FMH・CXの第三者委員会報告書-日本監査役協会のご意見をお聞きしたい
じぶんごとで恐縮ですが、3月31日に公表されたFMH・CX第三者委員会報告書に対して、4月8日に日本取締役協会は声明を出されています(声明文はこちらです)。9日の毎日新聞ニュースでも取り上げられています。
私も委員を務めていた第三者委員会としては、FMH・CXの監査制度(監査等委員会、監査役制度)の仕組み及び運用に問題があるのではないか、との意見を公表版240頁以下で4点指摘をしましたが、日本取締役協会の声明の中でも「親会社と子会社における監査機能の独立性の確保」が課題であるとの指摘がなされ、さらには「再発を防止するために、最高監査責任者(CAE:Chief Audit Executive)の新設、内部監査部門から経営陣と監査等委員会の双方に対する二重の報告ライン(dual reporting line)の確立」が必要とされています。報告書が指摘した問題点に共感いただいたことは光栄に存じますが、なによりも「最高監査責任者の新設」にまで踏み込んだ提案をされたことには驚きました。
さて、日本監査役協会においても、なんらかの意見を出していただけないでしょうか。とりわけ第三者委員会が問題視しているところの①親会社監査等委員会と子会社監査役との「自己監査」に関する論点、②子会社に監査役会が存在しない場合の各監査役の役割分担(監査役会が存在しない状態で、各監査役による業務監査の分担によって注意義務は軽減されるか-たとえば社外監査役に信頼の原則の適用はあるか)の論点、そして③取締役としては、いつから人権リスクを意識した有事対応が求められるのか(有事における取締役職務に対する監視・検証)の論点についてはオフィシャルな協会の意見をぜひともお聞きしたいところです。
日本監査役協会の記念すべき第100回全国会議は「監査役等に求められる次世代の視点~AIの可能性とその活用」をテーマとして4月11日に開催されます。関係者の皆様はそちらへお忙しい時期かとは存じますが、多くの方がフジテレビのガバナンス上の課題について議論をしている中で、監査役協会さんにも監査制度を支える専門職団体としての有益なご意見を期待いたします。
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コメント
いつも勉強させていただいております。
山口先生のご要望、凄く全うと考えます。
小生は、逆に日本取締役協会の声明に驚きました。山口先生のご指摘のとおり、ここまで一企業に組織体制まで突っ込んだ声明を出せるものなのかというどちらかと言えば疑問視しております。株主等であれば理解できるのですが、協会の立場はステークホルダー側と言えるのか?そのことから察するに日本監査役協会はFMH・CXの第三者委員会の調査報告書に関してのみに意見は出せないと考慮しているのかと憶測します。私事ですが監査等委員の時期に取締役の関与した不祥事が発生し、日本監査役協会の会員でもあったので当時の協会および会長宛に相談と声明を依頼しましたが、回答が無かったことがありました。部会等で事例研究等は常時開催されておりますが、あくまで他山の石であり、監査役という役職の共闘という支えではないように思えます。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年4月16日 (水) 16時11分
日本では、欧米と異なり、金融商品取引法の許認可企業や東証上場企業を除けば、内部監査部門やCAE(最高監査責任者)の設置が法的に義務付けられておらず、特に非上場企業においては、専任の内部監査部門長どころか、内部監査担当者すら不在である現実があります。
この制度的な空白は、会社法や金融商品取引法において内部監査の設置義務が明文化されていないこと、さらには国交省や厚労省、経産省など業法を所管する省庁においても、内部統制や監査の重要性が形式的にしか扱われてこなかったことに起因します。そのため、今日においても多くの企業では、総務部や経理部が内部監査を“兼務”するだけで済まされており、独立性や専門性を欠いた脆弱な統制環境が放置されています。
加えて、制度の要となるべき日本内部監査協会(IIA Japan)も、IIA本部の国際基準をそのまま受け売りするにとどまり、内部監査の社会的地位向上や制度的支援に対して積極的な政策提言を行ってこなかったという深刻な問題を抱えています。民間企業の監査文化が根付かない背景には、こうした専門団体の無策・沈黙も少なからず影響していると言わざるを得ません。
また、我が国の「監査の最高機関」であるはずの会計検査院も、予算執行の事後チェックにとどまり、政策効果や内部統制の実効性評価など、欧米のGAO(米国政府監査院)やNAO(英国会計検査院)に見られるような先進的機能をほとんど果たしていません。官民ともに内部監査の重要性に関する“本気度”が著しく低いというのが日本の現実です。
こうした中で、日本取締役協会が示した「CAEの新設」および「dual reporting line(二重報告体制)」の提言は、ようやく制度的な構造改革に踏み込んだものであり、高く評価すべきものです。FMH・CXの事案はその象徴であり、これを機に日本の監査文化と制度設計の本質的な見直しが急務と考えます。
監査役協会におかれても、会員向けの事例研究や会報にとどまらず、制度改正に向けた具体的な提言を国に発信する責務があるのではないでしょうか。企業の不祥事が繰り返されるたびに「再発防止策」の名のもとに末端現場ばかりが疲弊する構造を改め、制度として内部監査機能の地位と人材を確立することが、今後の企業統治の要であると強く申し上げたいと思います。
投稿: たか | 2025年4月19日 (土) 23時57分
たか様、
貴重なご意見拝読しました。制度については多々課題があり、種々協会の改善すべき対応、記載いただいた通りと考えます。
小生が社外取締役監査等委員従事中に発生した企業不祥事への対応後、ある協会の事例研究会に呼ばれ監査等委員当事者としての対応を発表させていただいた機会がありました。発表後、聴講されていた監査役等の方々から①「法や制度として監査等委員としてやるべき職務に不都合はありませんでしたか?」➁「『あの時こうすればよかった』ということがあれば…」という質問がありました。その時の小生の回答は「①現行の法や制度の下、監査等委員としての職責を精一杯果たした。➁よってやり残したことはない」と回答しました。法や制度について会社法・金商法・会計基準等の基本中の基本をベースとして経営者が内部牽制等を重要視して可視化等をすべきことは非上場会社でもまだまだ沢山あると考えます。経営者(取締役・監査役等)はもっと自社および自分を律して職責を全うしてもらいたいものです。
投稿: コンプライアンスの番人 | 2025年4月21日 (月) 10時11分