MBO時の企業行動規範改訂へ-目に余る「指針ウォッシング」
2月7日の日経ニュース「その買収大丈夫? 東証の新ルール、少数株主保護に一石」において、東証はMBO時における対象上場会社の行動規制強化策(少数株主保護強化策)を2月中にも公表することが報じられています。おそらく企業行動規範の中で、(MBO対象企業は)MBOを行う際に特別委員会を設置して意⾒を聞くよう義務付けることや、株式価値を算定する前提条件の開示を充実させることなどが想定されているものと思われます。
2019年に経産省「公正な M&A の在り方に関する指針」が策定されて、構造的な利益相反状況にあるMBO時における少数株主保護のための行動規範がかなり整備されたわけですが、近時のMBO事案をみておりますと、この指針に形式的に準拠してはいるものの、実体は少数株主保護が徹底されていない事案が散見され、機関投資家からも「指針ウォッシング」と揶揄される傾向にありました。2019年前後に出された価格決定申立事件でも、プロセス重視で「会社寄り」と思われる決定が続いたことも影響しているのかもしれません。
そのような状況で2023年には経産省「企業買収行動指針」が示されて、2019年の行動指針はやや時代遅れの感が否めず、ここ5年の間にも社外取締役の数が(各取締役会の構成比率において)急増してきたことから、特別委員会を設置する環境も変化してきました。さらには上記日経記事にもあるように特別委員会の審議過程が裁判所で厳しく問われ、MBO価格が修正されるような決定も(下級審ながら)出るようになりました。
もともと東証では「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」において、親子上場における子会社株主の保護について広く検討されていましたが、このたびはとりわけ「MBO・支配株主による完全子会社化に関する企業⾏動規範の⾒直し」が昨年から議論されてきた経緯があります。議論の目的に
「資本コストや株価を意識した経営」の要請等を踏まえ、今後MBOや支配株主による完全子会社化の更なる増加が⾒込まれることも前提に、⼀般株主の利益を適切に確保する観点から、追加的な手当ての必要性について速やかに検討すべき
とあるのを見れば、近時の東証の市場政策とも密接に関係する「行動規範の見直し」であることが理解できると思います。詳細については、また正式に見直し案が公表された時点でご紹介したいと思いますが、アクティビストの抬頭によって、今後は(価格に不満を持つアクティビストによって)社外取締役を含めた対象企業の役員の法的責任が問われる事例が増えるものと予想しております。