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2025年1月22日 (水)

フジテレビグループにおけるグループガバナンスは機能するか?

昨日のエントリーで少し書いていた塩野義製薬の対応について産経新聞ニュースで明らかになりました(塩野義製薬、一社提供のフジ「ミュージックフェア」から社名削除を検討)。ミュージックフェアからの撤退はしないが(通常どおりオンエアはするが)社名だけは消すという、いやスゴイ対応。おそらく塩野義製薬にとって、ミュージックフェアは同社のアイデンティティのひとつなのでしょう。スゴイ会社だと思います。

さて、本日(1月21日)の日経ニュースに「フジHDに臨時取締役会要求 文化放送社長ら社外取7人」なる見出しの驚くべき記事がありました。フジ・メディア・ホールディングス(HD)の社外取締役を務めておられる文化放送の斎藤清人社長ら7人の社外取締役が、連名でフジ・メディアHDに対して臨時取締役会の開催を申し入れた、という内容です。旧ジャニーズ事務所系トップタレントと女性とのトラブルを巡り、同社傘下(つまり事業子会社)のフジテレビジョンの記者会見(1月17日)での説明が不十分として、さらなる説明を求める、とのこと。←なお、その後のニュースによると臨時取締役会が開催されることになったようです。

上記日経ニュースにも(エキスパートとして)コメントしましたが、私は当然、フジメディアHDの7名の社外取締役の方々も、誰がどのような会見を行うのか、その会見の手法も含めて事前に協議をしていたものとばかり思っていました。というのも、フジメディアHDの取締役は17名(監査等委員会設置会社なので監査役はいません)、うち社外が7名。いっぽう事業子会社であるフジテレビジョンの取締役は21名、監査役5名であり、フジメディアHDの社外取締役7名の方は、うち4名が取締役として、うち3名が監査役としてフジテレビジョンの役員を兼務されています(どちらか一つだけの社外役員をされている方はいません)。社内の方も合計7名が両社の取締役や監査役を兼務されているので、ホールディングスと主要子会社との情報共有は十分なされていると考えていたからです。

しかし、上記記事のとおり「きちんと説明を求めるために臨時取締役会の開催を(社外取締役全員で)申し入れる」という事態に至ったとなると、このような重大な有事対応を(フジテレビジョンの)社内役員のみで検討していたということが窺われ、フジテレビグループ全体のグループガバナンスが機能していなかったのではないかと推測されます。おそらく形式的な会見手法のことだけでなく、フジテレビの幹部社員が関与していた疑惑のある不適切行為全体についての実態が知らされていなかったのではないでしょうか。

通常、社外取締役全員で臨時取締役会の招集請求がなされれば、(フジメディアHDの)社長としては開催せざるを得ない状況になります。すでに75社を超えるスポンサー企業の広告出稿見合わせ(ACジャパン広告への差替え含む)、総務省や大株主、さらには労組からの調査要求にも直面していることから、同取締役会においては日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置することが決まるのではないかと予想いたします。さらに、独立性の高い第三者委員会の設置が必要とのことから、「フジテレビグループに忖度するようにはみえない」専門家を委員として選定することも決められるのではないでしょうか(21日夜の朝日新聞ニュースの報じるところでは、すでに日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会の設置が検討されている、とのこと)。

昨年話題となった損保ジャパンの不祥事については、親会社であるSOMPOホールディングスの監督責任についても金融庁が認めたところです。このたびのフジテレビジョンとフジメディアHDとの関係についても親事業者の監督責任が問題となりそうですが、先に述べた通り、相当数の社内・社外役員の兼任が認められ、重要情報の共有体制も構築されていた中で、ひょっとすると(これは私の勝手な推測ですが)1月17日の記者会見のころまで、フジテレビグループの役員の皆様は「平時」だったのではないでしょうか。文春報道と、それに続く大株主からの調査要求だけでは未だ「正常性バイアス」が働いていた可能性があり「定例記者会見の一環として会見すればよい」と考えて、とくに謝罪会見のような体裁でなくても「ラジオ・テレビ会」の記者だけに密室で会見すればよい、との認識だったのではないかと。ところが翌日以降の(突然とも思われる)スポンサー企業の行動から、フジテレビ関係者は初めて有事意識を持つに至ったのではないでしょうか(あくまでも私の仮説です)。

2022年5月にパナソニックが公表した子会社不正(パナソニックコンシューマーマーケティングによる建築基準法違反事例)の調査報告書によりますと、子会社役員や経営幹部が「法令違反ではあるけれど、とくに親会社に報告するほどのことではない。自社で少しずつ是正していけばよい」と考えて、親会社への報告を怠っていたのですが、たまたま当該不正の端緒を親会社の監査役が見つけて、これを子会社役員に問いただし、同監査役はすぐに親会社の執行部へ報告をして社内調査→公表→謝罪→第三者委員会の設置に至りました。本件では、子会社役員が不正を知ってから親会社役員が知るまで約2年かかりました。これほど不正に直面した企業の正常性バイアスは強いものであり、だからこそ親会社による監督が必要なのです。はたして兼務役員の多いフジテレビグループにおけるグループガバナンスは機能しうるのか。今後の対応に注目しておきたいと思います。

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コメント

キッコーマンは「食いしん坊万歳」の番組休止をフジテレビに要請したそうですが、名誉会長でもあり取締役会議長でもある方がフジメディアホールディングスの社外取締役ということで苦悩の判断ではなかったかと。忖度せずに判断したのでしょうね。

投稿: なかじ | 2025年1月22日 (水) 09時51分

 結局、フジメディアHDもいつも山口先生が重要視されていただいている企業の監視・監督機能が等閑のようです。
また、フジメディアHD幹部は『フジテレビから報告がなかった。知らなかった』で逃げるのでしょう。←ご承知のとおり、フジメディアHDの社長は、フジテレビの港社長の前任者であり、相談役にも巷で今も権力者といわれる日枝氏もいながら港氏が勝手に会見を行うでしょうか。
 明日の臨時取締役会で日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会が設置されることになったとしても調査報告まで時間がかかります。今、フジテレビが経営を重視して、メディアの責任の一つを果たせることは報道番組の放映の自重ではないでしょうか。・・・”経営の不在”でしたね。

投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月22日 (水) 10時17分

ご無沙汰しています。
2023年6月総会では(おそらくシルチェスターとオリンピック問題を理由にした多くの機関投資家の反対で)会長の賛成率が56%でした。
今年はシルチェスターがダルトンに変わっただけで株主構成に大きな変更がないと仮定すると、今年6月の株主総会の票読みが相当危なそうに思えるのですが、ここまでの動きをみるとフジメディア側にそうした認識があるとは思えなく、非常に不思議に思っています…

投稿: ty | 2025年1月22日 (水) 14時35分

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