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2025年4月22日 (火)

八十二銀行のアクティビストに対する「利益供与疑惑」について

独占スクープなのでダイヤモンドオンラインだけが報じていますが(4月21日付け有料記事はこちらです)、長野県の地方銀行である八十二銀行(東証プライム)が、昨年6月の定時株主総会で株主提案を行ったアクティビストファンドに対し、総会直後に投資を持ち掛けていたことが判明した、とのこと。会社法で禁じられた「利益供与」に当たる可能性があるとファンド側(リム・アドバイザーズ)は問題視し、今年6月開催予定の株主総会で、情報開示を求める株主提案を出したそうです。

上記ダイヤモンドの記事では2024年7月、八十二銀行の金融市場部証券投資グループからリム側に「関心を持っている」旨の連絡が証券会社経由であり、八十二銀行の投資受け入れを前提とした資料提供やコミュニケーションをリム側に求めたと報じられています。昨年6月の総会では、当該アクティビストは政策保有株式の解消に関する定款変更議案や剰余金処分議案などの株主提案をしていました(いずれも否決)。その直後に当該アクティビストの運営するファンドに対して投資を検討している旨を伝えたそうです(アクティビスト側は、利益供与疑惑が生じることから、直ちに拒絶したそうです)。なお、22日深夜時点では、本件に関する八十二銀行側からの開示情報はありません。

もし上記記事で報じられているところが事実であるならば、たしかに八十二銀行にとっては「利益供与疑惑」が生じている、と言われても不思議ではないと思います。記事中で牛島総合法律事務所の弁護士の方が指摘しておられるように、会社法120条1項違反の可能性だけでなく、ガバナンス・コード原則4-5(上場会社の取締役・監査役および経営陣は株主に対する受託者責任を認識し、会社や株主共同の利益のために行動すべきである、との規程)の趣旨にも反することになりかねません。

もちろん「利益供与」が実際になされていなければ会社法120条、同970条違反による法的効果は発生しません。しかし、利益を供与される側は「要求する」だけで同970条違反による刑事罰を科される可能性がありますので、(そのような可能性を払拭するためにも)八十二銀行側から申出があったことを明らかにしてもらいたいところです。近時、投資家と企業とのエンゲージメントが推奨されていますので、イレギュラーな形での対話が問題となれば投資家側が総会で情報開示を求めるのも当然かと。

本当に記事のような事実があったのか、私個人としては半信半疑ではありますが、仮に事実だとすると重大な問題を含むものと思いますので、八十二銀行としては、外部有識者による調査委員会を設置して、なぜこのような事態になったのか、説明責任を果たすべきと思いますが、いかがなものでしょうか。

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2025年4月16日 (水)

公益通報者保護法・改正法案の実質審議が始まりましたね

4月15日、衆議院で「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の実質審議が始まりました(NHKニュースはこちらです。なお、衆議院の議案審議経過情報はこちらです)。このまま廃案になるのでは?と心配しておりましたが、ようやく一歩前進です。

ビジネス法務関連では重要とされる下請法改正法案の実質審議が4月11日から始まりましたので、遅れること4日です。伊東大臣、そして衆参両議院の消費者問題特別委員会の議員の皆様、なんとか可決成立に向けてご尽力いただきますよう、お願いいたします。<(_ _)>ちなみに今国会の会期は6月22日までですね。

 

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2025年4月14日 (月)

「株主と対話する企業」12年ぶりの「第2版」発売

東証の企業行動規範の改訂といえば少数株主保護を強化したMBO指針の改訂が話題になっていますが、4月10日の日経ニュース「IR体制整備急ぐ上場企業 東証新ルール、負担増に懸念も」で報じられたIR部署、IR担当者の義務付けに関する規程の新設も話題になりそうです。

Img_20250412_212300_512 いずれも機関投資家がスチュワードシップ・コードに基づく責任を果たすことを後押しするための改訂ですが、MBO指針改訂とは異なり、IR担当者の義務付けは上場企業全体に関わる改訂であり、大規模上場企業にとっては「何をいまさら」ということかもしれませんが、中小上場企業にとってはかなりインパクトが大きいのではないでしょうか。

フジテレビの第三者委員会の仕事が終わったらぜひ読みたいと思っていたのが「株主と対話する企業(第2版)-「対話」による企業価値創造と大競争時代のIR・SR」(三菱UFJ信託銀行コンサルティング部/証券代行部 日本シェアホールダーサービス編著 商事法務 2,800円税別)でして、一気に読了いたしました。そこそこ理解していたことの確認という意味で読み始めたのですが「新たな気づき」とか「これは勉強不足」と反省するところもあり、とても有益でした。エンゲージメント(対話)の重要性が語られる中での機関投資家側の課題(問題点)にも触れられています。

日頃から大手機関投資家と接しておられるIRアドバイザー企業のご担当者の皆様が、専門領域の視点から「企業統治改革の現在地」を解説しておられ、近時のコーポレートガバナンスに関心のある方には必読の一冊と思います。なんといっても初版から12年ぶりの「第2版」ということもあり、初版とはご執筆者も違いますし、取り上げるテーマも異なるわけでして、まさにIR部署、IR担当者が義務付けられる時代には上場企業の経営者こそ理解しておくべきテーマがてんこ盛りとなっております。帯には「アクティビズム」「サステナビリティ」などのキーワードが並んでおりますが、「資本コストを意識した経営とは何か」といった根源的なところから実務上の理解が進む点に特長があります。

私自身の感想としては「アクティビストから株式を大量保有されてしまった、どうしよう」と悩む前に、アクティビストが株式を保有する「旨味のない会社」になるための参考書としてお読みいただくほうが良いのではないか、と思いました。

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2025年4月10日 (木)

FMH・CXの第三者委員会報告書-日本監査役協会のご意見をお聞きしたい

じぶんごとで恐縮ですが、3月31日に公表されたFMH・CX第三者委員会報告書に対して、4月8日に日本取締役協会は声明を出されています(声明文はこちらです)。9日の毎日新聞ニュースでも取り上げられています。

私も委員を務めていた第三者委員会としては、FMH・CXの監査制度(監査等委員会、監査役制度)の仕組み及び運用に問題があるのではないか、との意見を公表版240頁以下で4点指摘をしましたが、日本取締役協会の声明の中でも「親会社と子会社における監査機能の独立性の確保」が課題であるとの指摘がなされ、さらには「再発を防止するために、最高監査責任者(CAE:Chief Audit Executive)の新設、内部監査部門から経営陣と監査等委員会の双方に対する二重の報告ライン(dual reporting line)の確立」が必要とされています。報告書が指摘した問題点に共感いただいたことは光栄に存じますが、なによりも「最高監査責任者の新設」にまで踏み込んだ提案をされたことには驚きました。

さて、日本監査役協会においても、なんらかの意見を出していただけないでしょうか。とりわけ第三者委員会が問題視しているところの①親会社監査等委員会と子会社監査役との「自己監査」に関する論点、②子会社に監査役会が存在しない場合の各監査役の役割分担(監査役会が存在しない状態で、各監査役による業務監査の分担によって注意義務は軽減されるか-たとえば社外監査役に信頼の原則の適用はあるか)の論点、そして③取締役としては、いつから人権リスクを意識した有事対応が求められるのか(有事における取締役職務に対する監視・検証)の論点についてはオフィシャルな協会の意見をぜひともお聞きしたいところです。

日本監査役協会の記念すべき第100回全国会議は「監査役等に求められる次世代の視点~AIの可能性とその活用」をテーマとして4月11日に開催されます。関係者の皆様はそちらへお忙しい時期かとは存じますが、多くの方がフジテレビのガバナンス上の課題について議論をしている中で、監査役協会さんにも監査制度を支える専門職団体としての有益なご意見を期待いたします。

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2025年4月 8日 (火)

公益通報者保護法の改正法案どうなる?(廃案のピンチ?)

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4月7日の朝日新聞ニュース(こちらです)によりますと、ホンダの副社長さんが「業務時間外の懇親の場における不適切行為」によって辞任されたそうです。どのような状況だったかはわかりませんが、フジテレビと同様に「業務の延長線上」の不適切行為だったのでしょうか。刑事告訴がなされていた事態なので、重大な人権侵害があったのかもしれません。

さて、兵庫県知事文書問題に関する第三者委員会報告書が3月17日に公表されましたが、その判断過程ならびに結論においては、当職が百条委員会の参考人として述べたところとほぼ同じものでした。その節にたいへんお世話になった参考書のひとつが中野真弁護士による「公益通報者保護法に基づく事業者等の義務への実務対応」なる書籍でした。そして、2月末ではありますが、公益通報者保護法に見直しや内部通報対応に関する近時の議論等を踏まえて大幅刷新された「第2版」が発売されました。もちろんお勧めの一冊であります。

ところで中野弁護士も注目している(3月4日に国会へ提出された)公益通報者保護法の改正法案ですが、その後全く進展がみられません。某情報筋によると1週間遅れで提出された下請法の改正法案(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案)のほうが先に実質審議にかかる、ということのようで(まぁ、国の経済政策への影響力という意味では当然かもしれませんが)、ちょっと心配しております。

参議院選挙のために通常国会の会期延長は見込めず、このままだと廃案の可能性もありそうです。消費者庁の情熱のもとで(検討会委員としても頑張りまして)やっと改正法案が作られたのですが、与党・野党の後押しがないと、ここから先に進めません(公益通報者保護法の改正法案成立は選挙にあまり関係ない?)。今回、廃案になってしまいますと「次はもうない」ということになりかねません。ぜひぜひ、議員の皆様になんとか国会審議を進めていただけますよう、切にお願いいたします。

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2025年4月 1日 (火)

フジ・メディア・ホールディングスが第三者委員会報告書を公表しました。

3月4日にフジ・メディア・ホールディングスの第三者委員会委員に就任して以来、すっかりご無沙汰しておりました。兵庫県知事の文書問題にかかる第三者委員会報告書という画期的な(今後おおいに実務の参考になるであろう)報告書が公表されていましたが、なんらコメントも残すこともできませんでした。近々、この第三者委員会報告書については当ブログでも解説したいと思います。

さて、報道のとおり、当職が委員を務めておりましたフジ・メディア・ホールディングスの第三者委員会報告書が公表されました。しかし、この公表方法は誠実とは言い難いですね。普通は「公表版」「公表版別冊」「要約版」と分けて開示するでしょう。この公表方法だと、せっかく要約版を作ったのに要約版の存在を知ることが困難です。(>_<)

私は2時間の会見でひとことしか発言しておりませんでしたが、やはり注目の会見とあって緊張しておりました。調査の中身についてはここでは述べませんが、本日発表された「女性A」さんの(代理人を通じた)コメントを聞き、「調査の中立性・公正性を貫くことで、N氏側にも、女性A氏側にも納得できない内容が含まれることになるけれど、ただこの報告書の公表が二次被害を発生させることだけは避けたい」といった気持ちでしたので、(ほんの少しですが)解放された気分であります。

とりあえず少しお休みをいただいて、またブログを再開いたしますので、引き続きどうかよろしくお願いします。

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