昨年の「公益通報者保護法」に続き、今年は「第三者委員会」がトレンドか?(追記あり)
週末のエントリーということで、放言であることご了承ください。17日、旧ジャニーズ系トップタレントの「ふてほど問題」に関連するフジメディアホールディングス社長会見が行われましたが、同社社長はこちらのエントリーで述べた通り、フジメディアは(第三者委員会とまでは言えないかもしれませんが)外部弁護士による調査委員会を設置することを表明しました。ライブでの中継もなく、またネットメディアによる取材を締め出した会見方法には疑問もありますが、とりあえず一歩前進というところでしょうか。ただ、土曜日の朝から「めざましどようび」を視ていて、「ACジャパン」の広告が多数流されており、事の重大さをあらためて認識しております。
以下は私の勝手な感想ですが、一昨年の旧ジャニーズ事務所が設置した調査委員会(報告書は2023年8月に公表)とは比べ物にならないほど、今回の「ふてほど問題」は「第三者委員会」の存在に注目が集まっているように思います。正直申し上げて、この調査委員会の委員長はたいへんだろうな・・・と。大株主からの要望で(当事者間で何が起きていたのか、という核心部分の事実認定もさることながら)フジテレビや親事業者のガバナンスについても評価根拠事実を認定しなければならない、また、昨日のフジテレビアナウンサーの告白(コメント?)でも明らかになりましたが、多くの社員が加害者もしくは被害者として疑惑の目を向けられていて、これも晴らさなければならない(つまり当事者のプライバシーを守りつつも、関係のない社員の疑惑も晴らさなければならないってこと?)。さらに、スポンサー企業の人権ポリシーを意識した報告内容を検討しなければなりません。
これだけネットメディアであれこれ言われる時代となれば、たとえば第三者委員会が日弁連ガイドラインに準拠して厳格に事実認定や法的評価を行ったとしても、その結論に対してはネットメディアでは批判の対象となり、挙句の果ては調査委員個人への攻撃にもつながりかねない(←昨年の兵庫県知事問題の百条委員会で参考人として証言した私の体験に基づく感想です(*´Д`) 中立公正な立場で、しかも組織としての兵庫県の違法性について論じたのに・・・(*´Д`))。
本来、第三者委員会は「件外調査」についても調査範囲としますので、旧ジャニーズ系トップタレントN氏や関与が噂されているフジテレビ社員の「ふてほど問題」が他にもなかったのか・・・という点を厳しく調査をします(「厳しい調査」は、果たして百戦錬磨の「週刊文春」の更なるスクープに耐えられる?-難問その1)。さらにガバナンス、つまりフジテレビや親事業者のガバナンスに問題があったかどうか、という点の調査には、フジメディアグループ全体の委員会への協力姿勢がなければ不可能です(昨日の会見の様子からみて大丈夫?難問その2)。そして、被害者とされる社員のプライバシーを最大限守りつつも、「よってその他の社員は無関係です」ということを社会的にも明らかにしなければならない(二律背反の要請をどない開示すんねん?-難問その3)。(追記1月19日午後)さらなる難問として、これだけCM撤回、差替えが増えている状況であれば、フジテレビとしては調査委員会の結論を急がせる可能性があります。真実性と迅速性、そして客観性(独立性)をどう調和させるのか・・・超難問がまたひとつ増えました。
委員会としては、後日の訴訟にも耐えうる(法的理性に基づいて)事実認定、法的評価を目指しますので、もし心証形成がグレーだった場合には「〇〇という疑惑については〇〇という認定までには至らなかった」という結論になります。しかし、これに対して社会の評価は「甘すぎ!第三者委員会といっても、結局お金もらって会社とズブズブ」との評価を受けることが予想されますし、一方において「グレー」であるにもかかわらず「第三者委員会が〇〇と断定!社長は責任をどうとる?」と勝手に拡散されます。つまり第三者委員会が理屈で説明したとしても、かならずグレーな部分が生じますから、報告を受けた国民は自分の「こうあってほしい」といった結論を曲げずに自分に都合の良いように第三者委員会の結論を引用するはずです。本件は、そのような国民的レベルの問題にまで、いわゆる「不祥事発覚時における第三者委員会」が活用されようとしている、というのが私の見立てであり、これまでの企業不祥事発覚時の調査委員会以上に世間的に注目を集めるものと予想いたします。
(1月19日追記)テレビでさかんに「第三者委員会」が話題とされていますが、「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」は、ステークホルダーへの説明責任を尽くすことが最終目的であり、企業の有事におけるリスクマネジメントに資することがあったとしても、決してそれが最終目的ではないということはご理解ください。また、ガイドライン制定が今から15年前ということもあって、現時点で日弁連ガイドラインに完全に準拠した第三者委員会がベストとは言えない・・・という議論もあることだけ付言しておきます。
ともかく、誰が委員長になればネットメディアを含めてステークホルダーが納得する委員会活動が期待できるのでしょうか?私個人の意見としては元最高検検事とか、元最高裁判事といった方が委員長に立ち、脇を企業法務の世界で活躍されている弁護士の方が固めるというのが最適かと思いますが。以上、まったくの放言です。ご容赦ください。
(1月19日夜 追記)朝のめざましテレビで「ACジャパン」が多いと書きましたが、トヨタ自動車、日生、明治安田生命、アフラック生命、第一生命、NTT東日本、花王などがフジテレビへのCMを当分見合わせるとのこと。うーーーん、予想していた以上に大きな問題に発展したようです。
(1月20日午前 追記)日弁連ガイドラインに準拠していない第三者委員会であれば、そもそも「結果ありきの委員会」と指摘する有識者の方もいて、やはりこの調査委員会はかなりしんどい委員会になりそうです。
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コメント
反論ではありません。穿った見方です。
今回のフジテレビの問題で法務の世界で活躍されている方々が最適か疑問があります。法務の世界の方々は、コンプライアンス違反を狭義に判断されることもしばしばあります。法令違反でなければ(グレー等)、猶予を与える結論になる場合もあります。また、内部統制システムを構築した経験もない方がが多いと察します。特に気になるのは例えば弁護士は『クライアントの利益最優先に考える』のでは?。フジテレビの場合、山口先生のご指摘のとおり、日弁連の『企業不祥事における第三者委員会のガイドライン』にも沿わないようですから。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年1月18日 (土) 17時39分
ありがとうございます。それは盲点でした。関西テレビの「あるある大事典」納豆ダイエット事件のときの調査委員会は弁護士以外の専門家によって構成されていたことを思い出しました。ひょっとすると「グレー」の中身のほうが重要かもしれませんね。放送局という特殊な世界についてはそのほうが再発防止のためにも適切かもしれません。だから法律専門家以外の委員も含まれるために「日弁連ガイドラインに準拠していない」のかも。
投稿: toshi | 2025年1月18日 (土) 19時42分
アフラック生命やNTT東日本もだそうです。この流れは止まらないでしょうね。
投稿: なかじ | 2025年1月19日 (日) 01時22分
スポンサー離れが進んでいますが、当社も検討中です。港社長が関与を全面的に否定してくれていれば様子見だったのですが「関与はないと信じたい」との回答だったので、これは動かざるを得ないという心境です。
投稿: 某リスマネ担当者 | 2025年1月19日 (日) 14時39分
皆様、コメントありがとうございます。
ちょっと気になるFLASHの記事が目に留まりました。フジテレビから第三者委員会委員として打診を受けている弁護士からの取材だそうです(ちなみに、私は決して打診を受けている段階で「打診がある」とは口が裂けても申し上げません)。
「調査委員会を設置するなら、当該関係者への直接聞き取りをおこない、携帯電話の履歴などを開示させること。また、調査報告書について事前のフジテレビ担当者への開示はしないこと、そして公開は調査報告書をそのまま発表し、その際の質疑応答は調査委員会の委員がすること。こうした条件をつけました。日弁連のガイドラインに沿ったものですが、結局、持ち帰るという結論になりました」
なるほど、そうであれば、第三者委員会に就任した弁護士もしくは会社側が、どのような条件で調査を依頼したのか(合意があったのか)、対外的に説明していただいたほうがいいかもしれませんね。
投稿: toshi | 2025年1月19日 (日) 19時49分