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2025年1月15日 (水)

パッシブ運用、クオンツ運用の増加と企業不祥事による競争ハンデ

三菱UFJ銀行の元行員による貸金庫不正流用事件に大きな動きがあり、当該元行員が逮捕されたそうです。貸金庫を舞台とした犯行ということで被害の特定には相当に手間取ったのでしょう。報道によれば、当該元行員は(勤務態度を評価されて)「一般職」から「総合職」にキャリアアップした、ということですから銀行員としては信頼が厚かった人だったようです(こちらの毎日新聞ニュース参照)。ただ、それでも貸金庫責任者に就任したとたんに悪事に手を染めてしまったわけで(なお多額の借金を抱えていたことは朝日新聞ニュースを参照)、やはり不正予防には「性弱説」に基づく施策が必要であることを痛感します(以下本題)。

さて、当職が現在担当している事案とも若干関連する話題でありますが、パッシブ運用やクオンツ運用の責任者の方々とお話をしていて、「株主エンゲージメント」についてはあまり興味を示さなくても、さすがに「(取締役の選任に関する)議決権行使への情報収集」については強い関心を寄せておられることに気づきます。なかでもコーポレートガバナンスと企業不祥事については、効率的な運用に資する判断基準であり、またインベストメントチェーンを通じた資産運用立国の形成にも寄与するとあって、不祥事発生の原因やガバナンス評価に関する情報収集には熱心なのですね。

最近のM&A事例など、報道されるところからは「アクティビストによるエンゲージメント」に関心が向きがちですが、ご承知のとおり日本の証券市場ではパッシブ運用が多くを占めています。さらに、HFT(High Frequency Trading)による取引が6割にも及ぶとなると、パッシブファンドの運用責任者はいちいち個々の上場会社とエンゲージメントを行うことは(費用対効果という意味において)相当困難です。よって(水面下での交渉が不調に終わった)アクティビストによる「ガバナンス不全」などの問題情報に関する提供や報道による企業不祥事に関する情報提供があれば、パッシブファンドとしても効率的に議決権行使の判断に有用な情報が得られるわけですから、代表取締役の選任(再任)議案への賛否も熱心に判断することになります。まさにアクティビストファンドとパッシブファンドとの役割分担が功を奏して共存共栄の時代です。

ところで、このあたりは上場会社(およびグループ会社)の経営者及び担当役員の皆様はどのように感じておられるのでしょうか?企業不祥事が発覚しても代表取締役の選任に反対票を投じられないようにするためには、①不祥事を原因としてアクティビストから株を買い占められない、②不祥事を原因とする「ガバナンスの不全」の評判を拡散させない、といった方策を検討する必要がありそうです。以前であれば株式の持ち合いによって、ここまで考える必要はなかったのかもしれませんが、持ち合い解消が進み浮動票が増えるなかでは、会社提案への反対票、株主提案への賛成票が増えて、どちらかというと「守りのガバナンス」に注力せざるを得ない状況に追い込まれるのではないかと危惧いたします。「攻めのガバナンス」に注力できない、ということになれば、上場会社にとっては相当な競争上のハンデを背負うことになりそうです。

企業不祥事を契機として(さらにファンドや金融機関の儲けを通して)業界再編が進む、というストーリーも、これからは当たり前になるのかもしれません。

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コメント

ひさしぶりの投稿です。中居氏の示談問題への対応が不適切ではないかということでダルトンがフジメディアに第三者委員会の設置を要求しています。単なる人権問題ということだけでなう、上場会社としてのディスクロージャーの姿勢が問題視されているということで、最終的には総会での役員選任議案への機関投資家の反応も見越したものではないでしょうか。

投稿: 高田 | 2025年1月15日 (水) 09時51分

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