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2025年1月20日 (月)

中央経済社「ビジネス法務」2025年3月号に拙稿を掲載していただきました。

Img_20250119_195438512_512 ほとんど毎年の恒例になりましたが、中央経済社「ビジネス法務」2025年3月号に「2024年に起きた企業不祥事とコンプライアンス強化へ向けた示唆」なる論稿を掲載していただきました。8頁なので、ソコソコの分量です。

企業の有事対応については毎年「早期発見・早期是正」を中心とした不祥事対策について解説させていただくのですが、2024年に発生した不祥事の特色から、今年は「不正の未然防止」に向けた取組みを中心に解説をしております。未然防止はなぜむずかしいのか?といった課題をご紹介した後に、それでも未然防止に向けた取組みが必要と判断した際に、参考となるような手法を提案させていただいております。

いずれにしても、未然防止は人的・物的資源が豊富でなければ困難ですし、ステークホルダーにも「うちは二度と不祥事はやらないと宣言したのだから協力してほしい」とコミットしなければむずかしいと思います。不祥事の原因(いわゆる「根本原因」)はかならずしも社内にあるとは限らないのです。

本日より全国書店にて販売しておりますので、ご興味がございましたら、ぜひご一読くださいませ。

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2025年1月19日 (日)

リクルートホールディングスの人権方針とフジテレビ「ふてほど問題」(追記あり)

本業が大詰めを迎えておりまして休日も事務所で仕事をしているので、少しだけブログの更新を。

なかじさんも(昨日のエントリーに)コメントしておられますが、フジテレビの番組スポンサー企業が次々と「広告見合わせ」を決定しております。そういえばフジの「めざましテレビ」の午前7時台はリクルートホールディングス社が大口スポンサーです。では日本取締役協会の「コーポレートガバナンス・オブ・ザイヤー2024」で見事大賞に輝いたリクルートホールディングス社は、この広告問題にどう対応されるのか、とても関心があります。

リクルートホールディングス社は「人権尊重へのコミットメント」(HP掲載分)のなかで

私たちは、いかなる強制労働、人身売買、児童労働、差別、ハラスメント、劣悪な労働環境、いじめ、不公平な扱いを認めません。

と宣言しておられ、「人権方針の適用範囲」のなかでは

私たちは、個人ユーザーの人権をより尊重する方法を追求し、サービスを進化させていきます。また、企業クライアントやサプライヤー・業務委託者を含む私たちのビジネスパートナーに対しても、本人権方針に従って行動することを期待するとともに、ビジネスパートナーによる人権への負の影響に対処するための仕組みづくりへの協力、影響力の発揮に努めます。

と説明しておられます。この記載からしますと、協力企業であるフジテレビに対しても「人権への負の影響に対処するための仕組みづくり」の構築もしくは運用に影響力を発揮する立場にあるのではないかと。なお、私個人の考えは(旧ジャニーズ事務所問題と同様)広告をそのまま出し続けることも、差し替えることも経営判断としては「どちらもあり」と思うのですが、その決断はこの人権方針とどう整合するのか、そのあたりは説明が求められるのではないでしょうか。ガバナンス大賞に輝いた企業だけに、その行動は他社にも参考になるものと考えております。

ともかく1月20日のめざましテレビの広告に注目しておきます。(1月20日朝追記)ふつうにリクルートのCMやってましたね。トヨタのCMも普通に流れています。というかACジャパンの広報、かなり少なくなりました。これからの対応なのか、それとも8時からのめざましエイトで社長会見を30分にわたって特集をしたからでしょうか。ちなみにフジメディアホールディングスの株価は急騰していますね。なおマクドナルドもセブンアンドアイも「広告見合わせ」を表明していますので、これからかもしれません。

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2025年1月18日 (土)

昨年の「公益通報者保護法」に続き、今年は「第三者委員会」がトレンドか?(追記あり)

週末のエントリーということで、放言であることご了承ください。17日、旧ジャニーズ系トップタレントの「ふてほど問題」に関連するフジメディアホールディングス社長会見が行われましたが、同社社長はこちらのエントリーで述べた通り、フジメディアは(第三者委員会とまでは言えないかもしれませんが)外部弁護士による調査委員会を設置することを表明しました。ライブでの中継もなく、またネットメディアによる取材を締め出した会見方法には疑問もありますが、とりあえず一歩前進というところでしょうか。ただ、土曜日の朝から「めざましどようび」を視ていて、「ACジャパン」の広告が多数流されており、事の重大さをあらためて認識しております。

以下は私の勝手な感想ですが、一昨年の旧ジャニーズ事務所が設置した調査委員会(報告書は2023年8月に公表)とは比べ物にならないほど、今回の「ふてほど問題」は「第三者委員会」の存在に注目が集まっているように思います。正直申し上げて、この調査委員会の委員長はたいへんだろうな・・・と。大株主からの要望で(当事者間で何が起きていたのか、という核心部分の事実認定もさることながら)フジテレビや親事業者のガバナンスについても評価根拠事実を認定しなければならない、また、昨日のフジテレビアナウンサーの告白(コメント?)でも明らかになりましたが、多くの社員が加害者もしくは被害者として疑惑の目を向けられていて、これも晴らさなければならない(つまり当事者のプライバシーを守りつつも、関係のない社員の疑惑も晴らさなければならないってこと?)。さらに、スポンサー企業の人権ポリシーを意識した報告内容を検討しなければなりません。

これだけネットメディアであれこれ言われる時代となれば、たとえば第三者委員会が日弁連ガイドラインに準拠して厳格に事実認定や法的評価を行ったとしても、その結論に対してはネットメディアでは批判の対象となり、挙句の果ては調査委員個人への攻撃にもつながりかねない(←昨年の兵庫県知事問題の百条委員会で参考人として証言した私の体験に基づく感想です(*´Д`) 中立公正な立場で、しかも組織としての兵庫県の違法性について論じたのに・・・(*´Д`))。

本来、第三者委員会は「件外調査」についても調査範囲としますので、旧ジャニーズ系トップタレントN氏や関与が噂されているフジテレビ社員の「ふてほど問題」が他にもなかったのか・・・という点を厳しく調査をします(「厳しい調査」は、果たして百戦錬磨の「週刊文春」の更なるスクープに耐えられる?-難問その1)。さらにガバナンス、つまりフジテレビや親事業者のガバナンスに問題があったかどうか、という点の調査には、フジメディアグループ全体の委員会への協力姿勢がなければ不可能です(昨日の会見の様子からみて大丈夫?難問その2)。そして、被害者とされる社員のプライバシーを最大限守りつつも、「よってその他の社員は無関係です」ということを社会的にも明らかにしなければならない(二律背反の要請をどない開示すんねん?-難問その3)。(追記1月19日午後)さらなる難問として、これだけCM撤回、差替えが増えている状況であれば、フジテレビとしては調査委員会の結論を急がせる可能性があります。真実性と迅速性、そして客観性(独立性)をどう調和させるのか・・・超難問がまたひとつ増えました。

委員会としては、後日の訴訟にも耐えうる(法的理性に基づいて)事実認定、法的評価を目指しますので、もし心証形成がグレーだった場合には「〇〇という疑惑については〇〇という認定までには至らなかった」という結論になります。しかし、これに対して社会の評価は「甘すぎ!第三者委員会といっても、結局お金もらって会社とズブズブ」との評価を受けることが予想されますし、一方において「グレー」であるにもかかわらず「第三者委員会が〇〇と断定!社長は責任をどうとる?」と勝手に拡散されます。つまり第三者委員会が理屈で説明したとしても、かならずグレーな部分が生じますから、報告を受けた国民は自分の「こうあってほしい」といった結論を曲げずに自分に都合の良いように第三者委員会の結論を引用するはずです。本件は、そのような国民的レベルの問題にまで、いわゆる「不祥事発覚時における第三者委員会」が活用されようとしている、というのが私の見立てであり、これまでの企業不祥事発覚時の調査委員会以上に世間的に注目を集めるものと予想いたします。

(1月19日追記)テレビでさかんに「第三者委員会」が話題とされていますが、「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」は、ステークホルダーへの説明責任を尽くすことが最終目的であり、企業の有事におけるリスクマネジメントに資することがあったとしても、決してそれが最終目的ではないということはご理解ください。また、ガイドライン制定が今から15年前ということもあって、現時点で日弁連ガイドラインに完全に準拠した第三者委員会がベストとは言えない・・・という議論もあることだけ付言しておきます。

ともかく、誰が委員長になればネットメディアを含めてステークホルダーが納得する委員会活動が期待できるのでしょうか?私個人の意見としては元最高検検事とか、元最高裁判事といった方が委員長に立ち、脇を企業法務の世界で活躍されている弁護士の方が固めるというのが最適かと思いますが。以上、まったくの放言です。ご容赦ください。

(1月19日夜 追記)朝のめざましテレビで「ACジャパン」が多いと書きましたが、トヨタ自動車、日生、明治安田生命、アフラック生命、第一生命、NTT東日本、花王などがフジテレビへのCMを当分見合わせるとのこと。うーーーん、予想していた以上に大きな問題に発展したようです。

(1月20日午前 追記)日弁連ガイドラインに準拠していない第三者委員会であれば、そもそも「結果ありきの委員会」と指摘する有識者の方もいて、やはりこの調査委員会はかなりしんどい委員会になりそうです。

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2025年1月17日 (金)

「下請け」は差別用語か?-法律名の変更に思う

貸金庫事件で揺れる三菱UFJ銀行は記者会見で「貸金庫事業から撤退することも選択肢のひとつ」と述べておられます。こんなむずかしい作業が必要となれば撤退したくなる気持ちもわかります。では他の事業者に貸金庫事業が務まるかというと、ちょっと安全面では格段に落ちるように思います。やはり富裕層をつなぎとめるためにも、金融機関にとっては必要なサービスとして存続させていくのでしょうね。

本日(1月16日)の日経ニュース「下請けを『中小受託』に名称変更へ 公取委・中企庁」を読んで(恥ずかしながら)初めて知ったのですが下請法(下請代金支払遅延等防止法)の名称が、次の法改正時に変更されるそうです。下請け業者という言葉は使わずに「中小受託事業者」なる名称を使用するとのこと(どのような法律名称になるのかはわかりませんが)。

半年前の産経ニュースでも「下請けという用語は差別的ではないか」との国会議員からの意見も出されていた、とのことですが、物価高のなかで価格転嫁がなかなか進まないことや知的財産の無償譲渡を強要されるといった弊害が生じていることから、発注側と受託者とが対等のパートナーである意識を高めて、ともに悪しき商慣習をなくしていくための施策として法律名変更も検討されたることになったようです。

私も「下請先」という言葉はよく使っていますが、もし「差別的表現」として法律的な呼称が変わるとすれば、そこに「倫理的な匂い」がしますので実務の上でも気を付けないといけないかもしれません。発注者と受注者とのコミュニケーションだけでなく、発注者の社内のコミュニケーションにおいても「受託事業者」とか「受託先」という用語を使用しないと「人権感覚が疑われる」という人物評価を受けるかもしれませんね。このあたりは世の中がどのように受けとめるのでしょうか(受託事業者の方々のご意見もお聞きしたほうが良いかもしれません)。1989年に「セクハラ」なる言葉が流行語大賞(新語部門)に選出された頃は、なにか無機質な言葉の響きだったと記憶していますが、具体的な事象が重なるにつれて倫理的表現を当然に含む言葉として浸透しています。

なお、大企業であったとしても昨今、減資するところも出てきていますので、中小受託事業者の定義自体も変わりますし(従業員数で適用範囲を定めています)、特定受託事業者(フリーランス)法との領域の区別も必要です。サプライチェーンにおけるコンプライアンスの浸透が求められる時代なので、このたびの法改正については全体像を再度見直す必要がありそうですね。

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2025年1月16日 (木)

「弁護士を入れた調査」と「第三者委員会調査」はかなり違う(と思う)

旧ジャニーズ系トップタレントの女性被害問題に関連してフジテレビ社員の関与疑惑が生じており、その解明に向けてフジメディアホールディングスの大株主が第三者委員会の設置を要請しています。一方で、フジメディア側は「(当社社員による関与はないと考えているが)昨年末より外部の弁護士を入れて調査を開始している」と釈明しています。もちろん、調査に加わっている弁護士の方が中立公正かつ主導的なな立場で真摯に関与しているかもしれませんし、逆に世間には「なんちゃって第三者委員会」も存在しますので、以下のお話は(個別事案へのものではなく)一般論としての意見であります。

不祥事疑惑が生じた際に、社内調査に外部弁護士として関与するケースも、またステークホルダーへの説明責任を果たすための第三者委員会委員として関与するケースも、どちらも経験した立場からしますと、やはり事実認定、原因分析、そして関係者の責任判定いずれにおいても世間からの信用度はかなり違う、と思います。

会社から「何を調査してほしい」という委嘱事項はありますが、ではどんな事実を、どこまで掘り下げて調査をするか、という調査範囲の決定権限は第三者委員会にあります。一方、「弁護士も関与」というだけでは会社自身が調査範囲をコントロールするために「本当に知りたい事実」が深堀りできないことがありますね。とりわけ「組織的関与」が疑われる場面では、調査範囲を絞られると外部弁護士としてフラストレーションがたまります。

関係者のプライバシーは最大限守られますが、それでも第三者委員会のケースでは報告書(公表版)は原則として公表されることが前提ですし、原因の特定や責任判定の起案権は委員会に帰属しますので会社に不都合な事実も明るみになる可能性は高い。委員会が調査に協力を求めたところ、これに応じなかった役職員の存在やフォレンジックス調査によって重要な証拠を隠ぺいした事実なども明らかになります。不適切行為に及んだ社員を責めるだけでなく、その不適切行為を許容していた組織の構造的な欠陥にまで光をあてる、というのも第三者委員会調査の重要な役割です。

委員会報告書が公表されますと「ツッコミ不足」を外部から批判されることもありますので(たとえば機関投資家や格付け委員会等)、専門家としては世間の評価に耐えうる成果品を仕上げることへの緊張感もありますね。

「弁護士を入れて調査を行う」ということで、純粋な社内調査よりも信用性の高い調査を行っていることを説明したいという企業の気持ちはわかるのですが、「組織的関与が疑われる等、社内調査だけでは信用できない」といった場面では、専門家によって構成される第三者委員会調査を入れることが後々のことを考えると適切ではないかと思うところです。

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2025年1月15日 (水)

パッシブ運用、クオンツ運用の増加と企業不祥事による競争ハンデ

三菱UFJ銀行の元行員による貸金庫不正流用事件に大きな動きがあり、当該元行員が逮捕されたそうです。貸金庫を舞台とした犯行ということで被害の特定には相当に手間取ったのでしょう。報道によれば、当該元行員は(勤務態度を評価されて)「一般職」から「総合職」にキャリアアップした、ということですから銀行員としては信頼が厚かった人だったようです(こちらの毎日新聞ニュース参照)。ただ、それでも貸金庫責任者に就任したとたんに悪事に手を染めてしまったわけで(なお多額の借金を抱えていたことは朝日新聞ニュースを参照)、やはり不正予防には「性弱説」に基づく施策が必要であることを痛感します(以下本題)。

さて、当職が現在担当している事案とも若干関連する話題でありますが、パッシブ運用やクオンツ運用の責任者の方々とお話をしていて、「株主エンゲージメント」についてはあまり興味を示さなくても、さすがに「(取締役の選任に関する)議決権行使への情報収集」については強い関心を寄せておられることに気づきます。なかでもコーポレートガバナンスと企業不祥事については、効率的な運用に資する判断基準であり、またインベストメントチェーンを通じた資産運用立国の形成にも寄与するとあって、不祥事発生の原因やガバナンス評価に関する情報収集には熱心なのですね。

最近のM&A事例など、報道されるところからは「アクティビストによるエンゲージメント」に関心が向きがちですが、ご承知のとおり日本の証券市場ではパッシブ運用が多くを占めています。さらに、HFT(High Frequency Trading)による取引が6割にも及ぶとなると、パッシブファンドの運用責任者はいちいち個々の上場会社とエンゲージメントを行うことは(費用対効果という意味において)相当困難です。よって(水面下での交渉が不調に終わった)アクティビストによる「ガバナンス不全」などの問題情報に関する提供や報道による企業不祥事に関する情報提供があれば、パッシブファンドとしても効率的に議決権行使の判断に有用な情報が得られるわけですから、代表取締役の選任(再任)議案への賛否も熱心に判断することになります。まさにアクティビストファンドとパッシブファンドとの役割分担が功を奏して共存共栄の時代です。

ところで、このあたりは上場会社(およびグループ会社)の経営者及び担当役員の皆様はどのように感じておられるのでしょうか?企業不祥事が発覚しても代表取締役の選任に反対票を投じられないようにするためには、①不祥事を原因としてアクティビストから株を買い占められない、②不祥事を原因とする「ガバナンスの不全」の評判を拡散させない、といった方策を検討する必要がありそうです。以前であれば株式の持ち合いによって、ここまで考える必要はなかったのかもしれませんが、持ち合い解消が進み浮動票が増えるなかでは、会社提案への反対票、株主提案への賛成票が増えて、どちらかというと「守りのガバナンス」に注力せざるを得ない状況に追い込まれるのではないかと危惧いたします。「攻めのガバナンス」に注力できない、ということになれば、上場会社にとっては相当な競争上のハンデを背負うことになりそうです。

企業不祥事を契機として(さらにファンドや金融機関の儲けを通して)業界再編が進む、というストーリーも、これからは当たり前になるのかもしれません。

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2025年1月14日 (火)

東京女子医大事件と「公益通報者への不利益取扱い」

ご承知のとおり、東京女子医大元理事長が背任容疑で逮捕された、と報じられています。朝日新聞ニュースを読むと、捜査が難航していたときに第三者委員会の「一級建築士資格者への業務報酬」調査が突破口になったそうで、第三者委員会の存在意義も示された事件でしたね。

週刊文春の第一報記事が2023年4月ということなので、お二人の内部告発者が文春に公益通報(3号通報)を行って約2年。ようやく逮捕まで至ったということでしょうか。しかし残念なのは元理事長が内部監査室に命じて告発者探しを行い、公益通報者を特定したうえで退職に追い込んだそうです(内部資料を文春に提供しておられたようです)。自分の職を賭す覚悟がなければ外部公益通報ができない、という状況は早く是正すべきです。これほどガバナンスが機能しない組織であったとしても、その不正が糾弾される機会を得られたのは内部告発があったからとしか言いようがありません。

そういえばビッグモーター事件でも、告発者が「通報事実は私の勘違いでした」という念書を後日書かされた・・・ということがあったように記憶しています。告発者潰しが不正の早期発見・早期是正を困難にさせる、という事態は企業の品質自体を毀損します。改正公益通報者保護法を早期に成立させ、このような事例を少しでも減らせるように尽力したいです。

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2025年1月10日 (金)

リバース・ブレークアップ・フィーと企業買収側取締役の法的責任(or経営責任)

兵庫県知事による告発文書取扱い問題については、私は中立公正な立場で参考人として証言をしましたし、百条委員会や県が委託した第三者委員会の調査が続いている以上、こちらでコメントすることは控えております。ただ、私も知らなかったのですが、最近の百条委員会における元副知事の証言として「3号通報(外部への通報)には、公益通報者保護法の定める通報者への不利益な取り扱い防止措置に関する規定は適用されない」との主張を展開され、その根拠として法律家の解説本を引用しておられたそうです。

ところが本日(1月9日)の神戸新聞ニュースによりますと、この引用された解説書のご著者の方が、「元副知事が誤った引用をしているので証言の訂正を求める」と百条委員会に申立をされたそうです。保護法と法定指針の条文をていねいに読めばご著者の方のおっしゃるとおりなのですが、(このご著者の方は、当時消費者庁の職員として改正作業に携わっていた方なので)ともかく私の法解釈の正当性が、あらためて根拠付けられたものと認識した次第です(以下本題です)。

さて、本日(1月9日)の読売新聞では「企業M&A、買収側が違約金の事例増える・・・日鉄とUSスチールの契約でも設定」との記事が掲載されています。政府規制によってM&A契約が破断になった場合に、買収する側の企業が売手側の企業に違約金(リバース・ブレイクアップ・フィー)を支払う旨を契約に盛り込む事例が増えている、今回の日鉄の例でも約890億円もの違約金支払義務が生じる可能性がある、最近では(買収側である)アマゾンやアドビが規制当局からの認可が得られずに、高額の違約金を支払ったケースがある、とのこと。

リバース・ブレークアップ・フィー(RBF)については1年ほど前、つまり日鉄によるUSスチール買収合意の報道に労組が反対意見を表明したりトランプ氏が即刻阻止と表明したころから日経新聞でも取り上げられていました(その当時は、私もまさか政治的介入はないと思ってあまり気にしておりませんでした)。売手側の機密情報を入手したり、買収中止となった場合の売手側の(新たな相手先を見つける)苦難を考慮すれば、政府規制による破断の損失を買収側が負担することにも経済的合理性があるということで、(米国では)大型M&A案件の8割~9割程度は基本合意書にRBF条項が盛り込まれているそうです。

通常、M&A案件では売り手側企業の取締役(社外取締役を含む)の善管注意義務・忠実義務違反が問題となるケースが多いのですが、こういったRBF条項が発動した場合には買収側の取締役の善管注意義務違反が問題となりそうですね。そもそも米国企業のようにロビー活動に慣れておらず、また巨大な戦略法務スタッフを抱えていない日本企業において、産業別労働組合への根回しもせずに政府規制に関するRBF条項に賛同する、ということはリスク管理としてどうなのか・・・といった意見も聞かれるところです。独禁法規制リスクだけでなくCFIUSによる経済安保リスクについても予見は可能だったはずです。

ただ、日鉄の企業規模との比較においての違約金の金額や日米の国策への寄与、そしてビジネスによる収益の大きさなどからみて、RBFのリスクを考えてもなお事業を進めるべきとの(取締役会における)十分な審議がなされていれば、最終的には「経営判断原則」の範疇、つまり取締役の善管注意義務違反にはならない、つまり法的責任までは問われないと考えるのですが、いかがなものでしょうか。なお、買収成立に自信があったことの裏返しとして「寝耳に水」「青天の霹靂」のような気持ちを表明したくなるのかもしれませんが、それはむしろRBFのリスクを考えずに、なんとなく(入っているのが当然の)条項に合意したようにもみえるので、少なくとも経営責任は問われかねず、あまり好ましい態度ではないように思います。

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2025年1月 7日 (火)

独禁法と公益通報者保護法との交錯(上杉論文)

金融・商事判例2025年1月1日号(1706号)の判例紹介では東京高裁判決令和6年8月7日「事業者が公益通報を『理由として』解雇や不利益取扱いを行ったものではないと判断された事例」の判決全文および原審判決(千葉地裁判決令和5年11月15日)が掲載されていました。法改正が予定されている「不利益な取扱いからの救済(立証責任の転換)」とも深い関わりのある論点への裁判所の判断が示されたこともあり、きちんと理解をしておきたいところです。結論においては妥当なものかもしれませんが、公益通報者保護法の条文解釈への司法上のアプローチとしてはかなり進展した判決になっています。

ところで、上記1月1日号では、上記高裁判決を前提として、上杉秋則氏(元公正取引委員会事務総長)のご論文も掲載されています。題名は少し長いですが「独禁法が示唆する公益通報者保護法改正の方向性と令和6年8月7日東京高裁判決の及ぼす影響」。公益通報者保護法と独禁法の交錯する時代の保護の在り方について上杉先生の見解を述べたものであり、公益通報者保護法の解釈に公正取引委員会の考え方を採り入れるという点で強く共感する内容です。「今日のように企業のコンプライアンス経営やガバナンス向上への要請が高まった時代には、公益通報者保護法は独禁法と並ぶ重要な地位が付与されるべき」とのお考えにより、独禁法と公益通報者保護法との交錯について検討を加えておられます。

先日ご紹介した東京大学(大学院)の松井智予教授の「企業不祥事の発見時における役員の義務と権利について」(法曹時報76巻10号)では「会社法と公益通報者保護法との分担や双方の存在が双方の解釈論に与える影響が未知数である」とのことで、具体的事例を題材として、いかなる影響があるかを論じておられました。著名な実務家や学者の方々が、公益通報者保護法と商事経済法との関係について深く研究していただけるということが、公益通報者保護法の今後の実務への浸透という意味においても大きな意義があると思います。

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2025年1月 4日 (土)

今年も「グレーゾーン」を大切に(年初のご挨拶)

1月4日の全国紙一面はどれも「バイデン、日鉄・USスチール買収中止命令」の記事ばかりでした。昨年2月の「2023年度第3四半期決算説明会」の質疑応答では「政治家に反対されてクロージングできないのではないか」との質問に対して、日鉄さんは「米国はデュープロセスを大事にする国で、我々はそのデュープロセスを踏んでいる。また、我々もそうであるように、米国は透明性が非常に保たれた国だと思っている。」と回答しておられました。おそらくCFIUSが最終判断を大統領に委ねて、政治的合理性によって結論が出されるとは予想もしていなかったのではないでしょうか(私自身は、まだ決着がついていないと考えておりますが)。今年6月までに許認可がおりない場合には、日鉄側に違約金の支払義務が生じる・・・というのも、ちょっと納得いかないところではありますが。

本件に象徴されるように、今年は日本企業の経営環境において、さらに不確実性が高まるものと予想いたします。こんなVUCAの時代だからこそ、人間の種族保存本能として、X(Twitter)やインスタ、YouTubeのようなSNSによる「直感で白黒をハッキリさせる」ことに適したメディアへの依存度がますます高まるものと思います。SNSをもとに、直感による判断の9割は(たとえ二次情報だとしても)正しいでしょうから、生きていくためには誰もが白か黒か(何が事実なのか)、何が正義なのか、短時間で(他人の意見を参考にしながら)判断したい気持ちはとても理解できますし、それ自体は悪いことではないと思います。ただ、1割程度は大数の法則やベイズの定理、平均への回帰等、過不足ない資料に基づいて、自分の頭で考えないと最適解に到達できない問題もあるのではないでしょうか。

たとえば事実認定においても、またどこに正義があるのか、といった評価においても、おそらく無数の「グレーゾーン」があるわけでして、黒に近いグレーもあれば、真っ白に近いグレーもあり、そのグレーゾーンを探ることによって重要な経営判断も変わるはずです。そういった認定や評価のためには、自分が一次情報を取得したり、恥ずかしい失敗から反省したり、自分の知見で調べたり、他人と協議をする必要がありますね。企業の危機対応にしても、再発防止策の検討にしても、またガバナンス・コード対応についても、企業の置かれた環境と、その企業の組織風土によって最適解が異なるわけですから、グレーゾーンを洞察することへの関心を常に持ち続けていたい。さらに、上記バイデン氏の判断と同様、経営判断は理屈だけで変わるはずもなく、それ以外の「何らかの力学」によって変わるわけでして、そこに光を当てたい。そのような姿勢を少しでも、このブログで表現していきたいと思います。本年もよろしくお願いいたします。

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