニュースはこちらです)。行員の借金に関する個人情報を事実上強制的に(?)申告させるという制度は、たとえ不祥事の予防の効果があるとしてもプライバシー権侵害にあたるのでは?との意見もありそうです。

この事案の教訓は「不祥事の未然防止に向けて『性弱説』に立って不正を予防しよう」と宣言するのは容易ですが、いざ実行に移すとなれば人権侵害のおそれとのバランスをどう図るか、とてもむずかしい判断を迫られるということです。早期発見・早期是正型の再発防止策よりも数段レベルは高いはず。金融機関の行員に多額の借金があるからといって、ほとんどの人は「銀行のお金に手をのばす」などと考えないわけでして、動機と不正行為との距離はかなり遠いようにも思えます。むしろ「困っている行員に伴走してあげる」ことが必要であれば、それは支店内でのコミュニケーションや心理的安全性の問題のほうが大きいのではないかと。

ひょっとしたら、東証や金融庁等の職員によるインサイダー取引防止にも同じ方針が活用されるかもしれません。その後、滋賀銀行の上記「借金・投機アンケート」はいったいどうなったのか、気になるところです。

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2024年12月26日 (木)

公益通報者保護法の運用に関する私の意見-具体的事例に触れて

本日(12月25日)兵庫県の百条委員会が開催され、県としての公益通報者保護法違反の有無を認定するための証人尋問等が行われたようです。私も9月に参考人として意見を述べた関係者の一人なので、個別具体的な意見をここで述べることは(百条委員会が継続中ということもあり)差し控えます。ただ、組織における日頃の公益通報制度の運用状況が、いざというときに組織を助けるのではないかと思うところがあるので、少しだけ(個別案件を離れて)意見を述べます。

今年9月30日の神戸新聞記事によりますと、兵庫県において2006年から2024年までの18年間で、内部通報は135件、うち受理件数は42件、つまり通報のうち3割程度しか受理しておらず、しかも是正につながったのは1割だそうです。これまで外部窓口はありませんでした。一方、私が公表数値から調べたところでは、神戸市では2021年から23年までの3年間で内部通報件数は67件、うち受理件数は58件です。つまり通報のうち87%は受理しており、なおかつ外部窓口は3つの法律事務所に別々に設置されています。さらに隣の大阪府では2018年から23年までの5年間で通報件数は131件、うち受理件数は82件であり、通報の6割が受理されています。外部窓口にも40件ほどの通報があり、うち7割が受理されています。この数値の比較や外部窓口設置の様子から、兵庫県の公益通報への対応体制が「長年にわたって公益通報者には厳しい運用」だったことがわかります。

いま、兵庫県知事の対応が問題となっていますが、それよりも元々兵庫県という自治体が公益通報を軽視してきたツケが回ってきたのではないかと考えています。ふだんの対応体制が脆弱だったからこそ、組織として3号匿名通報への対応が適正にできなかったのではないかと(もし兵庫県に神戸市と同様、複数の外部窓口-具体的には法律事務所-が設置されていたとすれば、元県民局長も3号通報はしなかったのではないか・・・との疑問も湧いてきます)。平時にできないことを有事に突然できるようになるのはむずかしい。

同様のことは(たかさんもコメント欄でご紹介されている)12月24日の毎日新聞朝刊1面で報じられていた「大川原冤罪 公益通報放置」の見出し記事で報じられている警視庁の事案にも如実に表れていると思います。警視庁職員から虚偽有印公文書作成・同行使罪に該当するおそれのある公益通報が警視庁の内部通報窓口に届いたにもかかわらず、具体的な調査もせずに放置していた、というものです。匿名通報ではあるものの連絡先アドレスも記載されていたわけですが、警視庁の内部通報担当者は「本当に警視庁の職員かどうかわからないから、身分を明かしてほしい」と執拗に要望したそうです。

もちろん、私も窓口担当者として同様の要望を出すときがあります。不正行為の是正に熱心であればあるほど、このような場合には(証拠収集への協力も含めて)通報者との密なコンタクトをとりたくなるものです。ただ、私は外部窓口担当なので「会社には匿名のままでよいから、弁護士である私には調査の必要があるので教えてほしい」と言えば、6割ほどの通報者は実名を明かしてくれます。日ごろから外部通報窓口を活用している組織であれば、このような通報者の悩みは一定程度は解決できるはずです。公益通報者保護法が問題となるのはいつも組織の有事ではありますが、実は平時からの取組みの巧拙が有事に反映される・・・ということを認識していただきたい。

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2024年12月25日 (水)

完全オンライン株主総会の手続き簡素化(会社法改正)

本日(12月24日)、私も委員を務めております消費者庁の公益通報者保護制度実効性検討会(第9回)が開催され、報道されているとおり公益通報者保護法の改正に向けた報告書案がとりまとめられました。内容については述べませんが、5月から何度も実質的な審議を重ね、ここまでやっとだとりつきました。山本座長の「最終意見陳述」が心にしみました。もうここまで来ると、なんとしてでも来年の通常国会に改正案が上程されることを強く希望しております(以下本題-本日は完全オンライン株主総会に関するお話です)。

さて、12月23日の日経ニュースによりますと、政府の規制改革推進会議は株主総会を完全オンラインで開くのに必要な手続きをしやすくすることを検討しているようです。(産業競争力強化法上で求められるような)定款の変更や所管大臣による確認も不要として手続きを簡素化するそうで、会社法の具体的な改正項目を検討して、2025年2月に予定する法制審議会に諮問、早期の国会提出を目指す、とのこと。ちなみに経産省「稼ぐ力の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の報告書案」でも「バーチャルオンリー株主総会」として会社法改正が検討されていますね。

もし会社法改正につなげるのであれば、これまで誰もが想像する「リアルな株主総会」の電子化による延長・・・のようなイメージを持ってしまいそうですが、そのような「株主総会効率化」のイメージはいったん頭の中から消し去って、新しい株主総会のイメージを作り直す必要があるのではないかと思う次第です。つまり、企業統治改革の進展によって、受託者責任を負った株主(機関投資家)と会社との対話は一年を通じて行われているのであり、その年間を通じたエンゲージメントに基づく賛否集計システムが年に一度の株主総会として稼働する、というイメージです。

完全オンライン株主総会への取組みも、日本の企業において、DX革命が既存事業の効率化には寄与しても生産性向上には寄与していないのと同じ状況に陥ることが懸念されます。同じ場所に集まって議論することによって、株主の意見を集約していくという従来の発想を消し去って、株主(機関投資家)にも受託者責任という法的義務を尽くしていただき年間を通じたエンゲージメントを必須のものとしなければ、バーチャルオンリー株主総会を上場会社に浸透させることはできないように思いますが、いかがなものでしょうか。

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2024年12月16日 (月)

新しいコーポレート・ガバナンスとこれからの企業経営(会計教育研修機構セミナー)

12月15日の日経ニュースでは「上場廃止最多の94社 東証企業が初の減少、新陳代謝進む」との見出しで、2024年に東京証券取引所で上場廃止する企業は94社と13年以降で最多となる見通しであることが報じられています。2024年8月30日付け東証リリース「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する今後の施策について」の中で、東証は今後の上場市場運営方針として「上場維持コストが増加し、非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重。」と宣言しているので、上場廃止数が増えることは当然の流れではないかと思います。

さて、そういった東証の運営方針のなかで、資本市場で企業価値を高めるための経営をいかに実現していくべきか、コーポレートガバナンスの視点から考える経営者向け連続のセミナーが開催されます(2025年1月31日から)。会計教育研修機構(JFAEL)主催ということですが、非会員の方々にも有料で聴講していただけます。私も「有事対応における役員の役割と法的責任」というややマニアックな視点からですが、2月26日の第5回のセミナー講師を務めさせていただきます(このころには今の忙しさもひと段落していると思います・・・たぶん)。リスクマネジメントの事実上の予算権限を有する社長さんにぜひお聞きいただきたい。

しかし第1回の富山さんほか、私以外は相当に豪華な顔ぶれですね。配信もあるので(私も非会員ではありますが)聴講する予定です。ということで本日は告知でございました<(_ _)>。

 

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2024年12月10日 (火)

今年は原因究明がむずかしい企業不祥事が多い(ように思う)

韓国大統領のレームダック化、そしてシリアにおけるアサド政権の崩壊等、日本国民として民主主義の在り方を考えさせられる重大事態が生じておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。そのような重大事態とは比較になりませんが、私的に気になっていることについて一言。

今年発覚した企業不祥事についての第一印象ですが、ホント「なんで起きてしまったのかわからない」という不祥事が多かったですね。メガバンク、金融庁、東証、信託銀行の各職員によるインサイダー取引疑惑はすでにエントリーでご紹介しましたが、その他にもメガバンク行員による貸金庫窃取事件、大手証券会社行員による強盗未遂事件などは、個人の私利私欲のための犯罪とはいえ、金融機関全体の信用毀損につながるものであり、かなり衝撃的であります。

どの事件も社内調査を行っていると思いますが、その原因究明はむずかしいですよね。原因究明がむずかしければ(曖昧であれば)、当然のことながら再発防止策にについても説得力が欠けることになります。となると信用回復にも時間を要することになり、競争上のハンデを背負いながら事業を進めざるをえません。

インベストメント・チェーンにおけるインサイダー取引については、審査や調査の実務を知っているがゆえに「身内は疑わない」という慣行のようなもの(そのようなものがあるかどうかは知りませんが)を熟知していたのでしょうかね?対外的には性悪説で臨むが、身内には性善説で臨むとか、そういった慣行でもなければ、なぜ指導的立場にある方々が比較的単純な自己売買取引を行ってしまうのか理解不能です。

ホワイトカラーの不正行為はクレッシーの三原則(動機、機会、正当化事由)がそろうことで実現に至るとよく言われますが、とりわけインサイダー取引についてはこの三原則がきちんとそろったのかどうか解明してほしいです。動機は別として、「機会」と「正当化根拠」がどこにあるのか、とても興味があります。

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2024年12月 5日 (木)

公益通報者保護制度検討会-高い「経団連の壁」だがそれよりも・・・

短めですが、1週間ぶりのブログ更新です。各メディアが伝える通り、公益通報者保護法の実効性検討会も終盤となりまして、最終報告書の全容が示されつつあります(たとえば産経ニュースはこちらです)。通報者への不利益処分に刑事罰が導入されることや民事紛争の際に立証責任が転換されること等を含めて、実務にも影響を及ぼす改正意見報告になります。

刑事罰導入の対象となる「不利益処分」については経済団体の強い意見もあって、(個人的には残念ですが)解雇、懲戒処分のみとなりそうであり、今回も経団連をはじめ、経済団体の方々のご意見が通りそうです。企業実務への影響の大きさを考えるとご意見はごもっともですが、本当に高いハードルですね。立法事実をさらに重ねなければ、この先に進むことはむずかしそうです。

昨日の検討会における私の発言も(日経ニュースにて)紹介されていますが、もうここまで来ますと一番の懸案事項は「報告書の改正要望を政府は真摯に受け止めて、改正法案を国会に上程してもらえるか」ということです(もう、自分の意見が盛り込まれなかったことを嘆く段階ではありません)。消費者庁の公益通報者保護法改正チーム(事務局)の皆様による多大な尽力でここまで来れたので、この努力をなんとか形にしたいと思います。

それにしても「法改正」というのは近くで眺めていると本当にむずかしい作業だと実感します。国会議員、他省庁、そして法制局の壁を乗り越えるための根回しが不可欠でして、理屈だけではなくて、改正に向けた「機運」とか、政治的背景とか、省庁間での「貸し借り」への配慮が必要ですね。あと「ここで法案を通さないと、もう一生変わらない」くらいの熱意がないと実現しないのかもしれません。

委員間でいろいろな意見の相違はありましたが「成果物を法案につなげたい」という気持ちは一緒です。ここからは、なんとか改正法成立までの難関を乗り越えるために、できるだけの協力をしたい、と思います。

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