株主総会の争点にAIリスク-「人権」よりも「宗教」(と思う)
6月11日の日経ニュースにおいて「株主総会の争点にAIリスク バークシャーで監督委員会提案、日本に波及も」との見出し記事が掲載されています。上場企業の経営陣に人工知能(AI)のリスク監視を求める株主提案が米国で広がり始めた、とのことで、当該株主提案には、通常のESG提案の倍近くの賛成票が集まる傾向にあるそうです。議決権行使助言会社の米グラスルイスも、今年1月以降、日本企業の株主総会にAI関連の指針を適用しているようで「監督や管理が不十分なため株主に損害を与えたと明確に判断されれば、取締役の選任に反対助言することがある」とのこと。
「今後は日本企業にも波及し、AI統治の体制整備への関心が高まりそうだ」と報じられていますが、私も同感です。先日ご紹介させていただきましたが、日弁連「自由と正義」最新号(2025年5月号)に掲載された拙稿「実務法曹が社外取締役として活躍する環境について考える」でも、私は「ガバナンスは攻めと守りを一体で考えなければいけない理由」として、インオーガニック戦略、オーガニック戦略、ファイナンスと並んで、この「AI投資(AI規制)」を掲げました。
(以下はまったくの個人的意見ですが)機関投資家の方々(海外)の仕事に携わるなかで、人権は政治との距離が近いけれども、AI規制は宗教との距離が近いのではないか、単純にAIの弊害を(プライバシー権や名誉権等の)人権問題と狭く捉えることはマズイのではないかと考えるに至っております(AI投資への監視団体に集まる寄付金の大きさが半端じゃないように思えるのです)。AI倫理という問題を超えて、そもそも宗教的教義をAIが解釈するということは神を否定することにつながるのではないかと。AIの社会実装化がものすごいスピードで進む中、AIと聞いて「人権」とか「倫理」という言葉は想定できても「宗教」という言葉は想像つかないのかもしれませんね。
そういえば昨年6月18日の日経ニュース「牧師もブッダもAI『生成された神』に祈れるか」と題する記事でも、宗教界におけるAIへの拒絶反応が語られていました。宗教との関連性という意味では、日本企業にとって弱点であり、とりわけ外国人保有比率が高い上場企業においては痛い目に遭ってはじめて重大リスクに気づくのかもしれません。
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ChatGPTは情報提供の制限を緩めユーザーに判断させる領域を増やす方向にAI倫理を改訂しました。AI利用者にはAIの提供する情報の信頼性や偏見を評価する批判的思考力がより必要となります。企業においては企業倫理・行動規範がその判断基準となりますが、日本企業の多くは宗教や武士道など個人の道徳(善悪)に頼る傾向があり、企業倫理は具体性に乏しいと思われます。AI倫理対応として批判的思考力をサポートする企業倫理・行動規範の改善が必要と考えます。YouTube「企業文化レッドピリング」にてAI倫理対応について配信しております。機会がございましたら視聴くださると嬉しく存じます。
投稿: 稲垣浩二 | 2025年6月23日 (月) 18時36分