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2025年8月26日 (火)

大川原化工機冤罪事件と「裁判官の独立」

週末、妻は映画「国宝」を大きな映画館で堪能していましたが、私は映画「桐島です」を十三(じゅうそう)の小さな映画館で観てきました(もちろんシニア割引1,300円)。ガンで倒れるまで居住していた劇中のアパートは、実際に彼が居住していたアパート(藤沢市)よりも数段キレイでしたね。それにしても、あれだけ全国に指名手配の写真が貼られているにもかかわらず、小さな工務店に普通に勤めていて、ライブハウスの常連として友達も(恋人候補も?)いて、どうして50年近くも捕まらなかったのか。そしてなぜ亡くなる間際に「東アジア反日武装戦線の桐島です」と名乗ったのか、正直映画を観ても釈然としませんでした。ただ、そのような謎多き桐島聡を毎熊克哉が好演していました。

さて、8月25日、大川原化工機冤罪事件で、警視庁と検察の幹部が、逮捕・起訴後に体調が悪化し、保釈が認められないまま72歳で亡くなった同社元顧問の相嶋静夫さんの墓を訪れて、遺族に謝罪をされたそうです(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。警視庁と最高検が今月7日に捜査の検証報告書を公表したことを踏まえ、謝罪が決まったとのこと。

最高検の検証報告書は(踏み込み不足との批判はあるものの)一連の対応を「深く反省しなければならない」とした一方で、最終的に保釈を認めるかどうかを判断した裁判所は、その是非を検証しようとはしないようで、裁判所当局が検証しない背景は、憲法が定める「裁判官の独立」を脅かしかねないとの考えがあるからだと解説されていますね。もちろん、ひとりひとりの裁判官の責任追及につながるような検証作業については憲法が保障する「裁判官の独立」を侵害する可能性はあると思いますが、裁判所という組織の構造的不備に光を当てた検証であればとくに問題ないはず。

我々が第三者委員会の調査を行う際にも、役員個人の責任には触れずに、組織に横たわる構造的問題を掘り下げて「不適切」と判断することも多いので、そのような検証作業を最高裁も行うべきではないでしょうか。当ブログでは過去から「法人処罰の必要性」について何度もエントリーに書かせていただきましたが(たとえば2017年のこちらのエントリー)、裁判所が(両罰規定を経由することなく)法人自身の刑事責任を認める時代が到来しないと、こういった裁判所の自己検証にも前向きにならないような気がいたします。

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2025年8月21日 (木)

東洋ショー劇場への行政処分から学ぶ「企業コンプライアンス」

事務所から徒歩でも行ける(?)天満・東洋ショー劇場が現在営業停止処分中だそうです(最近、あまり天神橋筋商店街に出向くことがないので全く知りませんでした)。8月20日の産経新聞ニュースによると、劇場の経営者は公然わいせつ罪で略式起訴され、大阪簡裁が罰金30万円の略式命令、これを受けて府公安委員会が(劇場に対して)行政処分として、今年5月から来年1月までの8カ月間の営業停止を命じた、とのこと。

上記産経新聞の記事は、いたって「まとも」な内容の記事ではありますが、残念ながら「なぜ東洋ショー劇場が摘発されたのか」という根本理由については、当然の法令違反の事実以外には触れられていません。「刑事法の違反行為があれば逮捕される」はその通りなのですが、誰もが思っているはずです・・・そんなの、どこでもやってるやろ?なんで東洋ショーだけ?。しかし経営者の刑事罰は罰金30万円なのに「営業停止」(行政処分)は8カ月という重い処分、この「ギャップ」すごいと思いませんか?

企業の法令違反に刑事司法や行政が動くかどうか、という点は、企業コンプライアンスの核心に迫る問題です。法令違反行為についての摘発や行政処分についてもファジーな面があり、上記東洋ショー劇場の摘発・行政処分も、この「ファジー」なところで一歩踏み出してしまったところがマズかったと思います(詳しい解説は差し控えます)。かつてビジネスホテルとして運営していた〇〇ホテル(外観上は誰が見ても〇〇ホテル)が風営法違反で摘発された事例をご紹介したことがありますが(たとえば2008年のこちらのエントリー)、これに類似したところもあります。

①捜査・調査機関の人的・物的資源には限界がある、②しかし今の時代、規制権限者が不正を放置していると行政手続法36条の3により(もしくは市民団体の運動等により)国や自治体の不作為の違法性を追及されるおそれがある、③経営者や法人に刑事罰が科される(たとえ軽微でも!)ことが前提となり、行政による強大な処分裁量権が発動される、といったあたりは、法令違反行為が企業の社会的評価に与える影響を検討するにあたって重要なポイントとなります。

毎度申し上げているとおり、残念ながら企業不祥事が発生するかどうかは「運」でありまして、どんなに誠実な企業でも不祥事は発生します。ただその発生した不祥事が企業の社会的信用を毀損させるかどうかは企業の日ごろからの行い次第です。経済法違反や環境法違反、労働法違反等によるコンプライアンス問題を、いかに企業の信用問題にまで発展させずに済ませることができるか。2005年のブログ開設以来、ずっと「行政法専門弁護士待望論」を主張しておりますが、先の東洋ショー劇場のような事件に関わった経験を有する弁護士に相談ができれば、おのずと企業のコンプライアンス経営への重要な示唆を得られるのではないかと思うところであります。

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2025年8月18日 (月)

「自社の決算書は信頼性が高い」は認知バイアスではないか?

8月14日に公表された「東京商工リサーチ社のアンケート調査」によりますと「上場、未上場問わず粉飾決算の発覚が相次ぎ、財務諸表への信頼が揺らいでいる中で、6800社余りの有効回答によるアンケート調査結果から、自社の決算処理について「信頼性が高いと言い切れる」と回答した企業は87.9%にとどまり、9割に届かなかったことが判明したそうです。調査結果については興味深いのですが、素朴な疑問についてひとこと。

東京商工リサーチさんは「9割に届かなかった(1割以上の企業が粉飾決算のおそれがある?)」ことを問題視されているように思えますが、むしろ私は「87%もの企業が『自社の決算書は信頼できる』と回答していることに驚きました。世間を騒がせる粉飾決算の芽は、こちらの9割弱の企業のほうに潜んでいると考えています。

認知バイアスの代表例として「自己奉仕バイアス」「平均以上効果バイアス」をご存じの方も多いと思いますが、「自分の自動車運転は平均以上である」と考えている人が7割から8割であることは実験から明らかです(たとえばダイヤモンド誌の記事)。これまで事故なく経理処理が行われていれば「信頼できる」との回答に行き着くことは明らかであり、なぜ信頼性が高いのか、その根拠はかなり薄弱ではないかと推測します。

また、このアンケートでは「なぜ決算書が信頼できない」と回答したのか、その理由を聞くと「税理士や会計士にまかせっきりにしているから」との回答が多かったことが示されています。しかし、そもそも「決算書を信頼できる」と回答した企業だって「まかせっきり」にして、税理士や会計士から適正意見の表明がなされたから「信頼できる」と回答したのではないかと。つまり「専門家からお墨付きをもらっているから問題なし」と判断した、との回答理由が多いと思います。これは粉飾が発覚したときの企業経営陣の「言い訳」と同じですよね。

さらに、企業が対外的に「当社の決算処理には不安がある」と回答する企業のほうが、担当部署に回答権限を委ねている(経営陣に忖度しない)点や、自社のリスクを冷静に認識している可能性が高いので、むしろリスクマネジメント能力や誠実性は高いのであり、会計不正や誤謬が発生したとしても早期に発見できる確率も高いものと考えます。自社の決算処理について信頼性に疑問がある、と回答している企業のほうがステークホルダーからみれば信頼できるのではないでしょうか。

2024年度、内部統制に不備があるとして開示した企業は(過去最高の)58社でした(こちらも東京商工リサーチさんのリサーチより)。これは全上場企業のわずか1.5%です。本来、J-SOXは決算の信頼性に問題があることを開示する制度であるにもかかわらず、実際には不正や誤謬が発生した後に「不備がありました」と公表する「後出しじゃんけんの制度」になってしまっています。自社の決算処理に不安があることを認識しつつ隠している、ということよりも不安があることに気づいていないことのほうが重症だと思います。

 

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2025年8月15日 (金)

一定規模の企業に内部通報(外部窓口)設置義務を-大川原化工冤罪報道に思う

8月14日の毎日新聞ニュース(特報)によりますと、警視庁公安部による冤罪(えんざい)「大川原化工機事件」で、逮捕された大川原化工機社長らが起訴される5日前の2020年3月、公安部の捜査員が警視庁の監察部門に対し、捜査の過程で違法行為があったと内部通報していたことが判明したそうです(別のニュースによると「捜査員の3分の1が起訴に反対していた」そうです)。しかしながら監察部門はこれに何らの対応もしなかった、とのこと。本日付けでは毎日新聞の特報ですが、これが事実であればきわめて重大な組織不祥事であり、他のメディアでも大きく取り上げられるべき問題案件ではないでしょうか。

本日、「たかさん」から別のエントリーに(本報道を受けて)以下のとおりコメントをいただきました(どうもありがとうございます)。

2025年8月14日付の毎日新聞報道によれば、「大川原化工機事件」において、起訴前に複数の警部補クラスの警察官が上層部に対し、良心に基づき重大な問題点を内部通報していたにもかかわらず、その声は握りつぶされ、証拠の廃棄やもみ消しが行われた疑いが浮かび上がっています。この事案は、現行の公益通報者保護法が「通報を守る」だけでなく、「通報を活かす」仕組みを欠いていることを如実に示しています。現行制度では

•通報を受けた組織が調査や是正を行う義務の実効性が弱い

•通報が握りつぶされることを防ぐ独立ルートが脆弱

•捜査機関内部の通報制度が十分に整備されていない

といった問題があることが記事から読み取れます。今後、次のような制度強化が議論されるべきではないでしょうか。

1.調査・是正義務の強化と外部検証制度の導入

2.独立した外部通報窓口の常設(司法・警察内にも設置)

3.不利益取扱いの厳格な禁止と違反時の制裁強化

4.証拠保全義務の明文化と刑事罰化

今回、公益通報を行った複数の警察官は、職務倫理と市民の安全を守るため、組織内の圧力やリスクを承知で勇気ある行動を取りました。このような人達こそ「真の警察官」であり、国民は賞賛の声を上げるべきです。さらに、行政府を担当している国家議員や立法府を構成している国会議員に対し、こうした人材を警視や警視長など警察組織における管理監督者の立場に抜擢し、組織の立て直しを担わせるよう求めることは、今を生きる私たちの権利であり未来の世代のための責務でもあります。公益通報者を守り、活かし、評価することができる社会こそ健全です。更なる制度改正と国民的意思表示の両輪で、二度とこうした事案を繰り返さない仕組みを築く必要があります。

本件は「指揮命令系統の機能不全が原因だった」と発表されていますが、このような事実が明らかになると、もっと担当者の個人的な責任が追及されるべき原因があったのではないかと思います。もちろん上記毎日新聞ニュースの報道内容が真実であることが前提ですが、本件は次の公益通報者保護法改正に向けた立法事実として記憶に残しておく必要があります。

また、私の印象では内部通報のもみ消しは普通の企業でも発生しているものであり、たとえばオルツの事例(ただし通報者が存在したかどうかは明らかにされず)やいわき信用組合の事例でも、独立した通報受領機関があれば全く異なる状況に至ったはずです。たかさんも指摘しておられますが、一定規模の企業に対しては、高い費用をかけて不正予防措置を構築するよりも、不祥事が起きた場合を想定して(つまり早期発見を重視して)外部に内部通報の窓口を設置することを義務化すべきではないでしょうか。人的資本経営が謳われ、労働人口の流動化も進んでいる中で、もうそろそろ内部統制構築義務の具体的な内容を法制化すべき時期に来ているように思います。

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2025年8月 9日 (土)

東京コスモス電機(株)の特別調査委員会委員長に就任いたしました。

昨日の大成建設によるマリコン東洋建設へのTOB公表(東洋建設も賛同)には驚きました(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。当ブログを長くお読みの方はご承知のとおり、私は2023年、東洋建設の社外取締役に(賛成票が0.4%足りずに)なりそこねた者なので、もし社外取締役になっていたら「特別委員会委員」としてたいへんな激務になっていたことでしょう・・・。うーーーん、残念といえば残念(笑)。

さて、上記TOB公表の10分ほど前に開示されました東京コスモス電機(東証スタンダード6772)の「特別調査委員会設置のお知らせ」記載のとおり、当職は同社の特別調査委員会の委員長に就任いたしました。内容についてのコメントは控えますが、体調に留意しながら、また誠実に職務を遂行するつもりです。また新しい景色をみることができそうで、しんどい仕事かとは思いますがワクワクしております。

今年はこれで調査委員会による調査業務は4社目となりました(フジメディアホールディングス、AGP、非上場企業-報告書非開示-1社に続き)。いつも調査が始まるとブログの更新が滞りますが、最近は調査がなくても滞りがちなので(笑)、せめて最近のペースくらいは守りつつブログを更新していくつもりです。

お盆休み後も、引き続きよろしくお願いいたします。

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2025年8月 5日 (火)

オルツ会計不正事件の印象-架空循環取引は、これからも「ハロー効果」によって繰り返される

8月4日の東洋経済(有料版)記事「監査法人・大手VC・証券会社・東証…オルツの『単純な循環取引』を見破れなかった真因 創業者の主導の下、財務責任者もあっさり不正の"中心人物"に」は、架空循環取引を見逃したステークホルダーに光を当てたものでしたが、本日は私も「不正見逃しの真因」について個人的な感想を述べておきます。

オルツ社の会計不正(架空循環取引)事案について、第三者委員会報告書を一読し、さらに2021年頃から直近までの同社主催カンファレンスの様子を動画で視聴しました。いやいや、同社のカンファレンスはすごくカッコいいですね。後から「ほらみろ、やっぱり怪しかった」と指摘するのは簡単ですが、あのカンファレンスを視聴して、おそらく会計不正事件とは無縁の会社と信じる人も多いのではないでしょうか。地域の経済復興に貢献する姿勢を前面に出して不適切融資を長年隠ぺいしてきた「いわき信用組合」と同じ匂いを感じます。

まさに認知心理学上の「ハロー効果」です。ステークホルダーが最初に好感を持つと、後から出てくるネガティブな印象は、当該ステークホルダーが自分で都合よく解釈してしまうという人間の弱さを見せつけられるような事件です。たとえばオルツ社の例では①著名なVCが先行出資を行い、さらに継続保有していること、②業績右肩上がり(のような状況)の時期において、大手証券会社出身者をCFOに迎えたこと(この方のカンファレンスでのプレゼンがスゴイ・・・)、③著名な大学教授が同社の顧問として登場して「日本をけん引する同社の未来」について語っていること、④大手名門企業が次々と事業上のパートナーとして提携を発表すること等々。いや、これだけてんこ盛りだと「架空循環取引の疑いがあるのでは」と想像することもなく、さらに疑惑を抱いたとしても声を上げることはかなり困難かと(「お前はスタートアップ市場のことを何も知らないのでは?」と嘲笑されることを畏れるかもしれません)。

さらにAIという最先端の商材を扱う企業であるがゆえに、仮に「おかしい」と感じる市場関係者が出てきたとしても、保険をかけることで損失を回避したい人たちがたくさんいらっしゃるのではないかと。「あの証券会社が主幹事なのだから」とか「日本の代表的なVCが出資して(さらに継続保有して)いるのだから」とか「大手監査法人が監査を担当しているのだから」といった理由で(ほとんどリスクについて考えることもせず)出資に至った人たちも多いと思います。最先端の技術を扱う企業のIPOの世界ですから、一体これから何が起こるかわからず、リスクが顕在化した場合には(少なくともわが社の)責任を回避したい気持ちもわかりますね。

もちろん、今後、会計不正を防止するための内部統制や取引所規制が厳格化される可能性もあるかとは思いますが、上記のようなハロー効果や損失回避慣行が市場に蔓延る(はびこる)以上、残念ながらIPO直前期から会計不正を画策する企業の上場を未然に防止することは不可能だと思います。残る道は不正会計を早めに見つけて警鐘を容易に鳴らせるようなシステムを構築する以外にはなさそうです(ちなみにエフオーアイ事件では、声を上げた内部監査部長さんが退職を強要されるという悔しい状況でしたね)。

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