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2025年7月 7日 (月)

「インサイダー取引はかならずバレる」は都市伝説?

7月4日の朝日新聞デジタル記事「夫はインサイダー取引で『貯蓄2千万円』 打ち明けられた妻の決断は」(有料記事)を読みました。金融商品取引法違反(インサイダー取引)によって地裁で有罪判決が下りた三井住友信託銀行元部長の公判での証言をもとにした内容です。昨年10月25日の拙ブログ記事「東証社員によるインサイダー取引疑惑-どうなる市場の公正性確保」で懸念していたことが、まさに公になってしまいました。

いつも報道されるのはインサイダー取引によって有罪となったり、課徴金納付命令が課された人の話ばかりで、バレなかったり、バレる前に止めて助かった人の話は報道されません。そこからどうも「インサイダー取引は必ずバレる」という都市伝説が生まれたのではないかと推測しておりました。いや、「インサイダー取引はかならずバレる(発覚する)」というのはもはや教訓に等しいもので、よく「どうしてバレるのに人はインサイダー取引に走ってしまうのだろう」と語られますね。私も講演等では「不正によって得た利益とは比べ物にならないほどの不利益を受ける、家族さえ不幸にしてしまう」ということを申し上げるのですが、上記朝日新聞ニュースは「パンドラの箱」を開けてしまったようです。そうです、インサイダー取引がバレるのは実は(規制当局の人的資源に限界があるので)「運次第」なのかもしれません。

上記元部長さんは、企業の重要情報に(公表前に)接することができる職場の課長→次長→部長になるまでインサイダー取引を繰り返していた、とのことであり、目的は老後に安心して暮らせるだけの貯蓄をしたかったそうです。おそらくインサイダー取引を繰り返しているうちに規範意識が鈍麻していったものと思いますが、それでも上記記事を読む限り、これまでも「ほどほどのところでバレないうちにインサイダー取引を止めて儲けた人たち」「老後資産を蓄えた人たち」はかなりいるのではないでしょうか。このような不公平が現実ならば証券行政にとって由々しき問題だと思います。

また「インサイダー取引はバレない、バレるのは運が悪かったから」となりますと、企業としても真剣にインサイダー取引防止体制を性悪説の観点から検討すべきです。未然防止のために役職員に教育をする、情報障壁を徹底する、ということだけでなく、役職員がインサイダー取引に手を染めていることを前提とした早期発見型の内部統制システムの構築運用(IT技術、AIを活用したフォレンジック等によるリスク管理)まで必要になるのではないかと。今のところ上記朝日新聞ニュースはあまり話題にはなっていないようですが、そういったことを考えるきっかけになりました。

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