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2025年7月 1日 (火)

地方自治体におけるカスハラ事例で初の警告書送付(追記あり)

令和7年6月4日に参議院本会議で可決・成立した改正労働施策総合推進法により、事業者のカスタマーハラスメント防止義務(雇用管理上の措置義務)が明記されましたが、三重県桑名市ではカスハラで初の警告が出されたそうです(読売新聞ニュースはこちらです)。市は概要を市ホームページに掲載し、今後もカスハラ行為を継続すれば氏名を公表する、とのこと。 令和7年4月1日より「桑名市カスタマーハラスメント防止条例」が施行されていますので、当該条例に基づく措置ですね。ちなみに桑名市の防止条例には事業者における体制整備義務についても明記されていますし、防止条例の逐条解説では行為者の氏名公表と個人情報保護法との関係整理についても言及されています。

ちなみに「氏名公表」は個人名だけなのでしょうね。顧客の従業員によるカスハラのケースで、顧客事業者名の公表というものはないのでしょうかね。

人的資本経営を進める企業としても、今後は①カスハラ防止方針の策定、②相談窓口の設置によるカスハラの早期発見、そして③具体的な救済手続きが求められますが、カスハラの難しいところはこの②早期発見と③救済手続きです。カスハラはパワハラやセクハラと異なり、未然防止措置が困難なので、どうしても(第三者の関与を前提とした)救済が必要な事例が一定程度は発生します。カスハラ事案をできるだけ早期に発見して、速やかに対処することが要請されますが、上記桑名市の事例では弁護士による委員会が被害社員と顧客双方の意見を聴いてカスハラ認定をしたそうです。

BtoCのカスハラ以上に難しいのがBtoBのカスハラです。顧客企業の従業員による自社従業員へのパワハラ・セクハラは、その対処を誤ると取引関係の解消につながるので調査にも神経を使います。しかしだからといって気を使いすぎて顧客企業による「優越的地位の濫用」を許すわけにはいかないでしょう。だからこそ、救済手続きには研修が必要ですし、弁護士の関与を検討する場面も多いかと思います。顧客企業から名誉毀損や信用毀損などと非難されないためにも、事前のカスハラ対応方針の策定と具体的なプロセスの記録が求められます。このあたりは厚労省が公表している「カスタマーハラスメント対策マニュアル」がとても参考になります(とくに後半部分)。カスハラ判定の基準となる顧客の要求内容の妥当性と要求方法の相当性をどのように統一的に解釈するか、組織としての適切な運用が求められます。

ちなみに、毎度申し上げているところですが、カスタマーハラスメント対策は最初から100点の対応など絶対に無理でして、60点くらいを目指しましょう。何度も失敗を繰り返すうちに、組織にカスハラ対応の知恵が蓄積されていくのがベストです。失敗をおそれていてはいつまで経っても知恵が蓄積されず属人的な要素に頼ることになります。なお、失敗には「許される失敗」と「許されない失敗」があるので、その区別を熟練の専門家に尋ねることも検討したいですね。

(7月1日追記)本日の朝日新聞ニュースでは、「カスハラ『解約になっても我慢するな』セコム社長が考える人材投資」なる記事が掲載されており、セコムの吉田社長が基準を超えた顧客に対しては「解約になってもいいから、我慢はするな」と社内に発信したことを報じています。「会社で一番大事なのは社員」と言い切る姿勢こそ「人的資本経営」がリップサービスではないことを証明しているものと思います。御社ではここまで経営者が発信できますでしょうか。

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