みずほ銀行貸金庫窃盗事件の発覚にみる「不正予防」のむずかしさ
各メディアが報じているとおり、三菱UFJ銀行に続き、みずほ銀行でも貸金庫窃盗事件が発生していたことが判明しました(朝日新聞ニュースはこちら)。日経ニュース(Think)にコメントをしたところ「いいね!」が200件ほど付きましたので、この問題をブログでも少し触れておきたいと思います。
上記朝日新聞ニュースによると、みずほ銀行の事件は三菱UFJ銀行の事件よりも前(2019年ころ)に発生して、処分も済ませていたとのことで公表もされなかったそうです。公表されなかった理由としては「被害の訴えをいただいたお客さまと個別に協議し、解決していたことも踏まえ公表は実施していなかった」とのこと。おそらく金融庁にも報告はしているので、金融庁とも相談の上で公表は差し控える、と判断したものと思います(なお、報道では「なぜ警察に届けなかったのか」との疑問を投げかけるものもありますが、そこは被害者の方が貸金庫に現金を保管していた理由とも関係するところなので「大人の事情」としか言いようがないのかもしれません)。
ただ金融機関の絡む事件としては(たとえ被害金額が数千万程度だったとしても)信用を裏切る重大な犯罪行為であり、かりに公表して、これがメディアで報道されていれば、(手口についても類似していることから)その後の三菱UFJにおける貸金庫事件がおそらく発生していなかったと思います。つまり、貸金庫事件の被害拡大は防げた、ということになります。三菱UFJの貸金庫責任者だった容疑者(元行員)も「不正はバレる」と考えたでしょうし、なによりも三菱UFJも(みずほの事件を受けて)性善説ではなく性悪説に立った不正予防策を執っていたはずだからです。
そう考えると、このような不正事件の発生事実は「金融機関における共有資産」として公表すべきだったと思います。私は2015年の神戸製鋼品質偽装事件のころからずっと「不祥事予防はむずかしい、もし予防したいのであれば他社との連携が不可欠」と言い続けてきましたが(たとえば東洋紡の品質不正事案を扱ったこちらのエントリーの後半部分をご参照ください)、今回もみずほ銀行の事件が共有されていれば、他の金融機関の不正予防効果が高かったと考えます。不正防止に向けた他社との連携まではできない、とおっしゃるのであれば、(不正は当社でもかならず起きると考えて)早期発見・早期是正型の不祥事対策を優先させるべきです。
昨年大きな話題となった損保大手4社のカルテル、個人情報漏えい、過剰な便宜供与問題ですが、生保業界も含めて「不正予防策」が検討されています。顧客からの信用が重要な業界なので、どうしても不正予防型重視の対策が必要です。したがって業界団体による対策も行われていますが、なんといっても重要な対策が兼業代理店、大規模代理店の営業規制という保険業法改正による「商慣行の廃止」です。つまり、どんなに保険会社が「二度とやりません」と言っても不正はやってしまうのです。本当に予防したいのであれば、当局の力を借りたうえで(法改正)、さらに代理店の営業にまで制限をかけなければ(つまり代理店との協働を得なければ)不可能であることがおわかりいただけると思います。
不祥事発生時の再発防止策には立派な不正予防型の文言が並びますが、そこに他社も巻き込んだ再発防止策がなければ不正は繰り返されます。その現実を冷徹に見極める社長さんは、きちんと早期発見・早期是正型を重視した対策を公表します。
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コメント
ご指摘のとおり、みずほ銀行の対応もフジテレビと同様、「被害者のことを考慮・・・」という言い訳の明らかな隠蔽工作ですね。私見ですが、完全な不正予防策はあり得ないと考えます。社員等の悪意のあるなしは誰も事前に察知できませんから。予防の前に『不祥事の開示徹底』が経営責任者に求められることではないでしょうか。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年2月19日 (水) 11時16分