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2025年6月27日 (金)

法律実務家のための「コンプライアンスと危機管理の基礎知識」(新刊書のご紹介)

Img_20250626_185536487_hdr_512 有斐閣から法律実務家向けの新しい「基礎知識シリーズ」の本が出版されまして、その第一弾が「法律実務家のためのコンプライアンスと危機管理の基礎知識」です。はしがきには「本書が想定する読者層は、弁護士などの法曹や企業において法務・コンプライアンスに関わる役職員など、企業不祥事に対応する法律実務家である」と記載されています。

現在、某研究会でご一緒している西村あさひの木目田弁護士よりご献本いただきました(どうもありがとうございます)。木目田弁護士が総論執筆・監修、西村あさひの危機管理グループの皆様が各論執筆ということで、基礎知識を押さえるにあたってはとても充実した内容です。西村あさひの先生方による危機管理マニュアルといえば、大作「危機管理法大全」が存在しますが、こちらの「基礎知識」は、全体をコンパクトに解説した内容と言えるでしょう。ただ、コンパクトといっても①「不祥事対応」に必要な各論テーマ(ほぼ網羅されている)には十分な解説が付されており、②引用されている政府指針やガイドラインなども最新版が紹介されており、さらに③最近の裁判例なども掲載されていて、とても重宝します。さっそく、現在担当している事例について「公表の要否判断」などを参考に、経営陣の方々に説明しようと考えています。

これは個人的な好みの問題ですが、各論部分に「環境法コンプライアンス」と「薬機法」についても触れていただけるとありがたいなぁと思いました。環境法コンプライアンスについては同じ有斐閣の「実務に効く(シリーズ)」で西村あさひの平尾弁護士の執筆部分がとても参考になっているので(環境規制の領域における行政処分と刑事罰との関係性からみて、起訴猶予を目指す必要あり、等)、そのあたりの記述とか、薬機法と景表法、不競法との整理とか、けっこう実務家にとっても分かりづらい「基礎知識」ではないかと思います。

今後出版されるシリーズも、ほぼ企業法務に近いテーマだと思いますので、続編も期待をいたします。

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2025年6月26日 (木)

これはビックリ(@_@;)!太陽HD、再任否決の前社長が上席専務執行役員で残留?(追記あり)

一昨日アップしている「AGPへの海外ファンドTOBとJAL、ANAの拒絶方針」にtyさんからコメントを頂戴しております。私がモノが言えないところをフォローしていただいておりまして、ご興味がございましたらぜひコメント欄を閲覧していただければと。

さて、今年の株主総会の話題として、ホギメディカル社、栄研化学社等、今年も株主提案が可決されるケースが出てきましたね。ただ、これは単に「大株主が会社に勝利した」と結論だけから判断するのではなく、当該結論に至るまでのアクティビストと会社とのエンゲージメントについて「時間軸に沿った経緯」を詳細に分析把握して、そのプロセスを学ぶ(仮説を立てて検証する)ほうが教訓になるような気がしております(そのあたりは別途エントリーにて解説できればと)。

6月26日追記:東京コスモス電機社でも会社側取締役候補者全員が否決、アクティビスト側取締役候補者全員が選任、という結果になりました。この事例においても、総会を迎えるまでのアクティビスト側の尽力、アクティビスト代表者の覚悟の賜物によるものだと思います。(追記ここまで)

また、株主の意思が総会決議に反映された事例として、大株主が「社長の再任NO」を突き付けて代表取締役社長の交代を余儀なくされた太陽ホールディングス社事案が興味深いです。その結論から、日本の証券市場における「アクティビズム抬頭の象徴例」と評されています(たとえば四季報オンラインニュースはこちら)。ただ、太陽ホールディングス社において、なんと前社長さんが取締役会において「上席専務執行役員」に選定されたそうです(これはビックリです)。大株主の方々は、前社長の業務執行に疑問を投げかけて再任を拒否したわけですから、この大株主の意思に太陽ホールディングスの取締役会は真っ向から反対したものと思われます。たとえばブルームバーグニュースは以下のように報じています。

一方で、新たな火種となりそうなのが、S氏が代表権を持たない上席専務執行役員として経営に関与し続ける点だ。大和総研の鈴木氏は一般論として、株主総会で否決された人物を執行部に残すことは、株主の意向に反し「道義的に大問題」だと指摘する。過去には、フジテックで株主総会直前に取締役再任案を撤回し、退任した社長を会長に登用した際、是認した社外取締役らに批判が集中した。

これを創業家やアクティビストを含めた大株主の方々はどうみるのか・・・。なにもしなければ「株主資本主義もアクティビズムこの程度のもの」と考える人が出てくるでしょうし、今後同様の対応に出る上場会社も増えてくるように思います。とりわけ「独立社外取締役など、何人いても変わらない」と評価されても良いのでしょうかね。

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2025年6月24日 (火)

AGPへの海外ファンドTOBとJAL、ANAの拒絶方針

1974年から翌75年にかけて、過激派の「東アジア反日武装戦線」が起こした11件の連続爆弾事件の共犯者桐島聡の人生を描く映画「桐島です」がもうすぐ上映されます。彼がなぜ亡くなる直前に「桐島」と本名を名乗ったのか。一部マニアの間では有名だった藤沢市のアパートで、彼は何を思いながら70歳まで暮らしていたのか。死を悟る病室で、最後になぜ「ガリガリ君」を食べたいと看護師に切願したのか。少しでもヒントになるものがわかるのではないかと期待しながら視聴するつもりです。

さて、6月20日、空港における電力供給事業を営むエージーピー(AGP)が、オーストラリア金融大手マッコーリー・グループなどが運用するファンドから1株2015円で株式公開買い付け(TOB)を行う意向があるとの提案書を受領したと公表しました。これに対して本日(23日)、株式併合に関する株主提案を行っているJAL社はこれに応じないと表明、JALの提案に賛同意向を表明しているANA社も、本日夕方、TOBには応じない旨を表明したそうです。ちなみにJALによる株式併合後に少数株主に支払う買収価格は1550円です。

AGPの本源的価値は2015円なのか1550円なのか。ご承知のとおり、私はAGPのガバナンス検証委員会委員長として、本件に関わりましたので個人的なコメントは控えますが、どのような結論に至ったとしても、少数株主排除の妥当性について議論されることになるでしょうし、(今後の法改正があるならば)立法事実のひとつとして長く語られる事例になるのではないでしょうか。「羽田村の常識VS証券市場の常識の乖離」というところが報告書から切り取られて報じられることが多いのですが、今回の豪州ファンドによるTOB意向表明によって、ますます問題の根の深さが浮き彫りになるのではないかと。自分としては中立公正な立場で真摯に検討してよかった、と思っております。

 

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2025年6月20日 (金)

投資家が監査役会(監査等委員会)の活動開示として期待すること

先日、いわき信用組合の不適切融資案件について「不正を黙認していた者が監査役に就任していた」と書きましたが、たまたま本日読んでいたカナデビア(旧日立造船)社の船舶エンジンのデータ偽装に関する特別調査委員会報告書(2025年3月25日)でも、データ不正を認識していた役員が常勤監査役に就任していた、との記述に触れました。これでは監査役員が不正防止になんらの役割も果たせないわけで、そもそも監査役員の社内における地位が低いのではないか(監査が軽んじられているのではないか)との疑念を抱いてしまいます。

さて、記述情報の開示の好事例集2024 金融庁 2025年2月3日公表「有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況等ほかの開示例」(7.「監査の状況」の開示例)では、以下のような投資家が開示を期待している監査役会活動についての記述があります。

投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイント:監査の状況として、
①重点監査項目を列挙することも有用だが、重点監査項目に対する監査結果や監査役会等の認識を記載することはより有用

②監査役監査や内部監査体制の強化のために行っている取組みや、監査人の評価について具体的に開示することは有用

③監査の状況では、監査上の主要な検討事項(KAM)の記載に特に注目しているため、会計上の主要な論点が何か、KAMについての監査役等の検討内容等について具体的に開示することは有用

私個人としては、この②に関する内容はぜひ開示していただきたい。監査役会(監査等委員会)が主体的に活動していることがとても重要と思います。前にも書きましたが、監査役の活動状況に虚偽記載があったとして課徴金の対象になった事例もありましたので、ぜひ制度開示の対象にしてほしいです。もちろん好事例集にあるように、開示に積極的な上場会社もありますが、同業他社の比較ができるように、ぜひ全ての上場会社が「監査役会(監査等委員会)の活動状況」として上記記述内容を開示対象にしてほしいですね。社内で監査役会の地位を向上させようとしても限界がありますので、ぜひ外圧を活用して監査役員の地位を向上させてほしいものです。

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2025年6月18日 (水)

日本郵政グループの内部通報制度-何がマズかったのか?(個人的意見)

国土交通省の監査を受け、トラックなど運送事業の許可を取り消されることになった日本郵政グループ内の日本郵便ですが、この不祥事だけでなく、日本郵政グループでは不適切営業など、次々と大きな不祥事が発覚しています。そして、そのたびに内部通報制度が機能しなかったことも報じられています。もちろん外部窓口だけの責任とは思いませんが、たとえば今年4月30日の「日本郵政、内部通報の窓口刷新『鳴らない警鐘』改善?委託先3分割」、そして本日(6月17日)の「不適切点呼、3年前に内部通報『違反ない』対策取らず 日本郵便」「届かなかった内部通報『カメラ映像見てくれれば』郵便局の点呼問題」など、ため息が出てしまいます。

私も2021年9月のエントリー「日本郵政の新しい内部通報制度-社外調査チームの陣容がスゴイ」で東京の著名法律事務所による外部窓口体制を称賛しておりましたので、とても残念です。せっかく多くの予算をつぎ込んで内部通報制度を充実させたにもかかわらず、なぜ日本郵政グループは自浄作用を発揮できないのか。個人的な意見ではありますが、以下のとおり分析をしております。

まず一つ目として「全体に拡散していることへの想像力不足」が挙げられます。一つ一つの内部通報には真摯に対処していたとしても、その個別案件の解決だけに注力していて、「この不祥事は組織全体で起きているのではないか」といった疑惑から類似案件調査に及ばなかったケースです。外部窓口担当者と経営陣との連携がなければ類似案件調査にまでは発展しないのかもしれません。

二つ目が「当該通報案件に対する社会的影響力への想像力不足」です。長年、その組織で「悪しき慣行」として発生している不正については、悪質性を感じる意識が社内で鈍麻しており、世間で報じられた際には「こんなに大きな問題なの?」「なぜ大きく報じられてしまうの?」とギャップを感じてしまうケースです。とくに公表するほどの不祥事ではない・・・と「平時バイアス」に押し切られてしまうタイプの事例ですね。

そして最後が外部窓口担当者の独立性に問題があるケースです。日本郵政グループのケースでは、窓口担当事務所が内部通報以外にも調査案件を担当していたそうですから、中立公正性が維持できなかったのではないかと危惧します。もちろん当事者から見れば「独立公正な立場で職務を全うしていた」と考えておられると思いますが、これも評価は難しいですね。上記一つ目や二つ目のような場面に遭遇した際に、経営陣に調査の重要性をきちんと述べることができるかどうか。

最近の企業不祥事をみていて、いかに早く経営陣に有事意識を持ってもらえるか・・・、ここに危機管理の成否に関する分かれ目があると思っております。ちなみに私が外部窓口を担当している企業では、(どこも社外役員が増えていますので)すぐに社外取締役さんのところに連絡をして、危機意識を共有していただくようにしています。経営執行部からは嫌がられることがありますが、結構まじめに動いてくれる社外取締役さんが多いので、窓口担当者としてはありがたい存在です。

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2025年6月12日 (木)

株主総会の争点にAIリスク-「人権」よりも「宗教」(と思う)

6月11日の日経ニュースにおいて「株主総会の争点にAIリスク バークシャーで監督委員会提案、日本に波及も」との見出し記事が掲載されています。上場企業の経営陣に人工知能(AI)のリスク監視を求める株主提案が米国で広がり始めた、とのことで、当該株主提案には、通常のESG提案の倍近くの賛成票が集まる傾向にあるそうです。議決権行使助言会社の米グラスルイスも、今年1月以降、日本企業の株主総会にAI関連の指針を適用しているようで「監督や管理が不十分なため株主に損害を与えたと明確に判断されれば、取締役の選任に反対助言することがある」とのこと。

「今後は日本企業にも波及し、AI統治の体制整備への関心が高まりそうだ」と報じられていますが、私も同感です。先日ご紹介させていただきましたが、日弁連「自由と正義」最新号(2025年5月号)に掲載された拙稿「実務法曹が社外取締役として活躍する環境について考える」でも、私は「ガバナンスは攻めと守りを一体で考えなければいけない理由」として、インオーガニック戦略、オーガニック戦略、ファイナンスと並んで、この「AI投資(AI規制)」を掲げました。

(以下はまったくの個人的意見ですが)機関投資家の方々(海外)の仕事に携わるなかで、人権は政治との距離が近いけれども、AI規制は宗教との距離が近いのではないか、単純にAIの弊害を(プライバシー権や名誉権等の)人権問題と狭く捉えることはマズイのではないかと考えるに至っております(AI投資への監視団体に集まる寄付金の大きさが半端じゃないように思えるのです)。AI倫理という問題を超えて、そもそも宗教的教義をAIが解釈するということは神を否定することにつながるのではないかと。AIの社会実装化がものすごいスピードで進む中、AIと聞いて「人権」とか「倫理」という言葉は想定できても「宗教」という言葉は想像つかないのかもしれませんね。

そういえば昨年6月18日の日経ニュース「牧師もブッダもAI『生成された神』に祈れるか」と題する記事でも、宗教界におけるAIへの拒絶反応が語られていました。宗教との関連性という意味では、日本企業にとって弱点であり、とりわけ外国人保有比率が高い上場企業においては痛い目に遭ってはじめて重大リスクに気づくのかもしれません。

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2025年6月11日 (水)

最近の公益通報関連の事件について(具体的事例)

おそらく今年後半の法律雑誌の特集も「改正公益通報者保護法」に関連するものがたくさん出てくると思うのですが、改正法の理解と並ぶほど重要なのが具体的事例のご紹介です。近時に事例紹介、みたいな論稿も、特集記事の中にあればいいなぁと思います。

兵庫県の内部告発文書問題では、公益通報対応体制整備義務が1号通報だけでなく、2号通報や3号通報にも適用される、という消費者庁の公式見解や第三者委員会の見解が話題になりました。経営者が監督官庁やマスコミへの(誰かによる)情報提供の事実を知ることが多いわけでして、そこで通報者探しが行われる、という事態にも遭遇します。

粉飾疑惑に揺れるオルツ社では、YouTube動画で著名な株主のもとへ社内情報が提供されて、証券取引等監視委員会の強制調査に至りました。上場前から粉飾決算が行われていたのではないか、との疑惑がありますが、最近はSNSを活用した外部への情報提供が多いですね。先日ご紹介したいわき信用組合の巨額不正融資事件もX(旧Twitter)への元信用組合職員による情報提供です。消費者庁のアンケートでも、20代、30代社員の多くは内部通報はせずに、正義感からSNSで拡散します、と回答した方が多いです。

広島県の災害復旧工事における補助金不正受給については、4年ほど前に職員が内部通報をしましたが、十分に調査もなされずに放置されていました。ここから先は推測ですが、おそらく(最近になって)中国新聞社に社員が外部公益通報を行い、世間が知るところとなり、広島県としても虚偽公文書作成の事実を認めざるを得なくなった、とのこと。なぜ広島県がきちんと内部通報に向き合わなかったのか、そこは明らかにすべきでしょうね。

和歌山県のハラスメント案件では、是正措置があまりにもまずかったために通報者保護が図られず、その結果として最悪の事態を招きました。つい最近、第三者委員会の報告書が出ましたが、公益通報への対応の拙さを指摘しています。その他、ここではご紹介しませんが、近時公表されているいくつかの調査委員会報告書でも、内部通報や外部公益通報が端緒となって不正が明るみになった事例に遭遇しました。

すべての事件に共通することは、対応しなければならない立場の人たち(ある事件は経営者、またある事件は窓口担当者やコンプライアンス室長)が「有事対応」が求められているにもかかわらず、「平時対応」しかなしえなかった、という点です。どうしても「平時対応でよい」と自分を安心させる(自分に言い聞かせる)理由ばかり探すのですよね。正常性バイアスは本当におそろしい。この平時バイアス、正常性バイアスをどう断ち切ることができるか・・・、リスクマネジメントを担当している方々にとって重要なポイントです。

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2025年6月 4日 (水)

(速報)令和7年改正公益通報者保護法(公益通報者保護法の一部を改正する法律案)が可決・成立しました!

さきほど、参議院本会議において公益通報者保護法の一部を改正する法律案(令和7年改正法)が賛成多数(232vs2)で可決成立しました。途中でいろいろありましたが、公益通報者保護制度検討会委員としては感無量です。参議院消費者問題特別委員会で決議された、とても長い「附帯決議」の内容はまだ確認しておりませんが、ともかく法案が成立してよかったです。

公益通報者保護法改正の優先度が高いと判断された国会議員の皆様、法改正の必要性を訴え続けてこられた消費者庁の審議官、参事官はじめ法改正スタッフの皆様方のご尽力にまずは敬意を表します。これからは1年6が月以内に改正法が施行されることを前提とした企業側の準備が必要ですね。ちなみに兵庫県知事内部告発文書問題で認知度が爆上がりとなった「法定指針」(内閣府告示)の実質的改訂はあるのでしょうかね?←指針の内容が法文化(格上げ?)された箇所がいくつかありますが・・・

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海外投資家はなぜ、日本に投資するのか-新刊書のご紹介

Img_20250603_213522_512 さて、5月に委員長を務めさせていただいたAGP社のガバナンス検証委員会で、委員をご一緒したワイズマン廣田綾子氏の新刊のご著書「海外投資家はなぜ、日本に投資するのか」を拝読いたしました(ワイズマン廣田綾子著 日経プレミアシリーズ 2025年5月初版 本体1,000円)。帯書はフジメディアホールディングスの大株主であるダルトン・インベストメンツのジェイミー・ローゼンワルド氏によるもので「日本の読者が、世界基準の考え方を知るために最適な入門書である」とのこと。

海外機関投資家が日本の上場企業をどうみているか・・・といった解説書はたくさんありますが、ほとんどすべてが「アクティビストからみた日本企業」に焦点を当てたものです(おそらく、そのほうが売れるのでしょうね)。しかしワイズマン廣田綾子氏は、いわゆるバリュー投資家のアジア担当責任者という立場なので、最初から長期保有を目的とした投資家の目線で語っておられます。また、企業価値に関連する解説書はガバナンスとファイナンスの専門家が別々のテーマとして執筆されるケースが多いと思いますが、80年代の米国市場からの歴史を綴るなかで、ファイナンス(株式や債券)とガバナンス(とくに取締役会の在り方や会社と株主との関係)が密接に関連していることを認識させてくれます。

では、なぜ米国のバリュー投資家が日本に投資をするのか?もちろん、その理由は本書をお読みいただけば理解できると思いますが、私がもっとも関心の高いテーマとして印象に残ったのは「日本市場及び日本企業の非効率性」ですね。日本の労働文化(働き方改革、人的資本と言われていますが)や情報開示の姿勢がまだまだ発展途上であり、成長余力は未知数であるものの、正当な価値評価がなされていない、いわゆる非効率性が目立つ企業や市場ルール、その他クローニー主義的な因習が残存している、とのことです。先日、斎藤ジン氏の「世界秩序が変わるとき-新自由主義からのゲームチェンジ」にも感銘を受けましたが、米国で長年活躍されてきた日本人ならではの感覚(多くの失敗経験から知見を磨いてきた感性)はとても興味深いものであります。バフェット氏がなにゆえ日本の5大商社の株式を均等に大量保有したのか、その理由についても本書を読んで納得しました。

ガバナンス検証委員会の具体的な協議内容についてはお話しできませんが、さすが40年も米国のバリュー投資家として「切った張った」の世界で生き抜いてこられただけあって、組織の問題点を見抜く洞察力の鋭さには感服いたしました。また、報告書作成にあたっては、東芝やSBIホールディングスの社外取締役も経験されてきた廣田氏の見解も大いに参考にさせていただきましたし、結論についての自信も湧いてきました。

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2025年6月 2日 (月)

第三者委員会史上最悪の不祥事?-いわき信用組合不適切融資

6月2日、いよいよ改正公益通報者保護法の審議も佳境に入り、参議院消費者問題特別委員会で法案が確定するのではないでしょうか。また衆議院同様、附帯決議の内容についても理解をしておきたいところです。ただ、いくら公益通報者保護法の実効性を向上させたとしても、社員がSNSでつぶやいたほうが不正発覚のためには有用ではないか、と(悲しいかな)思わせてしまう事件がまた大きく報じられています。いわき信用組合の不正融資事件ですね。

いや、これはホントにスゴイです。いわき信用組合が設置した第三者委員会の報告書は、口座偽造などによって不正融資を実行した総額が247億円に上るという驚愕(きょうがく)の内容でして、第三者委員会をして「調査過程でこれほどまでに重要な事実及び資料が隠されるということは、不祥事に伴う第三者委員会の調査実務でも前例のない状況と考えられる。」(同報告書39頁)と言わしめるほどであります。しかし、一体この組織のどのようなエネルギーがここまで調査妨害に走らせるのか、その動機が知りたいです。

過去に不正に手を染めた人たちが内部監査を担当し、過去から不正を熟知していたひとたちが長年監事(監査役)を務めていた、ということなので、再発防止策とかって、ホントに実践できるのでしょうかね?長年会計監査を担当して、ずっと「無限定適正意見」を出してきたEY新日本監査法人の監査に対する第三者委員会のコメントも(会計監査にご興味のある方には)必読ではないかと(たとえばこちらの読売新聞ニュースが参考になります)。巧妙な手口で信用組合からずっと騙され続けてきた(だから会計監査人も被害者です)、で済むのか済まないのか。

なお、私が拙ブログで申し上げたいことは、以下の2点です。ひとつは不正融資の発覚経緯です。X(旧Twitter)に元社員という人が書き込んで、これが拡散したことで発覚しました。30代までの人たちは「不正を知ったら公益通報などせずに、SNSに書き込みます」とする割合がとても高い。これが現実です。「黙って言われたことだけやってればいいんや!」と言われた30代の社員は、「ほな、辞めますわ」の後にこのような選択に至りますよね。

そしてもうひとつは、いわき信用組合の社会貢献です。地方創生に向けて、クラウドファンディング等にも積極的に取り組んでいたのですね。たとえばこちらの記事などを読むと、理事長以下、誰も不正など手を染めている信用組合だとは思わないでしょう。積極的に地域の創生に貢献する金融機関としての評判が高まれば、おそらくステークホルダーの目も曇ってしまうのでしょうね。これもまた現実であり、だからこそ経営トップに忖度しない独立性のある監査体制は大切なのです。

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