独立第三者のみによる調査委員会設置-その委員人選にみる「フジテレビの覚悟」
連日、拙ブログでも意見を書かせていただいている「フジテレビの『ふてほど問題』への対応」でありますが、こちらのブログ「フジテレビ・スポンサー離反問題-もう『日弁連ガイドライン第三者委員会』しか選択肢がないのでは?」で予想していたとおり、フジテレビ(フジメディアホールディングス)は日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会の設置を取締役会にて決定したそうです。
すでに日経ニュースでもコメントしましたが、私は日弁連ガイドライン準拠の第三者委員会が設置されることを前提に、ではフジテレビは誰を委員として職務を委任するのだろう、ひょっとしたら「なんちゃって委員会」でお茶を濁そうとしているのではないか・・・との懸念をもっておりました。そのうえで、速報ニュースで3名の候補者名をみて「ほおお!マジで?」と少々驚いた次第です。3名とも良く存じ上げている方々でして、竹内弁護士、五味弁護士は国広正弁護士の事務所ご出身(五味弁護士は在籍)であり、寺田弁護士は大手法律事務所在籍。みなさん働き盛りの方ばかりです。
さきほど引用したエントリーでも、私は「もはや日弁連ガイドラインの生みの親である久保利先生か国広先生しか委員長はできないのでは」と書きましたが、国広門下の先生方が火中の栗を拾ったのですね。竹内弁護士と私は過去に何度も調査委員会をご一緒しましたが(公表されているものではアイアールジャパンHD事案やハイアスアンドカンパニー事案。私が委員長で竹内弁護士が副委員長でした。)、私が「もう、これぐらいにしといたろ!」と手仕舞いを始めようとすると、竹内弁護士が「いやいや委員長、もっとここまで追及すべきですよ。もっと間接事実を積み上げないと事実認定に世間は納得しないですよ」と委員会に発破をかける。時には私が諦めかけていた「類似案件の発掘」も、竹内弁護士の頑張りで見事発掘できたこともありました(詳しくは守秘義務があるので書けませんが)。最近は東京女子医大元理事長事件の第三者委員会委員を務めておられました(この第三者委員会報告書によって、行き詰まっていた警察捜査が進んだことはこちらのエントリーで述べたとおりです)。いやホント「会社に厳しい」というよりも「真実追求に厳しい」不正調査のプロフェッショナルです。
寺田弁護士とはセブンアンドアイHDの上場子会社だったニッセンホールディングスで社外役員をご一緒していました。私とともに100%子会社化(三角株式交換による会社統合)の際、少数株主保護という立場で有事を経験しました。こちらの記事にもあるように、2018年の日大アメリカンフットボール部による悪質タックル問題が起きたときに検証委員会の委員長を務められ、最近も東証プライム企業の不祥事に関する外部調査委員会委員長も務めておられます。弁護士としての能力もさることながら、人間としても誠実な方で、日本アメリカンフットボール協会の会長を務めておられるのも納得です。まさに「売れっ子」の弁護士なので、この難事件をよくお引き受けされたなぁと驚きました。
こちらのエントリーでも書きましたが、いままで第三者委員会の委員を経験してきたとしても、今回は特別にたいへんな仕事だと思います。おそらく委員選定のプロセスにも何ら問題はなく、まさに「フジテレビと利害関係は一切ない」委員会のはずです。フジメディアホールディングスとしては、どこから押されても「忖度はない」と説明できる委員会を作らなければならない、といった判断で人選に至ったものと推測され、同社の覚悟が示されたものと言えます(本日、フジテレビは社員説明会の様子を「ニュース中継」で報じていましたが、これも一つの覚悟だと感じました)。委員に就任される方、委員補佐をされる方々には、日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会ですから、どうか真の依頼者であるフジテレビの社員を含めたステークホルダーの利益のために、さらには社会のために職務を全うされることを祈念しております。
なお、最後に個人的な感想をひとこと言わせてもらうならば・・・ホンマに3月末に委員会は終了するかなぁ。。。中間報告形式でもあぶないんとちゃうかなぁ。。。類似案件が出てくると長引く可能性はあるんとちゃうかなぁ。。。N氏は引退したとはいえ、なんかまだ「文春砲」が出てくる気がするなぁ。。。(あくまでも「ひとりごと」です)
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コメント
いつも拝読しています。毎日のブログを楽しみにしています。
かつて務めていた会社で大きな不祥事が発生しまして、そのときに第三者委員会を設置しました。私は総務責任者として事務局対応を仰せつかり、チャイニーズウォールを敷いて委員会活動を支えました。そのときの感想ですが、独立性ある第三者委員会といっても監督官庁の言いなりで、やれドラフトを見せろとか、ここは書き直せとか、挙句の果てに公表時期まで指図され「どこが独立性なのか」と強い憤りを覚えました。
日弁連ガイドラインに従って調査を行うとは言うものの、結局は監督官庁や大株主に支配される委員会ではないかと、今回も自分の経験から疑問を感じております。失礼かとは思いましたが、やはり限界はあるのではないかと思い、コメントを差し上げました
投稿: メーカーOB | 2025年1月24日 (金) 11時28分
引退した中居さんにヒアリングはできるのでしょうか?ヒアリングを受ける義務はあるのでしょうか?なぜ2カ月ほどで調査を終了させるということが可能なのかわかりません。その時点で第三者委員会は忖度しているのではないですか?何をどこまで調査しなければならないか、現時点ではわからないと思うのですが。
投稿: unknown1 | 2025年1月24日 (金) 11時39分
いつも楽しみに拝読しております。
日弁連ガイドラインに準拠するのは、確かにこれまでの対応に比べ大進歩だと思います。ただ、対象が総務官僚やスポンサーにまで広がった時に、本当に真実が明かされるのかは何とも言えないように思います。また、厳しい真実追及で死人が出たような場合には、結論が有耶無耶になってしまうかもしれません。
3ヶ月は短過ぎるとは思いますが、報告書が出たら黒塗りだらけでも良いので、ぜひ読んでみたいと思っています。
投稿: 都市和尚 | 2025年1月24日 (金) 13時01分
山口先生の予測とやるべき方向に少しは進んでいますね。
委員長は竹内氏ですか。山口先生の評価も高く期待はしたいです。が、竹内氏が委員であった2020年のT社の調査報告書を読みましたが、等閑なとこも多々あった記憶があります。日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会も万能ではないと考えます。山口先生にお伺いしたいのですが、第三者委員会は現行の取締役の更迭意見までは報告できるんでしょうか?コンプライアンス違反、刑法違反であっても司法への自主申告は進めるものはありました。内部統制システムの限界、経営者の倫理感について強く報告した委員会はありましたでしょうか?
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月24日 (金) 13時27分
フジテレビの件は、「リンチ(私刑)の禁止」「法的手続保障」「罪刑法定主義」といった市民社会の価値観を飛ばし、「けしからん」という感覚的な理由で全てが進んでいるように見えて、寒い限りです。
日弁連の「ガイドライン」も「これは何なのか」という疑問を持たざるを得ません。ガイドラインには「会社法」という単語はなく、法律の条文も判例も一切引用されていません。「ベストプラクティス」と言っていますが、過去のケースが引用さてもいません。「日弁連が決めた」と言っても、それが民主的な決め方とは言えませんし、そう決めた「根拠」も示されていません。
「独立した」というのは、「ガバナンスを受けない」と同義であり、ガバナンスの問題に、独立した委員会を使うというのは皮肉です。「独立した人なら、良い結果を出してくれるだろう」というのは「性善説」です。でも日本では、過去から「独立」した組織で問題が起きており、最大の物は帝国陸海軍が政府から独立(統帥権の独立)した存在だったため、国を滅ぼした件ですが、現在でも検察の独立がたびたび問題を起こしています。
会社法に対応策がないかと言えば、「監査役(監査委員会)」「検査役」があり、「独立委員会」と「監査役」「検査役」の関係を何も示さない「ガイドライン」はどうなのかと思います。
委員会は「誰のために」準委任契約を結ぶのかを明確化する必要があります。ガイドラインは「株主、投資家、消費者、取引先、従業員、債権者、地域住民などといったすべてのステーク・ホルダー」などと言っていますが、「ステークホルダー」(利害関係人)とは利害が対立する人達のことですから、「ステークホルダーのために」とはいかないはずです。利益相反を最も嫌うはずの委任契約で、利益相反を必然的に起こすのはどうかと思います。同床異夢の独立委員会は誰のためのものなのでしょうか。
日弁連のガイドラインがなければ、会社法本来の監査役などが動けるのでしょうか、ガイドラインが存在するので動きづらい、しかもガイドラインには問題が多い、というのが、混乱に輪を掛けているように見えます。
投稿: 会社法の立場 | 2025年1月25日 (土) 16時41分
ただまぁ、今更覚悟決めた人選しても伝わらんだろうな感が……
調査委員会立ち上げるけど身内でやります、容疑者をトップにするかもしれません、からの大惨事になったので人選は変えます、だと場当たり的にやってるだけに見られそう。
戦力(っていい方も変だが)の逐次投入ってこういう形で効果を減じる事もあるんだなぁ……
投稿: unknown1 | 2025年1月27日 (月) 02時47分