「弁護士を入れた調査」と「第三者委員会調査」はかなり違う(と思う)
旧ジャニーズ系トップタレントの女性被害問題に関連してフジテレビ社員の関与疑惑が生じており、その解明に向けてフジメディアホールディングスの大株主が第三者委員会の設置を要請しています。一方で、フジメディア側は「(当社社員による関与はないと考えているが)昨年末より外部の弁護士を入れて調査を開始している」と釈明しています。もちろん、調査に加わっている弁護士の方が中立公正かつ主導的なな立場で真摯に関与しているかもしれませんし、逆に世間には「なんちゃって第三者委員会」も存在しますので、以下のお話は(個別事案へのものではなく)一般論としての意見であります。
不祥事疑惑が生じた際に、社内調査に外部弁護士として関与するケースも、またステークホルダーへの説明責任を果たすための第三者委員会委員として関与するケースも、どちらも経験した立場からしますと、やはり事実認定、原因分析、そして関係者の責任判定いずれにおいても世間からの信用度はかなり違う、と思います。
会社から「何を調査してほしい」という委嘱事項はありますが、ではどんな事実を、どこまで掘り下げて調査をするか、という調査範囲の決定権限は第三者委員会にあります。一方、「弁護士も関与」というだけでは会社自身が調査範囲をコントロールするために「本当に知りたい事実」が深堀りできないことがありますね。とりわけ「組織的関与」が疑われる場面では、調査範囲を絞られると外部弁護士としてフラストレーションがたまります。
関係者のプライバシーは最大限守られますが、それでも第三者委員会のケースでは報告書(公表版)は原則として公表されることが前提ですし、原因の特定や責任判定の起案権は委員会に帰属しますので会社に不都合な事実も明るみになる可能性は高い。委員会が調査に協力を求めたところ、これに応じなかった役職員の存在やフォレンジックス調査によって重要な証拠を隠ぺいした事実なども明らかになります。不適切行為に及んだ社員を責めるだけでなく、その不適切行為を許容していた組織の構造的な欠陥にまで光をあてる、というのも第三者委員会調査の重要な役割です。
委員会報告書が公表されますと「ツッコミ不足」を外部から批判されることもありますので(たとえば機関投資家や格付け委員会等)、専門家としては世間の評価に耐えうる成果品を仕上げることへの緊張感もありますね。
「弁護士を入れて調査を行う」ということで、純粋な社内調査よりも信用性の高い調査を行っていることを説明したいという企業の気持ちはわかるのですが、「組織的関与が疑われる等、社内調査だけでは信用できない」といった場面では、専門家によって構成される第三者委員会調査を入れることが後々のことを考えると適切ではないかと思うところです。
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コメント
第三者委員会の設置の重要性の説明等ありがとうございます。
企業生活40年ほど継続した会社人としての意地意見ですが、ご笑読いただけましたら幸いです。フジメディアホールディングも上場会社であり、内部統制システムも構築されており、通報制度も社内外の制度があるようです。危機管理システムも構築されていることでしょう。その場合、不祥事が発覚された場合の手順もあるはずで、なぜその手順で内部調査等を行わないのか?報道等では「弁護士を入れて調査を行う」ようですが、明確に開示と言う形で調査形態をステークホルダーに可視化すべきと考えます。このような開示等を行わない取締役等を監査役等の監視・監督機能を発揮させ自浄作用が未だ失われていないことで信頼失墜の一部回復ができると考えます。第三者委員会を設置しても内部調査を継続させ第三者委員会より前に内部調査を開示、それが第三者委員会と同様の内容であればまた信頼回復の機会を得ます。そもそも企業不祥事の要因は関与した権力者等の強制的正当化であり、隠蔽工作がほとんどです。全うな調査(内部統制システムに則った)であれば誰が調査しても同じ解となります。余談ですが、フジはニュース番組等も未だ取材を行って放映しています。自己取材はなぜ、できないのでしょうか?山口先生にお聞きしたいのですが、第三者委員会等の設置した会社では、内部調査はもう行っていないのでしょか?もう第三者委員会の調査結果に従うのみで、自社監視・監督機能は不在としているのでしょうか?それでは監査報告書に「当社の監視・監督機能は不充分であった」等の報告も必要と考えます。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月16日 (木) 20時45分
第三者委員会の20年ほどの歴史を振り返ると、社内調査を終了して第三者委員会調査に移行する事案、社内調査が並行する事案、第三者委員会委員会終了後に社内調査が行われる事案など、さまざまです。第三者委員会が設置された場合には、社内調査を引き継ぐ場合もありますし、役割分担して同時進行するケース(親会社とグループ会社等)もあります。ただ、本文にも書いたように、最近は「社内調査によるも、もはやその結果を世間が信用できない」と思われるケースで第三者委員会が設置されますので、同時並行というのは少なくなったように思います。自浄作用を発揮するとなれば、第三者委員会に会社を挙げて協力する姿勢を示すことだと思います。
投稿: toshi | 2025年1月16日 (木) 21時44分
ご教授ありがとうございました。
上場会社には「会社に損害を与える事象が発生した場合」の対処プロセスは必ずあります。なぜそのプロセス通り行動しないのか残念です。やはり、コンプライアンスや内部統制システムが未だ軽視されていると感じます。株主が委託する経営は「善悪より損得」ではないはずです。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月17日 (金) 09時14分