« 株主総会の争点にAIリスク-「人権」よりも「宗教」(と思う) | トップページ | 投資家が監査役会(監査等委員会)の活動開示として期待すること »

2025年6月18日 (水)

日本郵政グループの内部通報制度-何がマズかったのか?(個人的意見)

国土交通省の監査を受け、トラックなど運送事業の許可を取り消されることになった日本郵政グループ内の日本郵便ですが、この不祥事だけでなく、日本郵政グループでは不適切営業など、次々と大きな不祥事が発覚しています。そして、そのたびに内部通報制度が機能しなかったことも報じられています。もちろん外部窓口だけの責任とは思いませんが、たとえば今年4月30日の「日本郵政、内部通報の窓口刷新『鳴らない警鐘』改善?委託先3分割」、そして本日(6月17日)の「不適切点呼、3年前に内部通報『違反ない』対策取らず 日本郵便」「届かなかった内部通報『カメラ映像見てくれれば』郵便局の点呼問題」など、ため息が出てしまいます。

私も2021年9月のエントリー「日本郵政の新しい内部通報制度-社外調査チームの陣容がスゴイ」で東京の著名法律事務所による外部窓口体制を称賛しておりましたので、とても残念です。せっかく多くの予算をつぎ込んで内部通報制度を充実させたにもかかわらず、なぜ日本郵政グループは自浄作用を発揮できないのか。個人的な意見ではありますが、以下のとおり分析をしております。

まず一つ目として「全体に拡散していることへの想像力不足」が挙げられます。一つ一つの内部通報には真摯に対処していたとしても、その個別案件の解決だけに注力していて、「この不祥事は組織全体で起きているのではないか」といった疑惑から類似案件調査に及ばなかったケースです。外部窓口担当者と経営陣との連携がなければ類似案件調査にまでは発展しないのかもしれません。

二つ目が「当該通報案件に対する社会的影響力への想像力不足」です。長年、その組織で「悪しき慣行」として発生している不正については、悪質性を感じる意識が社内で鈍麻しており、世間で報じられた際には「こんなに大きな問題なの?」「なぜ大きく報じられてしまうの?」とギャップを感じてしまうケースです。とくに公表するほどの不祥事ではない・・・と「平時バイアス」に押し切られてしまうタイプの事例ですね。

そして最後が外部窓口担当者の独立性に問題があるケースです。日本郵政グループのケースでは、窓口担当事務所が内部通報以外にも調査案件を担当していたそうですから、中立公正性が維持できなかったのではないかと危惧します。もちろん当事者から見れば「独立公正な立場で職務を全うしていた」と考えておられると思いますが、これも評価は難しいですね。上記一つ目や二つ目のような場面に遭遇した際に、経営陣に調査の重要性をきちんと述べることができるかどうか。

最近の企業不祥事をみていて、いかに早く経営陣に有事意識を持ってもらえるか・・・、ここに危機管理の成否に関する分かれ目があると思っております。ちなみに私が外部窓口を担当している企業では、(どこも社外役員が増えていますので)すぐに社外取締役さんのところに連絡をして、危機意識を共有していただくようにしています。経営執行部からは嫌がられることがありますが、結構まじめに動いてくれる社外取締役さんが多いので、窓口担当者としてはありがたい存在です。

|

« 株主総会の争点にAIリスク-「人権」よりも「宗教」(と思う) | トップページ | 投資家が監査役会(監査等委員会)の活動開示として期待すること »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 株主総会の争点にAIリスク-「人権」よりも「宗教」(と思う) | トップページ | 投資家が監査役会(監査等委員会)の活動開示として期待すること »