公益通報者保護法の運用に関する私の意見-具体的事例に触れて
本日(12月25日)兵庫県の百条委員会が開催され、県としての公益通報者保護法違反の有無を認定するための証人尋問等が行われたようです。私も9月に参考人として意見を述べた関係者の一人なので、個別具体的な意見をここで述べることは(百条委員会が継続中ということもあり)差し控えます。ただ、組織における日頃の公益通報制度の運用状況が、いざというときに組織を助けるのではないかと思うところがあるので、少しだけ(個別案件を離れて)意見を述べます。
今年9月30日の神戸新聞記事によりますと、兵庫県において2006年から2024年までの18年間で、内部通報は135件、うち受理件数は42件、つまり通報のうち3割程度しか受理しておらず、しかも是正につながったのは1割だそうです。これまで外部窓口はありませんでした。一方、私が公表数値から調べたところでは、神戸市では2021年から23年までの3年間で内部通報件数は67件、うち受理件数は58件です。つまり通報のうち87%は受理しており、なおかつ外部窓口は3つの法律事務所に別々に設置されています。さらに隣の大阪府では2018年から23年までの5年間で通報件数は131件、うち受理件数は82件であり、通報の6割が受理されています。外部窓口にも40件ほどの通報があり、うち7割が受理されています。この数値の比較や外部窓口設置の様子から、兵庫県の公益通報への対応体制が「長年にわたって公益通報者には厳しい運用」だったことがわかります。
いま、兵庫県知事の対応が問題となっていますが、それよりも元々兵庫県という自治体が公益通報を軽視してきたツケが回ってきたのではないかと考えています。ふだんの対応体制が脆弱だったからこそ、組織として3号匿名通報への対応が適正にできなかったのではないかと(もし兵庫県に神戸市と同様、複数の外部窓口-具体的には法律事務所-が設置されていたとすれば、元県民局長も3号通報はしなかったのではないか・・・との疑問も湧いてきます)。平時にできないことを有事に突然できるようになるのはむずかしい。
同様のことは(たかさんもコメント欄でご紹介されている)12月24日の毎日新聞朝刊1面で報じられていた「大川原冤罪 公益通報放置」の見出し記事で報じられている警視庁の事案にも如実に表れていると思います。警視庁職員から虚偽有印公文書作成・同行使罪に該当するおそれのある公益通報が警視庁の内部通報窓口に届いたにもかかわらず、具体的な調査もせずに放置していた、というものです。匿名通報ではあるものの連絡先アドレスも記載されていたわけですが、警視庁の内部通報担当者は「本当に警視庁の職員かどうかわからないから、身分を明かしてほしい」と執拗に要望したそうです。
もちろん、私も窓口担当者として同様の要望を出すときがあります。不正行為の是正に熱心であればあるほど、このような場合には(証拠収集への協力も含めて)通報者との密なコンタクトをとりたくなるものです。ただ、私は外部窓口担当なので「会社には匿名のままでよいから、弁護士である私には調査の必要があるので教えてほしい」と言えば、6割ほどの通報者は実名を明かしてくれます。日ごろから外部通報窓口を活用している組織であれば、このような通報者の悩みは一定程度は解決できるはずです。公益通報者保護法が問題となるのはいつも組織の有事ではありますが、実は平時からの取組みの巧拙が有事に反映される・・・ということを認識していただきたい。
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コメント
いつも勉強させていただいております。
私見ですが、官公庁で公益通報制度に関し、ここまであからさまに通報者探し等の異常な対応と人事異動発動等に恐怖を覚えます。一般企業でも通報制度の外部設置等拡大されておりますが、通報者の保護が徹底されているか疑問です。小生の経験ですが、監査等委員時代に代表取締役のパワハラ通報があり、監査等委員として通報制度運用に基づき対応いたしました。結果は代表取締役に対して注意勧告等のレベルでしたが、任期満了後に会社執行側から『当該通報制度の資料を提出』の強い要請がありました。通報者は未だ就労期間でありながら、対象取締役等も在籍継続、通報者の保護徹底者が離任等した場合の情報の取り扱いにも現場では大きな問題です。
投稿: 元監査等委員 | 2024年12月26日 (木) 13時48分
コメントありがとうございます。そのような事態となることは他社でも十分にあり得ると思います。内部通報制度の運用はまだまだ属人的な部分に依拠しているところが多く、組織として通報者保護が徹底されているところは少ないですね。このあたりも2号通報、3号通報が増えている要因ではないかと思います。
投稿: toshi | 2024年12月26日 (木) 13時58分
今日の報道です。
有名な弁護士のマスコミ発言がきっかけになって、公益通報体制整備義務(§11)は外部通報に適用がなく(立法過誤とまで言われている)、兵庫県の対応に問題ないとの見解が流布され、現場は何が正しいのか正直大変混乱しているようです。消費者庁の県議会への回答も外部通報に適用がある旨を明示しているようですが、「個別問題にコメントしない」などと官僚的な対応をしている場合ではなく、消費者庁は法解釈に責任をもって、このような個人努力に頼る是正努力記事が出るまでもなく、正しい運用を普及させる責任があるはずで、怠慢のそしりは免れません。
あるいは、改正作業の中で、外部通報での取扱いが一般人にもより分かりやすく表現されるよう強く求めます(検討会報告書に全くこの問題が触れられていませんが、罰則等の導入も重要ですが、基本的な事業者の義務について基本的見解が対立するような法律は今まであったのでしょうか)。
「昨年12月25日にあった兵庫県議会調査特別委員会(百条委員会)の証人尋問で、片山安孝元副知事が公益通報者保護法の解釈を巡って引用した解説書の執筆者が、「片山氏は誤って解釈している」として議会事務局に証言の訂正を求めたことが分かった。片山氏は、元西播磨県民局長が報道機関などに送付した告発文書に対する県の対応が適切だったと主張し、その根拠の一つとして解説書を引用していた。
議会事務局によると「解説 改正公益通報者保護法 第2版」の執筆者の一人の中野真弁護士。片山氏の証言が動画配信され、誤って解釈されていることを知った中野氏から7日午後に事務局にメールが届いた。
百条委には、同法に詳しい別の弁護士が参考人として出頭。元県民局長が報道機関などに送った告発文書は公益通報に当たり、県の対応が同法違反である可能性を示唆した。その中で、通報者の不利益な取り扱いを防ぐ同法の規定は「内部通報だけでなく外部通報にも適用される」とした。これに対し、片山氏は「この解説書には(規定は)外部通報には適用されないと書いてある。どちらが妥当なのか検討してほしい」と主張していた。
中野氏はメールで、解説書には「内部通報に限らず3号(外部)通報者に対しても不利益な取り扱い防止等の措置を取る必要がある」と脚注があるとし、訂正を求めた。訂正は証人本人しかできないため、議会事務局は執筆者から指摘があったことを片山氏に連絡しているという。」
投稿: unknown1 | 2025年1月10日 (金) 13時25分