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2025年1月23日 (木)

「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」を設置するにあたり誤解してはいけないこと

ダルトンインベストメンツのグループ企業が、フジメディアホールディングスに対して2回目の書簡を送付した、とのことで、今回は例の「ふてほど問題」へのフジテレビの関与について日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置して調査せよ、と要求しておられるそうです。TYさんもコメント欄で述べておられますが、アクティビストが大株主として出席した2023年6月のフジメディアホールディングスの株主総会では、代表取締役の選任議案がわずか56%程度の賛成率だったことから、(アクティビストの名前は代わっても)2025年の定時株主総会もかなりヤバい状況に変わりわないので、要求を無視するわけにもいかないものと思います。

さて、ここのところ、拙ブログでは旧ジャニーズ系トップタレントによる「ふてほど問題」に関連してフジテレビの有事対応を取り上げております。私自身が取材を受けたり、またメディアで有識者の方々が発言しているのを聞いたりしていて、ん?だいじょうぶかな?と少し危惧していることがありますので、ひとことだけコメントさせていただきます(ガイドラインの内容について意見にわたる部分は私の個人的な意見なのであしからず)。

フジメディアホールディングスの臨時取締役会が(23日にも?)開催されるそうで、おそらく第三者委員会を設置する方向で決議がなされるのではないかと予想しております。そのなかで、もし「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」を設置する、と公表するのであれば、その前に誤解がないように確認をしておいたほうが良い点を3つ述べておきます。

①「4月は番組編成の時期であり、社内はみんな忙しいのでそれまでに調査は終了するだろうか」との疑問をもたれる方もいらっしゃるようです。しかし、これはちょっと的外れな疑問です。日弁連ガイドラインでは、会社は調査への協力が最優先であり、幹部社員が「忙しい」との理由で調査に応じない場合は社長から「調査に応じよ」との業務命令を出さなければなりません。それでも応じない社員がいれば、その旨を調査報告書に記載することになります(「企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説」商事法務 14頁、75頁)。つまり調査がいつ終わろうと、長引こうと多忙を理由として第三者委員会の調査に応じないということは「ありえない」ので注意が必要です。だからこそ設置された時点で、社長名で「調査協力が最優先の仕事である」と社内に宣言してもらうのです。

②会社に不都合な事実も包み隠さず報告書に記載することが基本ですが、もし仮に「この事実がオモテに出たら、会社は破綻する、あるいは上場廃止となる」といった事実を第三者委員会が把握した場合、どうするか。これは「(開示することで)たとえ会社が破綻してでも、不利益な事実は明らかにする」というのが日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会の方針です(同書はしがきⅦ頁)。なぜなら(報酬をもらうのは会社からですが)第三者委員会はステークホルダーこそ真の依頼者であり、そのステークホルダーに影響を及ぼす事実を隠すことは制度目的に反するからです。フジテレビの例でいうならば視聴者、スポンサー企業、取引先、株主、そして社員のために第三者委員会は説明義務を果たさねばならず、その結果としてフジテレビに大きな経済的損失が生じたとしても、会社はこれを受け止めねばなりません。

③そして最後に「灰色認定」がある、ということです(同書40頁~43頁)。裁判では「立証責任」や「要件事実」等の訴訟ルールがありますから、判決は(たとえ裁判官の心証が51:49だとしても)シロかクロですね。でも第三者委員会の判断は「灰色」があります。揃った証拠やヒアリング結果からクロとまでは認定できない場合でもシロとは言わず、疑いは疑いとしてありのままにステークホルダーに伝えることを重視しています。「〇〇の疑いを払拭できない」とか「〇〇についての相当程度の疑いがある」とします。もちろん、そこに至った証拠に基づく心証形成のプロセスも記載しますので、単なる印象といったものではありません。裁判と違って第三者委員会の認定や評価は、役員の(法的責任ではなく)経営責任の判断根拠となったり、さらには組織における構造的不備(根本原因)の追究に活用されますので、このような判定も必要とされます。

ほかにも類似案件の徹底調査や開示・非開示の決定権限等厳しいルールもありますが、ともかくフジテレビが本当に日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置するのであれば、少なくともこれだけの覚悟が必要であり、もし「これはキツイ」というのであれば、「完全に準拠しているわけではない。なぜなら」と準拠していない点についてあらかじめ対外的に説明をしておく必要があるでしょう。ただ、そのような条件を付した第三者委員会報告書をステークホルダーがどう評価するかは、また別の話であります。さらに、これだけ厳格なルールに基づく調査によって「シロ」と判断された場合には、世間から「自浄作用を発揮した」と言われて信用回復に資するものとなるわけです。

※ なお、最近は第三者委員会が認定した事実が裁判で争われて、裁判所で事実が覆されるものもあります。そういった緊張感のなかで委員は活動することを申し添えます。

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