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2025年2月 4日 (火)

関係者の利害調整を超えて国家政策を後押しする会社法改正

大阪北新地のANAクラウンプラザホテルが今年10月に閉館するそうですね。長年、日本監査役協会(関西支部)の研修や講演に使われていましたが、これからはどうするのでしょうか。以下本題です。

さて本日は会社法改正に関連するエントリーです。石破首相の施政方針演説でも「会社法の改正に着手する」とありましたね。全然関係ありませんが、昨年12月17日の石破首相の答弁で公益通報者保護法11条による法定指針で定めた「公益通報者保護のための事業者の体制整備」は3号通報(外部公益通報)者の保護についても適用される、とありました(私が百条委員会で参考人として述べたところです)。

2月3日の読売ニュースでは「株主総会『オンラインのみ』可能に 場所に関する要件緩和へ」との見出しで会社法改正に向けた政府のうごきが報じられていました。定款変更や経産省の確認手続き不要でバーチャルオンリー株主総会が開催されるようになるところがポイントですね。神田教授(東京大学名誉教授)が「会社法」初版で「将来はインターネットを通した電子株主総会の時代が来るかもしれない」(同66頁)、「インターネットを前提とした会社法は考えられない、金融工学を前提としない資本市場はありえないのが現状であり、会社法もそれを想定しないわけにはいかない」(同210頁)と指摘されてから20年。ようやく「場所の指定を不要とする株主総会の実現」ということで神田教授が想定していた会社法の時代が到来しつつありそうです。

Img_20250203_161225220_512 その神田教授が座長を務めておられる経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」は、本年1月17日付で「会社法の改正に関する報告書」を公表しています。私の個人的な意見ですが、今回の会社法改正の流れを理解するためには、「最新・ガバナンスを見る眼-経済成長戦略実現に向けて」(武井一浩編著 商事法務)の解説や対談を読むことがお勧めです。とりわけ武井弁護士や松井秀征教授(立教大学)のお考えがとても参考になります。このたびの研究会がなぜこのような報告内容に至ったのか、という経過についてよく理解できました。

なお、会社法改正については、内閣府「規制改革実施計画」(令和6年6月)において令和6年度中に法制審議会への諮問等を行う旨が示されておりまして、おそらく上記報告書をもとに法制審での議論が進むものと思われます。研究会の報告書では、成長投資を後押しする観点等から、主に以下の項目に関する改正の方向性等が提案されています。

・従業員や子会社役職員に対する株式無償交付制度。

・外国会社を買収する際に自社株式対価M&Aを活用する制度。

・社債権者集会の機動性を高めるためのバーチャル化。

・取締役・執行役への責任限定契約締結を可能に。

・指名委員会等設置会社の指名・報酬の最終決定権限の変更。

・実質株主に関する開示請求権制度を創設。

・会社法上もバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とし、定款変更、確認手続を不要とする。

私的には、いずれも実務に影響が及ぶ事項ばかりと考えます。研究会は今後も毎月開催され、本年3月を目途に、コーポレートガバナンス改革の在り方に関する報告書を取りまとめる予定だそうです。また別エントリーでも詳しく述べますが、会社法と金商法の交錯問題にも関係ある論点が含まれていることから、法務省と金融庁との垣根が少し低くなったように思います(平成26年改正の際、公開買付規制違反株主に対する議決権行使停止という「幻の改正法案」がありましたね。なぜ内閣法制局の審査が通らなかったのか未だにナゾですが)。そうなると、今後さらに「株主総会前の有報提出」「計算書類と財務諸表の一元化」といった大きな変化にもつながるかもしれません(あくまでも私の勝手な推測です)。

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コメント

山口先生、いつも勉強になる投稿をありがとうございます。
今回の会社法改正は実務担当者としても大変注目していまして、

■ 実質株主に関する開示請求権制度を創設。
・アクティビスト全盛の時代、実質株主判明調査にかかる負担は重く、法律を後ろ盾にして調査コストを軽減できるなら大変ありがたいと思います。また、この調査の品質を売りにしてきた調査会社が今後、どう付加価値を付けていくのかも期待しているところです。

■ 会社法上もバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とし、定款変更、確認手続を不要とする。
・当方は創業100年を超えるメーカーに勤務しており、株主の年齢層も相対的に高齢者が多く「バーチャル」に対する抵抗感は強いと想像します。いきなりバーチャルオンリーではなく、パブリックビューイングのような形でリアル会場も残す(発言権はなく、本当にただ見るだけ。あとは株主懇談会などを行うかどうか)ことでハレーションも避けられるのではないか...などと考えています。法律がどう実装されるか不明ですが、当日の議決権行使を想定した厳密な会場設営よりも、「バーチャルオンリー+パブリックビューイング形式」のほうが当日にかかる事務負担が軽減されると判断できるような規制になれば、有力な選択肢になるのではないかと想像しています。

以上、とりとめのないコメントで失礼しました。

投稿: てふ | 2025年2月 4日 (火) 08時40分

てふさん、ご紹介ありがとうございます。
「バーチャルオンリーの一歩手前」の総会はかなり増えたように感じています。コロナ禍での「なるべく来ないでください」総会もなつかしく感じますね。
ご指摘の2点は連動しているものと考えておりまして、会社はむしろ積極的に(把握しやすくなった)実質株主と普段から対話をして、その通信簿(対話の結果集計)が株主総会、といったイメージを持っています。

投稿: toshi | 2025年2月 4日 (火) 10時37分

昨日の鈴木大臣の会見によると、2月10日には法制審に会社法改正を諮問するそうです。いよいよ動き出しますね。

投稿: ともいき | 2025年2月 5日 (水) 08時50分

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