« 公益通報者保護法改正案の内容が明らかに(読売新聞ニュースより) | トップページ | フジテレビ問題-社外取締役の皆様のご提言について »

2025年1月28日 (火)

フジテレビ問題-第三者委員会が調査しやすい環境をまず作りましょう

TBSホールディングスは、本日、ラジオのパーソナリティを長く務めていた著名なフリーアナウンサーの方の降板を発表しました。同社の人権方針に合致しないコンプライアンス違反が認められたため、とのこと。2023年10月に「SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSの調査対応を高く評価する」でも書きましたが、TBSは旧ジャニーズ事務所事件のときも民放キー局のなかで一番厳しい姿勢でした。「問題発生は止められないが、発覚したら自浄作用を発揮する」、おそらくこれがTBSの企業風土の現れだと思うのです。今回のフジテレビの問題は、私から見ると「どこの企業でも起きうる問題」です。コンプライアンス担当者からすれば「コンプライアンス室長は蚊帳の外だった」(社員説明会の発言より)といった事実に悲しくなるかもしれませんが、これが現実です。

さて、本日(1月27日)フジテレビ経営陣による記者会見が行われ(本エントリー作成時、8時間半経過してまだ続いていますが)、一部ではありますが10分遅れのライブ配信を視聴いたしました。これで信頼回復に至ったとは思えませんが、質疑を聴いていて、これだけ世間の注目を浴びる事件の第三者委員会はさぞや仕事がやりにくいだろうなぁとため息が出ました。記者会見が始まって3時間40分が経過したころ、関係者から重大な発言がありました(その後撤回されました)が、そういった内容についても出てしまった以上は第三者委員会の調査対象になるのかもしれず、ホントにたいへんな調査になりそうです。この超ロングラン会見の内容も頭に入れなければならないわけでして。

まず、すでに申し上げておりますが、3月末までに調査を終える・・・というのはかなりむずかしいのではないかと。現場で何が起きていたのか、そこにフジテレビの社員がどのように関与していたのか、といった、いわゆる「一次不祥事」のみであればなんとか3月末までに調査を終えることも可能かもしれませんが、そこに加害者とされる男性タレントの類似案件(別のタレントも出てくるかも?)の調査や、委員補佐ではなく委員自身によるヒアリングが求められる(ガバナンスや内部統制に関する)経営陣へのヒアリングを加えると、おそらく5月の連休明けくらいまでは調査が続くのではないかと思います。委員会のほうから「3月末をめどに」との話が出たということですが、フジテレビ側としても、ステークホルダー側としても、ものすごく3月末終了には期待をしていると思うので、たいへんですね。

つぎにこれだけフジテレビ(及び親会社の)相談役取締役の方の進退問題が話題になっているので、委員会としてもなんらかの(経営責任に関する)提言を出す必要はありそうですね。相談役の方は記者会見に出席はされませんでしたが、せめて「相談役の進退についても、社外役員も含めた我々が(第三者委員会の意見を踏まえて)検討します」との回答は欲しかった。ご自分でなんとか検討されるでしょう・・・では、やはり「ああ、これからも企業風土は変わらないのだな」という印象だけが残ります。相談役の方の経営責任について、どのような結論になろうとも第三者委員会としての理由を述べることが必要ですね。

さて、ここからが大問題ですが、本日の会見では、調査報告を待たずに一定の再発防止策は実践したい、とのこと。たしかに多くのスポンサー企業がCM自粛となっていますので早期の信頼回復のために手を尽くしたい気持ちはわかります。ただ、そうなると第三者委員会の再発防止策提言と、先行する企業の再発防止策との整合性をどうするか。企業主導の再発防止策を評価しつつ、あらためて別途再発防止策を提言するのでしょうか。ここは工夫が必要です。

さらに、こんなに世間の話題になった事件の「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」というのは経験があまりないのですが、間違いなく今後も小学館(たとえばポストセブン)、集英社(オンライン)、文藝春秋社(週刊文春)との情報収集合戦に第三者委員会は巻き込まれる可能性があるわけで、そこで第三者委員会は勝てるのか?これは私も経験がないのでわかりません(捜査機関や行政庁との調査協働の経験はありますが)。調査委員会の認定事実が(取材能力に長けた)週刊誌記事でひっくり返るようなことがあれば、第三者委員会の信用性だけでなくフジテレビの信用回復にも影響が出ますね。

いずれにしても、会社側もステークホルダー側も、これから第三者委員会の調査が始まるというのに、それ以外のところでフジテレビの問題点を洗い出したり、関係者の経営責任を追及したり、といったかなり深刻な雰囲気が漂っています(ACジャパンの広告にもあるとおり「決めつけ刑事(デカ)」は避けるべきです)とりあえず、まずは冷静に第三者委員会の調査が(当初の)予定どおりの期限で終了できるよう、万全の環境を作ることが最優先と感じた次第です。どうか関係者の皆様、第三者委員会が日弁連ガイドラインに沿った調査を実践できるよう、協力をしていただけないでしょうか。

|

« 公益通報者保護法改正案の内容が明らかに(読売新聞ニュースより) | トップページ | フジテレビ問題-社外取締役の皆様のご提言について »

コメント

 フジテレビの会見および今後のポイントの詳細解説ありがとうございます。第三者委員会の調査に関与されたと疑義のある幹部のまっとうな事実で協力することが最重要と理解しました。
 山口先生のご懸念の一つ「調査報告を待たずに一定の再発防止策は実践したい」との意思による第三者委員会の調査報告書における再発防止策との整合性について私見を述べさせていただきます。
【誰が調査を行っても再発防止策は整合すべきものであり、整合しない恐れのある再発防止策は不可】と考えます。
根拠:フジMHDは上場会社であり、内部統制システムを構築しており、通報制度もある。その不備の是正に基づいて再発防止策を構築すれば、万が一、第三者委員会との不整合的な点がでても議論できるし、自浄作用の再発防止策を作成し、第三者委員会に報告しておけば第三者委員会の報告書への反映される場合もあるのではないでしょうか。
 先生のご指摘のとおり、ステークホルダーである社員やスポンサーへの早期報告は大変重要であり、ある意味生死がかかっております。また、第三者委員会の設置の最重要機能は『事実の認定』と察します。加えて第三者委員会はフジMHDが困難なな再発防止策の要求はしないでしょう。
 小生の経験ですが、企業不祥事があり第三者委員会を設置しましたが、自浄作用として監査等委員会も並行して調査を行い、第三者委員会の調査報告前に取締役会に報告し、その報告書を第三者委員会と監査法人にも通知しました。取締役会では不祥事に関与した取締役が多数で「専門家でもない報告は受け入れない」一笑され、開示もできませんでしたが、その後の第三者委員会の調査報告の内容(事実認定)が監査等委員会の調査報告内容と全く同じで関与した取締役の損害賠償まで持ち込めました。フジMHDに第三者委員会の調査報告が裏付けとなるような調査を行える組織等(コンプライアンス室や監査等委員会は存在)の行動が3月前に信頼を取り戻す自浄作用の主張となるのではと考えます。

投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月28日 (火) 10時48分

TBSの朝のラジオ番組のパーソナリティの降板についてTBSの姿勢を評価されていますが、この番組、朝の目覚まし代わりに聞いておりまして、先週のどこかでお天気キャスターの話の直後、「そんなんじゃ、何言っているか伝わんねぇよ」とパーソナリティが発言したのが聞こえました。あれ?いつもの雰囲気と違う・・・と思ったのですが、すぐに6時半の番組終了。その翌週月曜日に降板です、おそらく普段からスタジオ内では、こんな雰囲気で、オンエアの中でのイメージとは違う人だったのだと思います。それが見えちゃった瞬間、降板決定ということであれば、TBSの姿勢は褒められたものではないと思います。

投稿: ひろ | 2025年1月29日 (水) 14時58分

 色々な肩が色んな事をおっしゃっていて議論が拡散したり違う方向に行ったりしていますね。
 私の注目点は以下の通りです。
1.類似案件調査
 雑誌の誤報が取り沙汰されていますが、類似案件で会社の関与があった証拠が出てきたら、一事例の誤報は吹っ飛びそう。
2.類似案件調査のための通報窓口
 設置するのでしょうか。設置した場合、社員に対する報復措置を行わないことを役員誓約させるのでしょうか。組合への参加増、社員への説明に際しての社員の対応、記者会見に出てきた社員の発言からすると、通報窓口に情報が殺到しそうな気がします(そうすると調査期間があっという間に長期に)
 類似案件は過去何年に絞るかなあ。
3.ガバナンス問題
 これは上場企業の子会社の不祥事として、上場企業のガバナンス問題は避けて通れないでしょうねえ。
4.別の委員会の組成等
 検討は構わないと思いますが、決定と公表は、第三者委員会の承認を受けないと、もし相違があったら大変だと思います。
5.第三者委員会の調査結果がひっくり返るかどうか
 まあ、著名な先生が委員長を務められた第三者委員会報告書の内容と、逆の結論が裁判の判決で出たケースもあるので、仕方ないとは思いますが、現委員長らはひっくり返ったことはないようなので、あまり心配していません。ただ、格付け委員会が格付けしてくれるかなあ。

 いずれにしても、どんな結果が出ても・・・という第三者委員会なので、引き受けた先生方には敬意を表します。


投稿: KAZU | 2025年1月29日 (水) 19時26分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 公益通報者保護法改正案の内容が明らかに(読売新聞ニュースより) | トップページ | フジテレビ問題-社外取締役の皆様のご提言について »